慌しい。
そう形容するのが一番なその足音にアバンは書類を置き苦く笑い、
レオナはサイン待ちの書類の山に額を押し付けてひっそりと笑みを深めた。


カールの国王となったアバンが訪れる度に行われる喧騒の原因が、
扉を開くまでもう少し。




Really?




「何とかならんのかアレはっ!!!!」


扉が開かれると同時に飛んできたその怒声の主を、アバンは慣れた様子でまぁまぁと制し、
取り合えず席を勧める。
不機嫌さを隠しもしないが憮然としつつも大人しく座るところを見れば、
今日は割りとマシなのかもしれない。

此処の所訪れる喧騒にすっかり慣れたレオナは、
元は宿敵であった筈のアバンとハドラーを見ながら
暫くは進まないと判断した書類をさっさと端に追いやる。


「・・・・で、今回はどうしたんですか?」


まさしく苦笑を浮かべアバンが問えば、
ハドラーは椅子に座り腕を組んだままジロリと睨み返す。
その貫禄は流石に元魔王よねぇと何処か他人事の様にそれをレオナが眺めていれば
その視線に気付かなかったのか、それとも気にしていないのか、
ハドラーは苛立たしげに口を開く。


「お前はアレにどういう教育をしてきたんだっ?」

「・・・・・どうと言われましてもねぇ・・・・」


私は普通に育ててきたつもりですがとアバンは頬を掻く。
ハドラーの言うアレとは、
いまや世界で随一の実力を持ち、
不可能を可能にするとまで言われた大魔道士、
そしてここパプニカの女王レオナの夫ダイの親友で
カール国王となった元勇者アバンの愛弟子。
ポップその人の事であるのだけれども。

その名を呼ぶ事すら今は禁忌であるかの如くハドラーはテーブルを叩いた。


「アレの言動は全くもって理解できん!
俺もアレも男だと言うのに何故ああなるのだ?!」


幾度となくその苦情が告げられている所為か
その抽象的な言葉でも意味は伝わるのがそこはかとなく悲しい。
溜息一つ零してその遣り取りに応じるべくアバンが聞き役に回れば、
レオナもまた一つ溜息を零して立ち上がり、窓際に移動する。
換気と言わんばかりに窓を少し開け真横の壁に背中を預ければ、
で?と視線をかつての宿敵同士に向けたまま問いかけた。


「ポップくん、今度は何を言ったのよ?」

「ん〜・・・?別にいつもとかわんねぇけどなぁ・・・・」

「そろそろその気になったか?据え膳食わぬは男の恥ってもんだ・・・とか?」

「姫さん大正解。いやぁ、流石パプニカの女王様ってもんだ。」

「そこでパプニカの名前出さないで悲しくなるから。
って言うか、いい加減毎回のパターン覚えた自分がイヤになるんだけど。」

「ダイは何時まで経っても憶えねぇけどなぁ・・・・」

「そこがダイくんの良い所なんだから良いのよ。」

「・・・・良い所かぁ?」

「首傾げないで。あ・・・・テーブル壊れた。」

「ハドラーも馬鹿力だからなぁ・・・・扉は無事だったん?」

「お陰さまで今回は無事よ。請求書回すからね?」


いつの間に追いかけてきたのかちゃっかりと窓枠に座るポップに
それすら慣れた事なのかレオナはのんびりと友人との会話に興じる。

勿論ネタはこの友人の恋の話なのだけれど。

始めこそ驚いたものの、彼がこの10年の間どれだけ切望していたのかを知っていたから、
今更何故?と聞く気もなければ本気かと問う気もない。
寧ろ退屈な政務に追われる中、彼の訪問とその話題は格好の娯楽に分類されるくらいだ。

そうして二人他愛無い話を交えつつ、アバンとハドラーの攻防眺めれば、
それにしても、とレオナが小さく呟いた。


「何か今日は被害少ないのよねぇ・・・テーブルとティーセットだけだし。」

「姫さん達があの襲撃に慣れたからじゃねぇの?
まぁ俺としちゃ弁償は少ない方が良いんだけどさ。」

「虚しくなるからソレは言わないで。
じゃなくて、何か今日は怒ってるより動揺してるっぽいんだけど・・・・
ポップくん他に何言ったの?」

「ん〜・・・そこまでわかるとは姫さんも通だなぁ。」

「嬉しくないってば。ほら、ちゃっちゃと言いなさいよ。」

「・・・・・・そこまで男同士が嫌だってんなら女になってやる。
そしたら今度はンな言い訳きかねぇから覚悟しとけよ・・・・みたいな感じ?」

「・・・・なるほど・・・それは動揺もするわね。」


そう告げた時のハドラーの慌てぶりは見事だったなぁと
心底愉快そうに肩を揺らしポップが笑えば。
レオナもまた見たかったとクスクスと笑みを漏らした。







それはとある昼下がり。
カールの国王アバンがパプニカを訪問する日の日常的な出来事。






ただし、追記としてあげるならば。
ふと会話の中で沸いたレオナ女王の

「本当に女になれるの?」

の問いに、
不可能を可能にすると謳われた大魔道士はただ意味深な笑みを浮べたと言う。


END





ご無沙汰の更新第一弾はハドポプです。
ビビりながら始めたハドポプも意外と好評を頂いて物凄いびっくりと共に凄く嬉しいです。
同志が多いってステキ(笑)

ちまちまと書いてはいるのですが、中々纏めてUPする時間がとれず遅くなり申し訳ありません。
亀より遅い更新速度ではありますが、まだまだネタはありますので
のんびり待ってて頂けると幸いです。

本当に遅くなりましたが、本年も宜しくお願い致します(深礼)


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