その日、なごやかなはずのパプニカの宴会は、最初からちょっとした波乱を含んでいた。
招待客である大魔導士の師弟は、一緒にこそ来たものの、来る前から喧嘩でもしていたのか、始終、お互いに突っかかっているのだ。



「きゃあぁ!大魔導士様ってば、もうっ!」
女官達の賑やかな歓声が上がる。
「おっと、悪ぃな。手が滑っちまった」
何だかんだ言っても、若返ったマトリフはなかなかの男前で。
目を眇め、口端だけ上げてにやりと笑う姿に、歓声はますます大きくなる。
パプニカの王宮に勤める女官達の間では、以前から、格好良いだの、渋いだの、艶っぽいだのとマトリフが話題に上がっていたのだ。
そんな男からのセクハラに、若い女官達は嫌がるどころか、むしろ、楽しそうにマトリフの周りに群がる。
マトリフも、楽しそうに女官達を侍らせ、酌をさせながら酒を飲んでいた。
そんなマトリフの姿に、ポップが非難めいた視線を向ける。
「けっ。エロじじぃ。」
「誰がじじぃだ、誰が。なぁ?」
「えっ?あ、はい!」
腰を抱き寄せられて同意を求められた女官は、頬を染めて俯いてしまう。
ほらな、と満足げなマトリフに、ポップは、盛大な溜息をついて目を背けた。



「ささ、大魔導士どの。もう一献。」
「いやぁ、悪いっスねぇ」
自分よりも年上の大臣がしきりと勧めてくる酒を、ポップはくいっと呷った。
ごくりと上下する桜色に染まった喉に、男達の視線が釘付けになる。
ほろ酔いの大魔導士が目許に滲ませる色気に、酌をしようとする男は後を絶たない。
いつもより速いペースで杯を空ける姿を遠目で見たマトリフは、呆れたように声をかける。
「オイ。飲み過ぎんじゃねーぞ。後が面倒だ。」
「師匠こそ、女官さん達に囲まれて鼻の下伸ばしてんじゃねーよ!」
「…ふん。ガキに何がわかる。」
「ガキ扱いすんなって言ってんだろ!」
むっとした表情で盃を呷るポップにおもねるように、パプニカの家臣達は次々と酒を勧める。
「さぁさぁ、ご機嫌を直して。こちらのお酒などいかがですかな?」
「いやいや、こちらも極上品ですぞ。」
「お。サンキュー。これ、うまいなー。」
見せつけるように笑顔を大安売りするポップに、マトリフは、けっと不機嫌そうに目を背けた。



あちらでは飲んだくれ、こちらではセクハラ、と自棄になっているような大魔導士の師弟の様子を見かねたレオナが、マトリフに近づく。
「ちょっとちょっと、マトリフさん。ポップ君と喧嘩でもしたの?」
「…別に。余計なお世話だ。」
ふん、と盃を呷るふて腐れた様子のマトリフに、内心、あらあら珍しいこと、とレオナは笑う。
「ふーん。じゃ、今日はチャンスかしら?」
「チャンスだと?」
「そうよ。優秀な人材はいくらいても困らないし。」
最近は大臣達もポップ君を王宮付きの魔法使いにしろってうるさいのよねー、と挑発的にレオナが笑う。
「今日こそ、口説き落とすっていう大臣もいたわよ?」
「俺には関係ねぇ。それに…」
マトリフはじろりとレオナを見やると、ぐいっと酒を呷った。
「あいつがそれを望むなら、それも良いだろうよ」



「さすがは大魔導士どの。良い飲みっぷりですな。」
「へっへっへー。いやぁ、それほどでもー」
ご機嫌で盃を重ねるポップに、一人の大臣が恐る恐る切り出す。
「ところで、例のお話は考えて頂けましたかな?」
「ん?なにがー?」
酔いが回ってしっとりと潤んだ黒檀の瞳に見つめられて年甲斐もなくどぎまぎしてしまう大臣を、ポップは面白そうに見ている。
「いや、そのですね、パプニカに、仕官するというお話は…」
「あ〜その話かぁ」
にこやかに返されたことで、大臣は勢い込んでポップの顔を覗き込む。
「いっ、いかがですかな?」
「いや。」
「そうですか、それでは、いや、ということで……何ですと!」
ぷいっとそっぽを向いたポップは、女官達の賑やかな笑い声の上がる方向を一瞥すると、つまらなそうに立ち上がる。
「いやなもんは、いや。」



ふらふらとおぼつかない足取りでポップが向かったのは、やはりと言うべきか、マトリフの所だった。
周りに群がる女官達を据わった目で見ると、これ見よがしにマトリフにべっとりと抱き付く。
「だめ。ししょおは、オレのなんらからぁ」
すでにろれつが回っていない様子に、頭痛を覚えたマトリフは思わずこめかみを押さえる。
「誰だ、コイツにこんなに飲ませやがったのは」
ちっ、と心底迷惑そうに舌打ちすると、マトリフは、相変わらずぐにゃりともたれかかってくるポップを抱えなおした。
「…ん〜、ししょお……なんか、ねむい…」
「自業自得だ、このバカ弟子。さっさと寝ちまえ。」
「なぁなぁ、ししょお。ししょおってばー」
「うるせぇな。酒ぐらい静かに呑ませろ。」
つれない言い草に、むー、と頬を膨らませていたポップは、何かを思いついたように、突如、マトリフの襟元をぐいっと握って顔を近づける。
唇が簡単に触れ合いそうな危うい距離に、周囲が息を呑む。
「いつもの、して?」
意識してかそうでないのか、上目遣いでねだる姿に、周囲の視線が釘付けになる。
「あぁ?」
「だーかーらぁ」
眉を顰めるマトリフにも構わずに、ポップは、悪戯っぽく笑いながらなおも迫る。
「おやすみの、ちゅう」
辺りが、一瞬にして凍り付く。
ピキッと、それは見事に澄んだ音が聞こえた。
少なくとも、二人以外には。
「なぁなぁ、ちゅうは?」
「お前なぁ…」
いい加減にしろ、と呆れたように言い差したところで、マトリフは周囲が固唾を呑んで成り行きを見守っていることに気づいた。
――見せ物にすんのは気が進まねぇが、コイツを仕官させたいって奴らへの牽制も含めて、まぁ、オーライってとこか。
瞬時に計算を巡らせると、なおもキスをせがむポップを本格的に抱き寄せて、マトリフはにやりと笑う。
「後悔すんじゃねぇぞ」



盃を置くが早いか、マトリフの掌はあっという間にポップの顎を掴んで仰のけさせる。
次の瞬間、きゃああぁっ!と女官達を中心に甲高い悲鳴が上がった。
それは、おやすみのちゅう、という可愛らしいものでは決してなく。
「ん……は、ぁ…」
鼻にかかる甘い声が漏れたところで、マトリフは殊更ゆっくりと唇を離した。
「これで満足か、この酔っぱらい。」
仕上げとばかりに、濡れて色づく唇をぺろりと舐め上げて、マトリフが毒づく。
ポップは、というと、今のキスで、完全に腰が立たなくなったらしい。
マトリフの襟元を握る掌が、ぱたりと音を立てて力なく落ちた。
ぼんやりと見上げてくる、艶を増した漆黒の瞳に自分だけが映っていることを確認して、マトリフは僅かに眦を和らげる。
だが、それも一瞬のこと。
体重のないものを扱うように軽々とポップを抱き上げると、マトリフは周囲を威嚇するように睨み付けて言い放った。
「悪いが、こいつは連れて帰るぞ。」
言うが早いか移動呪文が唱えられ、大魔導士の師弟は周囲が止める間もなく宴会場から姿を消した。
後には、所在なげに転がる盃と、人々の呆然とした視線のみが残る。
辺りに漂った妙に白々しい沈黙を、レオナのしみじみとした台詞が代弁した。
「おやすみのキスに姫だっこって……何てゆ〜か…あの二人、やっぱりバカップルよねぇ。」







涼崎あやめ様から素敵マトポプ小説頂きました〜〜〜っ!!!!!!!


ありがとうございますっ!ありがとうございますぅぅぅぅぅぅ!!!!×∞
もうね、どれだけお礼を言い続けても言い尽くせないくらいの喜びでございますvvvv
だって、ナチュラルにチューですよ!
お姫様抱っこデスヨ!!!
しかも師匠男前ですよっっ!!!!!

日記で書いたマトポプ募集に、本当に書いて下さっただけでも嬉すぎだと言うのに、
調子ぶっこいた姫宮の 「若師匠とポップで周りが引くくらいのバカップル」
と言うとんでもないリクエストに快く快諾してくださり本当に感謝でございますっvvvv

あぁ、私も師匠にセクハラされたいっっっ!!!!!!
ポップくんにお酌したいっっ!!!!!

サイトを開設された暁には、是非にもLINKさせて下さいませっvvvv
涼崎様、本当にありがとうございましたっ!!


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