澄み渡る空。
一点の曇りもないそれは、まるで今日この日を祝福している様だと。
ポップは小さく笑った。

ロモスの小さな村で今行われている結婚式は、
村を上げてとも言える位に盛大で。
どれだけ彼女が愛されているかが如実に現れている。
そう、まさに彼女は聖母の様な人だった。
慈愛を湛え、惜しみない愛情を他者に注ぐ彼女が、
漸く己の愛を注げる伴侶を見つけた事は、
彼女の仲間や家族にとって祝福以外の何ものでもないだろう。


そうして、それは今僅かに離れた場所から彼女を見つめるポップにも言える事だった。

厳粛な鐘の音と共にドレスを纏い現れた彼女は、
かつて共に過ごした少女の面影を残したまま幸福そうな笑みを浮かべ
仲間と笑い会っている。
そんな彼女の様子に、ポップもまた幸福そうに笑うのだ。


かつて自分が本気で愛した彼女だからこそ。
誰よりも幸せになって欲しいと願っていたから。


「ま、隣にいるのが俺じゃねぇってのが不満って言えば不満だけどよ。
・・・・・アイツなら合格だしな。」


しかし相変わらず無愛想だよなとポップは苦笑を浮かべるけれど、
そこに己が言うほどの不満はなく、
それが決して言葉の通りではない事を物語っている。
彼女の隣でぎこちなく笑う銀髪の兄弟子に、
こんな時くらいちゃんと笑えと小さく呟いて。
ポップは一つ伸びをすると満足そうにその場に背を向けた。

会うつもりは毛頭なかった。
ただ、ポップは彼女の、
そしてかつての仲間の。
幸福な姿を一目見ておきたかっただけなのだから。


大戦から丁度十年。
昔と呼ぶには早いが過ぎた時間は確かに過去で。
仲間と違う道を選んだ自分は最早会うべきではないとそう思っている。
確かに懐かしいとは思う。
幸せにとも願う。
彼女やかつての仲間にもし何かあれば、
どんな事をしてでも助けたいと思う気持ちもある。
けれど、何事もなく幸福でいるのならば、
己が姿を見せる必要性を感じられないのもまた確かなのだ。
そして何より。


「・・・・あいつがまたうるせぇだろうしなぁ。」


それが一番面倒だとポップは一人溜息を付いた。
見に行った事を彼は決して咎めはしない。
ただ笑うだけだろう。
眉根を寄せて、少しだけ困った様に。
その表情がポップは酷く嫌いだった。
だからこそ、誰にも告げず一人見に来たのだが。
どうやら自分の行動は徒労に終わったらしい。

今まさに想像したままの笑みを浮かべるダイに、
ポップは再び大きく溜息を吐いた。



今にも謝罪を口にしそうなダイを前にポップは嘆息し、
先に言っておくけどなと呟く。


「絶対謝るなよ?」


謝ったら本気で燃やす。
そう言い切るポップの眼は真剣で。
一度でもゴメンと口にしたら本気で燃やされかねない。
長年に経験でそれを理解しているダイは、
小さく笑い分かってるよと紡ぐ。


「大丈夫、言わないよ?」

「・・・・ならいいけどな。」


俺は優しいから、
メドローアかカイザーフェニックスか選ばせてやるぜ?と、
何処に優しさがあるのか分からない事を悪戯に笑って言うポップにダイは苦笑し、
謝罪の代わりにそっと腕を回し抱き締める。
そうして何も言わないままのダイにポップはこれだからと心の内で呟く。
だから、イヤなのだと。

ダイと共に魔界に旅立ったのはもう何年も前の事。
大魔王と呼ばれたバーンが倒れ、
冥竜王ヴェルザーが封印された魔界は混乱し、
争いの絶えない世界になっていた。
それを収めるべく魔界に行く事を決めたのはダイの意思であるし、
共に魔界で戦う事を選んだのは他でもない自分の意思だ。
それでも、
ダイは時折こうした顔を見せる。
申し訳なさと、後悔が同居した様な、
そんな顔を。

その顔がポップは嫌いだった。


思えば魔界に共に行くと決めた時も、
ダイは何度も聞いたものだ。
いいのかと。
その度に自分で決めた事だと言ってきたけれど、
それでもダイは自分の所為だと思い込んでるのだろう。
決して女々しいのではない。
それだけ心根が優しいのだとポップは知っている。


「・・・・ねぇ、ポップ。会わなくて良かったの?」


抱き締めたまま戸惑いがちに呟くダイにポップは顔を顰める。
成長したのは背だけかと顔を上げて睨み付ければ、
だってと言葉を濁すダイの姿。


「何で会わなきゃいけねぇんだ?」

「何でって・・・・・だってポップがマァムの事好きなの知ってるし・・・
会いたいだろうなぁって・・・・・」


その言葉を聞いた瞬間、
ポップはピクリと米神に筋が立つのを自覚した。



心根が優しいのは知っている。
それがダイらしさであり長所でもあるのだから、
仕方がないと言えばそれまでなのかもしれない。
けれど、いい加減自覚しても良いのではないだろうか。

あれだけ愛した女性は彼女が最初で最後だ。
それはダイも知っての通りの事。
だが。
結局の所、最後に自分が選んだのは彼女ではないのだと。
どうして何時までも理解しないのか。


「・・・・・ダイ?」


少し離れろとダイの腕から逃れ間合いを取ると
なに?と困惑しながらも素直に従うダイにポップはあのな?と満面の笑みを浮かべた。


「お前が優しい奴だって言うのは良く知ってる。
鈍い奴だってのも、そりゃぁ嫌になるほど良く知ってるさ。
けどな?
そろそろ理解したほうが良いんじゃねぇかと
俺としては思ったりもするんだが。
いい加減わかれよ、馬鹿野郎?」


刹那、ダイは真横を灼熱が通り過ぎた。
はっと視線を合わせれば、そこには焔を従え悠然と微笑むポップの姿。
その笑顔はかつて見た事ない程綺麗で、
かつて見た事ないほど恐ろしかった。
確実に地雷を踏んだとダイは理解するが時は既に遅い。
さっと血の気が引き、蒼白になるのを自覚しながらダイが数歩後ろに下がれば。
酷く優しい声が聞える。


「良いか?お前の足りない脳味噌でも良く分かるように説明してやるから、
よーーーく聞きやがれよ?
少しでも聞き逃したら命はないと思え?」

「メ、メドローアだけは止めてね・・・?」

「あぁ、心配するな。
実に簡単に言ってやるから。
もし万が一理解できなくてもカイザーフェニックスで勘弁してやるさ。
遺体くらいないと葬式の時寂しいもんなぁ。
そのくらいの情けはあるぜ。」


死にたくなければ聞き逃すなと続け、ポップは更にダイへと歩みを進める。


好きかと聞かれれば当然好きに決まっている。
でも愛してるとは違う。

愛や恋では納まらない。
そんなに単純ではないこの感情。

何に変えても支えたいと思う程特別で。
何を置いても守りたいと程大切なのは。

だた一人。


「惚れた女を置いてまでお前を選んだ気持ちをいい加減理解しやがれ!この大馬鹿野郎!!!」


わかったかバカ!!そんな言葉を付け加えて。
肩を怒らせながらさっさと歩き出したポップの言葉が。
彼の迫力と驚きで硬直したダイに届くのは。


ほんの少し、あとの事。


It is early and can awareness is a darling!


3周年御礼企画第四弾は
かなり珍しい事にダイポプで。

姫様とのCPなし話にしようと思ったのですが、
なんでか脳内でダイ様が主張されたのでこちらになりました(笑)

別のCPのお話を期待されて方がいらっしゃいましたら申し訳ないデスorz



*この作品は、無期限でフリーとなっております。
悪用厳禁、一般マナーさえお守り頂ければ報告も無用です。(報告頂ければ嬉しさで小躍りしますが/笑)
どうぞお気に召しましたらばお持ち帰り下さいませ。



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