それは。
大切な言葉。




I want to merely tell you now



久しぶりだねと、彼は昔の面影を残した笑みを浮かべた。

あれから長い時間が過ぎてしまったから。
もう皆には会わない方がいいとそう思ったのだけれど。
それでも。
お前にだけは逢いたかったからと。
静かにダイは呟いた。


十年と言う歳月は嫌でも人を成長させ。
子供は大人へと変貌する。
それが摂理であり理と言うもの。

それは最後の竜の騎士である彼も例外ではなく。
幼かった勇者は、その姿を風格漂う青年へと変えていた。
その風格は正しく魔界の覇者に相応しく。
例え従者を連れずとも、身分あるものだと一目で分かるだろう。


そんな彼にポップはただ黙って溜息をつく。
言ってやりたい事が山の様にあった。
けれど、
たかが十年。
人にしては長いが魔族にして見ればあっという間のその時間で、
魔界を統べ地上の平和を勝ち取った彼に今更何を告げれば良いと言うのだろうか。

せめてあと五年、
五年前であったなら。
何故連れて行かなかったと、
どうして一人で何でも背負うんだと。
そう恨み言を言い募る事も出来たのに。


己が師より譲り受けたこの洞窟。
こことて師がいなくなり自分が住処とする事で確実に変り、
過去を思い出すものは少なくなっているのだ。
それだけ流れた時間は長く、
そして戻る事が出来ないものだと。
そんな風に考えて、過ぎた年月の重さにただポップは笑う事しか出来ない。

そうしてやっといつまでも来ない返答に困っている彼に、
ポップは静かに手招きする。

「お疲れさん、でいいのかねぇ?
魔界の王様を労う言葉は。」
「・・・・ポップ・・・・俺は・・・・・」
「あんまり帰りが遅いから、
姫さんは結婚したし、他の奴らもそれぞれ新しい道を選んで進んでる。」
「うん。知ってる。」


報告だけは部下から聞いていたから。
レオナやマァムがそれぞれ伴侶を得た事も。
皆が新しい道を生きてる事も知ってるよと笑うその顔は、
後悔の念など何処にもなく。
むしろ本心から良かったと、そう祝福してるのだろう。
一見は。
だが、ポップはダイのその表情に少しだけ眉根を寄せて、
大仰に座っていた椅子に凭れ掛かりそれで?と呟いた。


「・・・・で、何で俺の所に?
俺だけ昔と変らない様に見えたか?
ただ何時までもお前を探している様に見えたか?」

ならば大きなお世話だと吐き捨てるように紡がれたその言葉に、大きくダイの目が見開かれる。

「違うよ!そんなんじゃない!」
「・・・・じゃあ何でだよ。
俺だけが過去を引きずって前に進んでねぇからなんて、
そんな事言いやがったら。
俺はお前を絶対許さない。」
「違う!!そうじゃない!
俺は!俺は!!
・・・・・・ただ怖かったんだ・・・・・」


長い時の中、どれだけ仲間に会いたいと願っただろう。
だけど時間は確実に過ぎて。
昔の姿は過去となり。
魔界の王となった自分を拒絶されるのが怖かった。
それだけが恐ろしくて、
合わない方が良いと理由を付けた。
でも、それでも。


「それでも・・・・・お前にだけは逢いたかった・・・・・」

深く俯き、震える声でそう呟くダイに僅かの沈黙の後。
ポップは小さく息を吐いた。
そうして、姿を見る事が出来ないダイに優しい声が落とされた。
馬鹿だなと呟く声に、そうっと顔を上げれば。
そこには声と同じく柔らかく笑うポップの姿。


「・・・・ポップ?」
「だからお前は馬鹿なんだ。
皆お前を待ってるのに。
難しい事考えて、大事な事を忘れてやがる。」
「大事な事・・・・・・?」
「そうさ。
魔界の王になったからとか。
長い間戻らなかったからとか。
そんな事如何でも良いんだよ。
皆仲間が帰ってくるのを待ってたんだから。」

だから、言い訳なんかいらない。
伝える言葉はたった一つで良い。

そうだろうと、目を細め笑い。
ポップは何処か怯えた様におずおずと視線を会わせるダイにそっと手を伸ばした。
やんわりと頬に触れるその手の暖かさは、
逢いたいと。
そう切に願った彼のもので。
その手に自分の手を重ねダイは静かに嘆息した。

「・・・・・それでいいのかな?」
「もちろんだ。」
「・・・・凄くお前に逢いたかったよ・・・・・」
「俺もだ。」


当たり前の事を言うなと。
そう答えるその表情は、どこか昔のままで。
決して変わらぬものもあるのだと、
今更ながらに痛感する。

流れた時を後悔していたのは、
誰でもない自分なのだと。
そうして何時だって。
怖がる俺の背中を押してくれるのはお前なのだと。


そっと抱き締めれば、当然の様に返される腕の温かさに
込み上げるのは愛おしさ。

「逢いたかったよ、本当に。
逢えないのが辛くて、気が狂ってしまうんじゃないかって思ったくらい。
どうしてもお前にだけは逢いたかったんだ。」


そうして、俺もだと笑ってくれる恋焦がれた彼に
ありったけの思いを込めて。
ダイは微笑んだ。


「ポップ・・・・」
「うん?」

長い長い間言いたかった言葉を、
誰でもなく、
最初に伝えるために。

大事なその言葉を伝えるために。
ダイはそれを紡いだ。
そうして、僅かの後。
ポップもまたその大切な言葉を口にするのだ。


「ただいま。」
「おかえり。」


そうして漸く得た幸せにダイはただ笑い。
満足気に笑う彼に口付けを落とした。






In order to merely tell you now, I came back to your origin
(貴方にただいまと伝えるために私は貴方の元へ帰ってきました。)
In order to tell you in or, I was waiting for you
(貴方におかえりと伝えるために私は貴方を待っていました。)
Since it is uncanny important language
(それは、凄く大切な言葉だから。)
I wanted to say to you first of all
(真っ先に貴方に言いたかったのです。)



END



20000hitありがとうございます!
感謝感激です!

私が皆様に言いたい事をダイ様に代弁して貰いました。
(と言っても私の場合は別に何処かへ旅立っていたわけではありませんが;;;)

あれです、言いたいのはこれだけ。
「ただいま!」なのです。


温かいお言葉を下さる皆様。
どうぞ、これからも宜しくお願いいたします。

こちらの拙い小説はフリーとさせて頂きますのでお気に召したらお持ち帰りください。
姫宮はネタの続く限り頑張ります!!

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