高級とまではいかないが上質のカウチに腰掛けたハドラーは、
突然の不快感にゆっくりと目を開け、
暖かくなり暫くの間役目のなくなった暖炉を視界に入れる。
デルムリン島より南方に少し離れた小さな島。
民家よりは少し大きめの館と、
小さな泉と薬草園。
そうして館の背後に佇む少し大きめの森。
それが彼に与えられた世界だった。
かつての居城に比べれば格段に小さいその世界。
けれど、もはや世界を掌中に収めるなどと言う下らない野心もない今、
それにさしたる不満はなかった。
ただ、一つ不満があるとするのなら。
それは。
Bowing is only you
不覚にも転寝をしていたのかと、未だ覚醒しきらぬ頭でそう考えれば、
ハドラーは僅かに身を起こし部屋の中をぐるりと見渡す。
そうして眠っていた己の為に空けられた窓を確認すれば、
その先、庭の木陰のウットデッキに座るポップの姿と見知らぬ人間に不快感の正体を知り、
ハドラーは動きを止めた。
どこかの国からの依頼なのか。
または勧誘なのか。
稀にこの地に訪れる人間は皆一様にそれなりの身分を思わせる装いで現われる。
今日此処に現われたのも、それなりに身分がある人間なのだろう。
ポップよりも随分と年上に見えるその男の偉そうな態度に、
僅かな嫌悪を感じれば、それはポップも同じだったらしく。
流石に眼に見えてではないものの、拒絶するかの様に張り詰めた気配が彼を包む。
そうして、愛用の煙草に火を付けたポップはゆっくりと口を開く。
「で、まぁ要約すると、だ。
アンタに仕えろとそう言う訳?」
この俺が?
アンタ如きに?
そう続きそうなくらい侮蔑を含んだその声色も。
その人間は愚かにも気付かなかったらしい。
どうやらそれなりに実力のある商家の当主らしいその人間は。
自分の所に仕えれば、優遇すると。
そうして自分に仕えれば今よりももっと優雅な生活を約束すると。
自慢話と共にそうポップに語り続ける。
尤もポップの方は既に聞く耳もないのか、紫煙を燻らせているだけなのだけれど。
飽きもせずしつこく勧誘を繰り返すその人間と
ポップのやり取りを暫く眺めていたハドラーだったが、
やがてそれも飽きたのか再びカウチに身を預ける。
「・・・・あれでは逆効果だ、ばか者め。」
そうして呟いた言葉は、名も知らぬ訪問者へと向けたもの。
ポップという人間は。
あれで居てプライドが高い。
勿論、悪い意味ではなく、良い意味でだが。
その彼を勧誘するのであれば、
金や、地位如きでは駄目なのだ。
寧ろその程度のものでしか彼の気を引くものがないのであれば、
勧誘するだけ無駄でしかない。
己が仕えるに値するだけの器を持った者だと、
そう断言出来るだけの矜持と信念と実力がない限り、
アレは決して頷かないだろう。
まぁ、それにすら気付かず、長い時間自慢話紛いの勧誘を続けるのも、中々凄い事なのかもしれないが。
それも、そろそろ途切れそうなポップの忍耐力と共に終りを迎えるだろう。
ご苦労な事だな。
そこまで考えてハドラーが苦笑を零せば。
まるでタイミングを狙ったかの様に、ポップの静かな声が耳に届いた。
帰れ。
ただ一言短く発したその言葉に。
その訪問者はピタリと押し黙る。
否、押し黙るしかなかったのだろう。
己ですらハッとする様な威圧感に再びハドラーが視線を向ければ。
ポップは吸い込んだ紫煙をゆっくりと吐き出しながら訪問者へと笑みを向けていた。
「・・・・・例えば、今此処に居るのがダイとか姫さんだったら。
多少の手伝いくらいしてやるかも知れねえけど。
それでも俺は、絶対に仕えない。
この俺が、自分から頭を下げて良いと思うのも。
無償で何かをしてやりたいと思うのも。
この世の中で、たった一人しかいねぇんだ。
で、当然ながらそれはアンタじゃない。」
だから帰れ。
そう言い切り、手をヒラヒラと振るポップに、
今度こそかける言葉も見付からず、哀れな訪問者は肩を落とした。
そうして、その肩を落とし去っていった訪問者の気配が消えれば。
先程まで感じていたハドラーの不快感も霧散する。
その酷く簡単な理由に今更ながらに気付いたハドラーは、
小さく溜息を零した。
「・・・・・・・・・・・くだらん、な・・・・・・・・」
かつての居城に比べれば格段に小さい今の世界。
けれど、もはや世界を掌中に収めるなどと言う下らない野心もない今、
それにさしたる不満はない。
ただ、一つ不満があるとするのなら。
それは。
自分達しか居ないこの島に誰かが入り込む事。
それがこの上なく不快と感じるなんて。
全く、くだらない。
随分と情けなくなったものだと小さく自嘲して。
それでもパタパタと近付く足音を待ちながらハドラーは再び眼を閉じた。
END
久々にハドポプです。
サブタイトルは「ハドラー様軽くストーカーするの巻」(ぇ/笑)
なんだか段々とハドラー様がほだされて来てるような気がしますっ!
つか少しは進展・・・・してるのかなぁ・・・・?
ただ単に人嫌いだからって言う気がしないでもないんですが・・・・・どうなんでしょう?(聞くな)
取り合えず自分のテリトリーにポップがいるのはOKらしいと判明した今日この頃。
ハドポプもちまちま更新しますので、是非呼んでやってくださいませ。
ここまで読んでくださりありがとうございました(深礼)
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