いい?ちゃんと伝えるのよ?


そう勝気な姫君に発破をかけられ勢いでここまで来たもののどうしたものか。
ポップはカール城の前に立ち小さく溜息を吐いた。
ともすれば逃げ出してしまいそうなくらい怖い。
自分の印は勇気だと言ったところで怖いものは怖いんだから仕方がない。
大体、希望のない告白などすでに勇気とは関係ないじゃないか。
姫には伝えて振られたと報告すればいいし、そもそも伝えてない事がばれたとしても
自分はこのまま旅に出るのだ。
あの姫の事だ。ばれれば怒り心頭で師団一隊くらい投入して捜索されそうだが、
まぁ何とかなるだろう。
すでに大魔導師ポップの名前は望んではいないが一人歩きしていて
そこら辺にいそうな自分が探し人だとは誰も思うまい。

「うんそうだ。そうしよう。」

我ながら良い案だと頷き踵を返し、いざルーラを唱え様とした時背後から声がかかる。

「ポップ様ではありませんか?」

振り返ればそれは何度かあった事のある兵士の姿で。
神様はやっぱりずるをさせてくれないらしい。
そう涙するポップに追い討ちのように兵士が言葉を続ける。

「たった今パプニカのレオナ姫様から伝令が届いた所です。なんでもアバン様にお話があるとお伺いしてます。
さぁアバン様もお待ちですよ。」

訂正。ずるをさせてくれないのは聡い姫様でした。








にこやかに案内してくれた兵士がまるで死刑執行人のようだと思いながら、
ポップは案内された部屋で何度も溜息を繰り返した。
もうすぐアバンが来る。
伝えたい言葉はあるが、聞きたくない事もあるのだ。
自分が伝えるより先にもし結婚の話を伝えられたら?
自分は笑っておめでとうございますと言えるだろうか…。
否、言える筈がない。それが嫌で自分は逃げ出すのだから。
うん駄目だ。やっぱり逃げよう。などと何度目かの決意を胸に窓に手をかける。
「いやぁ、待たせちゃいましたね。すいません…おや?何してるんです?」
まさに絶妙のタイミングで入ってきたアバンに、ポップは引き攣った笑顔を浮かべ
窓枠に足を掛けたままのなんともいえない体制で答える。

「えと…散歩?」
「意味が解りませんから。」
「ですよねぇ〜」

アハハと笑いながら足を戻すポップに、アバンは座るよう促す。

「旅にでるんですか?」
「あ、はい。」

最近着慣れてきた法衣でなく、旅人の服を着込んでる時点でピンと来たのだろう。
アバンはどこか懐かしむようにその姿に目を細めながら頷いた。

「その挨拶に来てくれたんですか?うれしいですねぇ。」

最近は誰も来てくれないんですよ。忙しいからって気を使ってくれてるんでしょうが寂しいですねと
笑うアバンにズキリと胸が痛む。
自分は何処まで行っても、ただの弟子のような気がして。

「遺跡を回ってみようと思ってます…暫く戻らないんで挨拶に…」

俯いたままやっとの事でそれだけを紡ぐとアバンは眉を潜めた

「戻らないって、ポップ?どういう意味です?」
「いや、時間掛かりそうだし今度は秘境って呼ばれるところを回るつもりなんで
パプニカにもカールにも寄る時間はないかなぁ〜って。」
「そんな所を一人でですか?」

慌てて弁解するポップにますますアバンの眉を顰める。
そんな危険な所に一人で行くなんてとそう言いたそうな表情は、
本当に心配そうで申し訳ないと思いながらも、やはりただの弟子なのだと
痛感して心が痛んだ。

「貴方が強いのは知ってますよ。でも魔法使いは魔力が切れたら。
誰かと一緒の方がいいんじゃないですか?」
「でもマァムやメルルは女の子だし。ヒュンケルは体が本調子じゃないし。」
ダイは姫さんが放さないでしょうしねと苦笑するアバンも確かにそうだと頷く。
「ふむ。」
「大丈夫ですって。無茶はしませんから。」
「じゃあ、わたしじゃ駄目ですか?」
「……は?」

突然の申し出に固まるポップにアバンはいい考えだと笑う。

「うん。そうしましょう。ポップの修行はなんだかんだで途中だったでしょう。
まだまだ教えたい事もありますし。いやぁ、いい考えですね〜。」

なら早速仕度をしないととあれこれ言い出すアバンに、やっとポップは正気に返った。

「まってください!先生フローラ様は?!」
「あぁ、あの方にもきちんと伝えていきますよ〜。そのまま出て行ったら怒られますからね。」
「いやいやいや、そうじゃなくて!!結婚するんでしょ?!」
「誰がです?」
「先生が!!」
「誰と?」
「フローラ様とですよ!!」
「何の話です?」
「……………は?」
「あぁ、そんな噂が流れてるみたいですねぇ。でもわたしとあの方はそんな関係じゃないですよ?
そうですね。貴方とレオナ姫みたいな感じですかねぇ。いい友人です。…って聞いてます?」


今度こそポップの思考は完全に停止した。
俺、いったい何に悩んできたんだろう。
本当に先生が大好きで。
だから結婚なんて話を聞いた時に絶対祝福できないと思った。
だからこそ旅に出たかったのに。
叶わない思いだからこそ、二度と会わないつもりでいたのに、
それ自体が誤解だと。



「俺ばかみてぇ…。先生が結婚するって…見たくないから旅に出るつもりだったのに。」

呆けたままそう呟けば、その言葉に今度はアバンが驚いた様にポップを見つめる。

「おや、嬉しいですねぇ。焼きもちですか?」

そうして柔らかい笑みを浮かべると、ポップが正気に戻るより早く更に衝撃を与えた。

「そうですか。両思いですねぇ。」





ポップがその言葉を理解できたのは、アバンが旅に出る報告のため部屋を離れて少しの事。
真っ赤になって椅子に突っ伏していたそうな。



END?

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