俺達を見た瞬間、
マァムとクロコダインのおっさんは
口をパクパクさせて。
ヒムは怪訝そうに眉を顰めて。
チウはお化けでも見る様な顔をしてた。
大魔道士の帰郷2
「・・・・・ポ・・・・ポップなの?本当に?」
「おう、間違いなく俺様だせ?」
「お前さんの事だ、どこかで元気にやっとるとは思っていたが、
元気そうじゃないか!」
「おっさんこそ相変わらず元気そうだなぁ。」
「絶対死んでると思ってたのに・・・・しぶとい・・・」
「・・・・・聞こえてんぞ、クソ鼠。」
ロモス城の中庭に降り立ったポップに、仲間達は一斉に駆け寄り、
口々に言葉を交わす。
泣きそうなマァムに生きてるからと笑い。
息災を信じてくれていたクロコダインには変わらぬ軽口を。
そして憎まれ口を叩くチウを一瞥して。
久しぶりとポップは笑った。
「・・・久々の再会のところ悪いんだがよぉ・・・・」
警戒と言うよりは敵意。
腕を組んだまま。
けれど即座に戦闘に対応出来るかの如く殺気を纏い。
ヒムは徐に顎でキルを指し示し口を開く。
「てめぇが何で一緒にいるか知らねぇが・・・その男が誰かわかってんだろうなぁ?」
俺は気配に敏感でな、と此処に来て一言も口を開かぬキルから視線を動かし
ヒムが睨む様にポップを見据える。
突然の不穏な空気に周囲が息を詰め、その成り行きを見守れば。
ポップだけは苦い笑みを深めた。
「良くわかったなぁ、流石ヒム。」
「けっ、褒められても嬉しくねぇや。
前とはちっと違うがな、その気配は昔嫌って程察してたからな。」
「あ〜・・・・そっか。一度やりあった事もあるって言ってたなぁ。」
魔王軍の、いやハドラーの直属の配下として仕えていた彼ならば、
確かに他の仲間以上にその気配を知ってるのも納得出来る。
なるほどと一人納得顔で頷くポップを他所に、
仲間達は未だ解かれぬ、緊張の空気に固唾を呑むのみ。
そんな中、いい加減わからぬ展開に疲れたのか、チウはヒムに近寄る。
「ヒムちゃん、そこのアホ魔法使いが連れてきた男になんか問題でもあるのかね?」
どう見ても普通の男にしか見えないが。
呑気にそう問いかけるチウにヒムは途端に脱力し、深々と溜息を吐いた。
確かに自分もあまり人間に詳しくはないが、
黒い軍服の様な服装。
加えてただ立っているだけだと言うのに隙を感じさせない身のこなし。
どう考えても『普通の男』には見えまい。
何で自分はこの隊長の部下をやってるんだろうかと、
ほんの少し虚しくなりつつ、それでもヒムは問いに答えるべく口を開く。
多分、直接会った事がないからわからないんだと自分を慰めながら。
「ま、まぁ・・・隊長が会った事あるかまではわかりませんがね。
そこの男は魔王バーンの腹心の一人キルバーンに間違いねぇ。
・・・・・そうだろう、ポップ?」
途端に仲間達の気配がざわりと変わる。
神速とも言う速さでマァムの後ろに隠れるチウは置いておくとしても、
咄嗟に臨戦態勢をとるクロコダインやマァムを、
流石だなぁと何処か間延びした様にポップが眺めれば。
キルは小さく溜息を零し肩を竦めた。
「・・・・バレちゃったネェ。」
「隠す気がない奴がバレたとか言うな。」
酷く愉快そうなその声に、誰もが戦慄する。
仮面がなく鮮明に聞こえるその声は。
間違いなく死神キルバーンのもの。
だが、何故ポップと共にいるのか。
一身に集中する視線に気付いたのか、
ポップは鼻先を掻きつつ、ん〜・・・と語尾を濁す。
「ん〜・・・・説明は後でするとして。敵じゃないことは確かだな。」
「・・・・ほ、本当に?」
「此処で嘘吐いてどうすんだって。間違いなく敵じゃない。
これは確実に言えるから大丈夫。」
確信したその言葉に、マァムとクロコダインは漸く構えを解き。
チウもマァムの背後から姿を現す。
ヒムだけは未だ訝しげな視線を送るものの、
取り合えず無駄な攻防は避けられたと小さく苦笑して。
キルを指差しポップは言葉を続けた。
「コイツの名前はキル。俺の旦那。」
「はっ?!」
「なっ?!」
「だっ?!」
「「「「うえええええええええええええええええええええっ!!!!?」」」」
綺麗にハモる絶叫にポップが嫌そうに耳を押さえれば。
指を差すんじゃないヨと愉快そうにキルは笑った。
キルとの契約により声を戻し。
天界の門を探す事になった。
元はヴェルザーも天界に住まう竜の神。
神との対話により和解を済ませ、
ヴェルザーにも地上への侵出の意志はない。
故にダイを天界で保護する必要もなくなり、
地上へと帰還させる事になった。
一握り真実と嘘を織り交ぜ。
守護者の事。新たな竜の騎士となった事。
それらを器用に省き説明を済ませたポップは、漸く一息吐いたと歎息した。
「じゃあ、ポップってば天界まで行ってたって言うの?!」
「ん〜・・・そうだなぁ。」
「なら・・・なんでダイが戻った時に一緒に戻ってこなかったのよっ!」
どれだけ心配したと思ってるの。
そう声を荒げるマァムにポップはただ困った様に眦を下げる。
かつて愛した彼女の。
痛いほどの優しい気持ちがわかるから。
最後まで自分は彼女にとって弟分だったけれど。
それでも、彼女は本当に心配してくれていたのを知っているから。
彼女を心配させる事は本位ではないのだけれど。
事実を告げる事は出来ないから。
ただ、押し黙るしかない。
そんな雰囲気を察したのだろう。
クロコダインが大きく一つ咳払いをし、まぁと笑って言葉を紡いだ。
「何にしても今が息災ならそれで良いじゃないか。
ずっと心配していたマァムの気持ちもわかるが、
ポップだってあの頃とは違うんだ。」
仲間がどれだけ心配していると知っていても、
彼には成し遂げるべき『何か』があった。
仲間の心配を知った上で、その『何か』を決断したのだから、
それはもう誰も口出し出来る事ではないのだ。
そして、そもそも行方を消したその経緯を知っていればこそ。
何も手立ての打てなかった自分達が、
心配をしたなどと言うべきではない。
だからこそ。
「また出会えた。その事実だけで充分じゃないか。
そうは思わんか?」
その大仰な体躯に違わぬ大きな包容力を見せ笑うクロコダインに、
チウは頷いて。
マァムは静かに息を零し笑みを見せた。
そうして漸く和んだ様にお互いの近況を話し出す彼らを、
僅かに離れた位置で見ていたキルも静かに歎息する。
ジワリと胸の奥を苛む黒い感情を吐き出す様に。
深く、深く息を吐いた。
仲間と会う事、それを別段咎めるつもりはない。
昔話に花が咲く事も。
自分に向ける笑みとはまた違う笑みを見せようと。
何も口出すつもりもない。
かつての敵と警戒されようと、
敵意を向けられようと、
そんな事はどうでも良かった。
けれど。
もう少し。
もう少しだけ。
心配をしたと。
何をしていたと。
そして、今は何をしているのかと。
そう彼を問い詰めていたのならば。
例え彼の仲間だとしても、殺意を向ける自信があった。
世界の為にと。
友の為にと。
数ある道の中から尤も深く暗い道を選んだその想いに。
何も知らぬ人間が易々と踏み込む事は許さない。
鷹揚な獣王のお陰で助かったと、彼にしては珍しくも素直にそう思い。
キルがもう一度溜息を吐けば、ふいに間近に近付く気配に気付く。
「殺してやりてぇって眼してたぜ、死神さんよぉ。」
「・・・・死神は廃業済みダヨ。キミは行かないのカイ?」
「生憎と懐かしむほど交流があった訳じゃねぇんでな。」
「ナルホド。」
それっきり口を紡ぐキルの姿を不躾にヒムは眺める。
勿論ヒムにしてもポップは懐かしく、
それなりに息災を気にはしていたけれど。
彼の実力を、それ以上にその頭脳をヒムは評価していた。
簡単に死ぬ様な奴ではないと知っていた。
亡き君主が高く評価していた彼なのだから。
だからこそ昔話に加わる以上に興味が湧いた。
バーンを持って切れ者と言わしめたポップが、
曲者揃いの魔王軍の中でも、トップクラスで底知れぬ曲者だったこの男を選んだ理由に。
そして、それ以上に。
死神がポップを選んだ理由に。
「何でアイツなんだ?」
試しに問うたその言葉にキルの片眉はピクリと上がる。
その顕著な反応にニヤリと皮肉に笑い、ヒムは問いを続ける。
「そりゃアイツは実力もあるし、頭も良い。
旅のパートナーとしちゃ文句もねぇが、レンアイとなりゃ話は別だろ。」
それなりの見た目ではあるが、態々男を選ぶ理由もないんじゃねぇ?
挑発する様に紡ぐその言葉に、キルはただ一瞥をくれる。
そうしてゆっくりと口を開いた。
「キミにはわからないヨ。」
「・・・・・そらぁ俺らみたいな金属生命体に性別なんてあってねぇ様なもんだがな。」
「そういう意味じゃない。
深くて暗い底を知らない奴にはわからないんだヨ。」
謎掛けの様なその言葉にヒムが首を捻れば。
キルは薄い笑みを形作って見せた。
その何の感情も見せない虚無の笑みに、ザワリとヒムの背筋に戦慄が走る。
殺意でも敵意でもない。
ただ笑みを作っただけだと言うのに感じた悪寒に。
抱える闇の深さを垣間見た気がして。
言葉を失い立ち竦む。
そんなヒムの耳に小さな溜息が届く。
「・・・・生ある者に等しく訪れる死。
その死を捨て永遠と言う名前の残酷な毒を自分から選べる。
そんな強いヒカリをボクは他に知らない。」
「・・・・・なんだって?」
「時間にすら忘れられた深い闇。
その闇に自ら飛び込んで、それでも輝きは損なわない。
そんな眩しいくらいのヒカリ。」
長すぎる時間の中。
神の条理に逆らう為にのみ生み出された己。
名前すら意味も成さなく。
唯一の悲願の為だけに存在した己。
そんな己の名を呼び。
虚無の世界に色を与えたヒカリ。
当初の計画では半身と融合し。
そのまま消える筈だった自分を。
誰も失いたくないと。
そう力強く紡ぎヒカリの下に連れ出した。
それが、彼。
いつかそのヒカリを刈り取る役目もまた己だけのもの。
知らなくていい。
わからなくていい。
理解させる必要もない。
理解される必要もない。
さっぱりわからないとそんな表情を隠しもしないヒムから視線を動かし、
唯一のヒカリに笑みを向け。
キルはもう一度呟いた。
「ダカラ言ったろう?
キミには・・・・・わからないヨ。」
カサカサと揺れる草を踏み分け、天界よりも少し寒い風に身を竦ませながら。
二人はのんびりと街道を歩く。
何時までも地上にいる訳にもいかないが、
ルーラを使ってまで急ぐ必要もない。
折角だしと今日の宿を求め、適当な村まで歩く事に決めたポップがそう言えばと
連れ立って歩くキルの方を見詰め思い出したように呟いた。
「なんかさぁ。ヒムに別れ際、お前も大変だなって言われたんだけど・・・・・
お前何言ったの?」
「・・・・別に何も言ってないケド?」
「・・・・・・・・ふ〜ん?」
はっきりと疑いの視線を送るポップにキルは苦く笑う。
そう何一つ明らかな事は言っていない。
何を推測しようとソレはただの推測でしかないのだから。
僅かに与えた謎掛けに何かを気付こうとも、
それは別に関係のない事。
例えば、ソレに気付いたハドラーの遺児が。
遠い未来に姿変わらぬポップを笑って出迎えようとも。
自分には関係ない事なのだ。
「そんな事より次は何処に行くのサ?」
撒いた種が巧く芽吹けば面白い。
そんな悪戯な笑みを浮べたまま問えば、
追求を諦めたのかポップは溜息を零した後、首を捻り思案を始める。
そうして暫し悩み徐に顔を上げれば、
ポップはその方向を指差し笑った。
「次は、テランだ。」
to be continued
次はテランらしいです(笑)
書く度に長くなっていく里帰りに今回もお付き合い下さり
皆様、本当にありがとうございます(礼)
マァムの立ち位置が微妙にヤな感じでスイマセン;;
いえ、今はけっして嫌いじゃないんですよっ?(昔は・・・・ゴニョゴニョ・・・/汗)
かるーく言い訳するなら、
彼女のポジションが姫宮の中ではポップの姉なので、
どうしても心配性とかになっちゃうんですよ。
何でお姉ちゃんに言えないの?みたいな感じで。
そして意外な所でキルさんが語りました(苦笑)
いやもう・・・相変わらず熱烈な人ですなぁ・・・・・・・
書き手が後から読み直して突っ込みたくなるほど熱い人デスヨネ;
と言うかただのバカップル;;
次回はどうなる事やら今から不安たっぷりでございます。
一応次に出てくる仲間は決まってるんですが、
どんな話しになるかは全く未定デス。
メルルとヒュンケルとラーハルトで話進むんでしょうか・・・・・・?(多分無理)
ちなみに、
クロコダイン、マァム=ロモスにお勤め。
チウ、ヒム=ロモスから要請があれば手伝う助っ人。
と思って頂ければ幸いです。
長くて入れられなかったんです(泣)
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