Yearn for
微かに感じる、まだ記憶に新しい魔法力の残り香を辿り、空間を移動して現れた場所は、カールの北東の森にある小さな古城だった。
廃墟と化していたのだろう、その城は柱や壁が一部崩れていたけれど、人が住めるよう最低限の修理が施されていた。
おそらく、打倒大魔王を掲げる人間たちがアジトにしているのだろう。
夜の闇に、松明の炎が所々で周囲を照らしている。
キルバーンは、夜空に浮かんだ状態でしばらくその古城を見下ろした後、目的のものを見つけて再び空間を渡った。
「………やっぱり生きてたんだネ。キミがそう簡単に死ぬとは思ってなかったケド」
古城の一室。
明かりが消え、静寂に包まれている部屋に忍び込んだ彼は、寝台で眠る少年の姿を見止め、囁いた。
約四日前、諸事情により仕えている今の主バーンに惨敗した、勇者一行の一人を見下ろして。
黒い髪、黒い瞳の、魔法使いの少年。
隣の寝台には、武闘家の少女が眠っている。
二人ともよほど疲れているのか、侵入者に気付くことなく、深く寝入っていた。
「まったく。無防備ダヨ。敵がこんなに接近しているっていうのに」
死神は苦笑した。
だが、ふたりが目を覚まさないのは当然だった。死神は完全に気配を殺している上、催眠呪文を唱えていたのだから。
彼はそっと枕もとに歩み寄り、少年の顔を覗きこんだ。
戦いのときに見た、凛とした表情はそこにはなく、歳相応の、穏やかな寝顔を少年は晒している。
死神は、手に持った鎌を振り下ろすでもなく、その指で細い首を締め上げるでもなく、ただじっと少年の寝顔を眺めていた。
殺してしまえばいいのに。
この少年のような、パーティのムードメーカ的な存在が、一番危険だと分かっているのに。
生かしておけば、厄介な相手だと、理解しているのに。
「…………殺してしまうのは、惜しいネ」
そうぽつりと呟いて、死神ははっとした。
そう、自分は今、この少年を殺すことを惜しんでいる。
亡くすことを、拒んでいる。
「…………いったい、どうしちゃったんだろうネ、ボクは」
苦笑するしかなかった。自分の感情が分からなくなることなど、初めてだった。
初めて相まみえた時の、彼の瞳を思い出す。
敵同士なのだから、穏やかなはずはない。
夜空のような漆黒の瞳が、鋭い刃を点して、死神を睨んでいた。
その瞳を、彼は鮮明に覚えている。
あの一睨みで、すべてが決まったのかもしれない。
興味を抱かせるには充分すぎる衝撃を、死神に与えたのだ。
「不思議な人間だね、キミは」
その声には嘲笑の色は全く含まれていなかった。
死神が初めて聞かせる、真摯な声だった。
「…………自分にはないものを、キミが持っているから、なのかな?」
足掻く姿が、戦う姿が、鮮烈な印象を死神に植え付けた。
魔族と比べると、人間なんて弱い生き物なのに。
こんなにも惹かれるのは、きっと一種の憧れだ。
憧れているから、とても美しく思えるのかもしれない。
手が届かないから、手を伸ばしたくなるのだろう。
そう。
こうして少年の魔法力の残り香を辿ってまで、彼の元を訪れた理由は、『会いたい』ただ、それだけだったのだ。
きっと少年は再び立ち上がって、大魔王に戦いを挑むだろう。
勇者が生きていても、死んでいても。きっと。
所詮、自分たちは敵同士。
少年は自分を受け入れてはくれない。
闇に堕ちることなどない。
そして自分も闇のまま、光に取り込まれることはない。
混ざり合うことはなく。
光はどれだけ陥れても穢れることなく光のままで。
欲しいと手を伸ばしても、届かないのだろう。
だから。
少年の柔らかな白い頬を、死神はそっと指で撫でた。
そう、だから。
「こうして感情の赴くまま、キミに会いに来るのは………」
これが最初で、最後にするよ。
死神は仮面の下でふわりと、死神らしくない微笑を浮かべた。
彩花〜SAIKA〜の雛瀬様から素敵小説頂いちゃいました!!!!
あぁぁぁぁ!!ありがとうございますぅぅぅ!!!
盆と正月が一度に来たようですわいw
恐れ多くも雛瀬様のサイトで、
事ある度にキルポプをと言い続けた甲斐がありまする!!(何て迷惑な;)
もうもうもう!
キル様が!!キル様が!!
自覚のない恋をしてらっしゃいますww
あぁぁんw素敵w
「これ、ほんとにキルポプなんかいな?的な内容になってしまいました。」と一緒に下さったお手紙には書かれてましたが
とんでもございません!!!
全く持って一部の隙間もないほどに
キルポプでございます!!!!
本当に幸せだよママン・・・・・・・(うっとり)
半ば脅しの様に言い続けたワタクシに
快く書きますよと言って下さった雛瀬様には頭が上がりませんw
本当にありがとうございました!!!!
雛瀬様の素敵小説がもっと見たい方はLINKか
コチラからどうぞw
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