暗雲に覆われた、時折響く雷鳴だけが光を思い出させる、暗い世界。
神に追われた者が住まう魔界。
そんな魔界に在る大きな城の一室で。
外よりも遙かに静かな雰囲気に。
今なら外の方が、気分的に幾らか楽かもしれない。
そんな風に考えながら、嫌な静けさに包まれた部屋でヒムはそっと溜息を吐いた。




「なぁ・・・・」

「煩い、手を動かせ。」

「・・・・・・なぁしか言ってないんだけど、俺。」


そんな素気ないハドラー様の返事にむっと頬を膨らませるポップ。
この際、お前幾つだとか、そもそも男だろうとか、男のクセに妙に拗ねた態度が板についてるなとか。
そう言う感想はいい加減年中の事だから横に置いておくとして。
益々息苦しくなる空間にこのままでは進みそうにないサイン待ちの書類の山を見てこっそり溜息。

大体にしてだ。
そもそもハドラー様自体がこう言う細々した事が好きじゃない。
いや、俺もかなり嫌いだけれど。
寧ろ戦ってる方が好きな根っからの軍人体質なのだ。
魔界を統一する。そんな野望・・・と言うか目標と言うか。
それを目指した最初の頃こそ、常に戦いに明け暮れたけれど、
ある程度支配が進めば、当然戦いは減り、
増えるのは統治した地の細かな取り決めに関する書類へのサインと部下からのお伺い。

いや、な?
勿論俺だってわかってるんだわ。
面倒だろうがなんだろうが、支配すればそれに伴う責任ってのがある。
恐怖と力で支配しようが、もうちっと穏便に支配しようが、その辺は変わらずに。
いくら部下に任せようとある程度の方向性を示さないといけないし、
領土が増えれば増えた分だけそれは増えていくもんだ。
あぁ・・・話がそれた。

兎に角だ。
ハドラー様はそもそもこう言う細かい事がお好きじゃない。
まぁ、それは良いんだ。
それこそ人間の様な何代も続く国の王ってのならいざ知らず、
一代でここまで統治、支配した魔界の魔王様ってのは戦う方が好きで当り前だろうし。
そう言う方だからこそ、ヴェルザーと肩を並べる程の強大な魔王にまでのし上がれたんだろうからな。
だから問題はそっちじゃない。
問題なのは。


「飽きた。」


なんて一見ガキみたいな事を呟いて。
書類に見向きもしなくなったコイツの方。
魔王ハドラーの一番の側近にして軍師。
幾多の魔法を使いこなし不可能を可能にする奇才、大魔道士ポップ。
とまで世間じゃ言われてるんだけどよ。
実際、ヴェルザーん所と遣り合うにゃ、コイツが不可欠だけどよ。
一皮向けば、こんな手の掛かるヤツだってのはどうすりゃいいんだろうな。
こんなん部下に見せらんねぇだろうよ。
つーかもう少しやる気出せよ。
本気だしゃ、こんな書類2時間もあれば終わるんだからよ。


そこまでツラツラと思考を巡らせる俺に、ハドラー様が用紙の補充の為に声を掛ければ。
益々膨れた、と言うよりはやる気なさそうに頬杖まで付いて外を眺め始めるポップの姿を視界に捉える。
駄目ですハドラー様、逆効果です。
そこで俺に声掛けないで下さい。
いっそ空気くらいの感じに思ってください。
じゃねぇと色々おわらねぇんです。

そうは思いつつも、仕方なしに用紙の補充をすればちらりと向けられる主の視線に、
俺は肩を竦める。
拗ねたのを何とかしろって事なんだろうけど。
自分で何とかして下さいよ。

大体にして、ハドラー様が悪いんすよ?
無骨といえば聞えは良いかもしれないんでしょうが、俺に言わせりゃ鈍いんす。
下見を兼ねた遠征にポップを置いて出られたのが3日前。
今日漸くお戻りになられたってーのに、戻るなり書類のサインに取り掛かられりゃ、
そりゃ、拗ねるでしょうよ。

ただの主と部下なら、気が向いた時に褒美の一つでもやれば良いだけでも、
貴方とポップの関係はそうじゃないんだから、もう少し気の効いた事でもしてやりゃいいのに。
そうすりゃもうちょい効率も上がるのに。
プライベートまでは知らないが。いや、正確には知りたくないが。
あんまり普段と変わらないんだろうなと思えば、
拗ねる気持ちも3千歩くらい譲れば理解出来なくもない・・・・かもしれない。
本当、お願いしますから。
もうちょい自分の恋人くらい上手く扱ってくださいよ。
抱きしめてキスの一つでもすりゃ、アイツは上機嫌で仕事してくれんでしょうから。
つか、俺が宥めていいんですね?


「ま、茶でも飲むなり菓子でも食うなりして、一息入れようや。」

「・・・・・いんねぇ。」

「そう言うなよ。アレだ、この前お前が作ったヤツ。
あの妙に長い名前のヤツが食いてぇなと思うんだけどよ。」

「・・・・スフォリアテッラ?アプフェルシュトゥルーデル?」

「あ〜・・・リンゴ?が入ってるヤツの方。」

「ならアプフェルシュトゥルーデルだな。
つか休憩すんなら俺が作るのおかしくね?」

「細かい事は気にすんな。
手伝うからよ。」


な?と重ねて問えば。
このまま此処で微妙な空気の中書類に向かうよりは、一息入れた方が賢明と判断したのか、
そうするか、と苦笑交じりにポップが肩を竦めて見せた。
まぁ此処だけの話。
ハドラー様に似てるらしい俺のお願いは割合聞いてくれるってーのもあるんだけどな。

とにかく、だ。
これで菓子でも作ってる間に機嫌も少しくらい良くなってくれりゃ良いんだけどな。
その間にハドラー様が書類終わらせてくれれば、もう言うこともない。
後は二人でのんびりでも何でもどうぞってなもんだ。
そう思いながら、立ち上がるポップからハドラー様へと視線を向けて。



・・・・・・いやもう。
勘弁してくれませんかね、マジで。
そんな苦虫を噛み潰した様な顔するくらいなら、俺に頼まなきゃいいじゃねぇですか。
つか、ご自分が聞いた事もない様な話してんのも気に入らないんすね。


「・・・・なんつー不器用な・・・・」


思わず口から零れた言葉は小さすぎて、どっちの耳にも入らなかったけれど。
たとえ耳に入ったとしてもこれくらい許される筈。
コホンと一つ咳払いして、俺は手に持っていた書類の束を置けば、
ハドラー様の表情には気付かなかった事にして、一礼してそのままポップと外に。
もうアレだ。
ご自分が何とかしろって言ったんだから何とかします。
なので其処から先はもう知らねぇです。知りたくねぇです。

それに。
俺は貴方の息子みたいなもんらしいっすよ?
で、ポップは俺の母親みたいなもんならしい。
全部アイツの請売りですが。
男なのに母親で良いのかとか、そんなもんはこの際無視するとして。
息子なら・・・・ねぇ?



It is mother's ally
(これに懲りたら恋人くらい上手く扱ってくださいよ?)


3周年御礼企画第三弾は
ハドポプ+ヒムでヒム視点。
個人的副題は「ハドラー一家」←ぇー

ヒムは二人に挟まれて苦労してると楽しいなと思います、個人的に。
んで最終的にママンポップの味方すればいいよ。
作品の傾向としては
ほのぼの
を取り入れさせていただいたのですが・・・・・・すいません;タイトルから遊びすぎました・・・orz
激しく反省しておりますです、はい;

ハドポプもネタはありますので、ちょこちょこ更新できたら良いなぁと思っておりますので、
どうかこれからもご愛顧頂ければ幸いです。
ご拝読ありがとうございました(礼)


*この作品は、無期限でフリーとなっております。
悪用厳禁、一般マナーさえお守り頂ければ報告も無用です。(報告頂ければ嬉しさで小躍りしますが/笑)
どうぞお気に召しましたらばお持ち帰り下さいませ。



あ、ちなみにですね。
フォリアテッラはイタリアのお菓子で、
アプフェルシュトゥルーデルはオーストリアのお菓子。
個人的にはフォリアテッラが好きです。←聞いてない

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