俺達の姿を見た瞬間、
メルルは少し笑って、
ラーハルトは無言で片手を挙げた。



大魔道士の帰郷3




「よっ。久しぶり。」


そんな風に笑ってポップが彼女達の前に姿を表したのは、
日も昇りきり後は沈むだけとなった午後の事。
メルルの生家の庭から顔を覗かせれば、
彼女はさも当然の様に笑って手招きしてみせる。
その傍らに座るラーハルトとの組み合わせに、
ポップが僅かに目を瞬かせれば、
彼女はクスリと悪戯めいた笑みを浮べた。


たまたま寄って下さったから留まって欲しいとお願いしたんです。
そろそろいらっしゃるかなと思って。

そう笑うメルルの手にはティーポットが握られ、
テーブルに置かれたカップの数は4つ。

当たり前の様に自分達の分も用意してあるカップに、
流石とポップが笑えば、
メルルも予感がしましたからと小さく笑った。


「でも思ったより遅かったので、外れたかなと思ったんですよ?」

「あ〜・・・・いや昨日泊まった宿屋がメシ美味くてさぁ。
つい昼飯まで食ったから遅くなっちまったんだわ。」

「余り長く留まって貰う様にお願いするのも失礼ですし。
間に合って良かったですわ。」

「はは、遅くなって悪かったよ。」


クスクスと笑いあう二人に、久しぶりに会ったと言う雰囲気はない。
寧ろ、まるでつい最近もこうしてお茶でも飲んでいたのではないかと思わせる雰囲気の中、
ポップが椅子に座り先程から黙ったままのキルを手招きすれば。
彼は少しの沈黙の後、溜息を吐いてソレに応じた。


「・・・お前なんでそんな顔してんの?」

「生まれ付きだけどナニカ?」


彼にしては珍しくも不機嫌さを隠さぬ様子に、ポップが首を傾げれば。
キルは内心わかっていたけどと深く溜息を吐く。
そうして微笑むメルルに一度視線を向けてから、ふいと視線を逸らした。

そんなキルの心中など露にも知らずポップは、まぁいいかと視線を
ラーハルトへと向ける。


「何かお前が一人なのって変な感じだわ。」


いつもヒュンケルの奴とつるんでるイメージがあるからなぁ。
そう紡げば、ラーハルトは嫌そうに眉を顰める。

「なんだそのイメージは。
ヒュンケルと旅をしたのはまだお前が居た時の話だ。
長い事行方不明になってた奴が勝手なイメージを作るな。」

「うーん・・・・正論過ぎてグサっとくるな。」

「勝手に傷付いてろ。」


ふん鼻を鳴らし皮肉に口角を持ち上げるラーハルトに、ポップはひでぇと小さく苦笑する。
尤もポップも言葉ほど傷付いてなど居ないのだけれど。

自分はダイの親友であると言う自覚があった。
そうして、
ラーハルトにはダイの一番の部下である自覚があった。

お互いがお互いを認めてはいるけれど、
いざと言う時は一番にダイの助けになりたいと願っていた彼らはライバルの様なもので。
つい皮肉の応酬になっていたから、
今更それくらいの言葉では喧嘩にもならない。
寧ろそれすら懐かしいと感じている様で、
お互い視線が合えば小さく笑いあった。


「で、ヒュンケルは一緒じゃねぇの?
居場所くらい知ってんだろ?」

「ヒュンケルなら今はカールにいるぞ。
アバン殿が流石に見かねて、なにやら連れまわしているようだ。」

「・・・・・・・・アイツ、まだ葛藤してんの?」

「・・・・・・・・・・・・以前よりはかなりマシだがな。」

「馬鹿だな。」

「それには同意する。」


どうにも自分の安寧を嫌う兄弟子を思い出して、ポップが深く溜息を零せば、
それに対してはラーハルトも、反論する気もないのか頷いて見せる。
いっそ説教でもしてやるかと呟けば、是非そうしてやれと返ってきたその言葉に、
ポップは米神を押さえれば、そういえばとラーハルトは言葉を続ける。


「お前の連れは一体何者だ?」


只者ではないだろう?と確信めいた言葉を紡ぐ彼に、ポップは暫く首を傾げる。
そうして、ラーハルトはキルに会った事がないかもしれないと思い当たれば、
ニタリと意地の悪い笑みを浮かべ、メルルと共に自分を見るキルを指差した。


「コイツの名前はキル。俺の旦那。」

「そうか。それはおめでとう。」

「じゃ今は新婚旅行ですね。」


間髪入れずに返された二人の言葉に、ポップは堪えきれず腹を抱え笑い転げ。
今までに見たことない反応だネとキルも愉快そうに薄く笑った。










「・・・・・・とりあえず・・・・敵ではないんだな?」

「おう。だから旦那だって言ってんだろ?」


一頻り笑い転げた後、マァム達と同様の説明を終えれば、
紡がれたラーハルトの確認の言葉に、
ポップは疑り深いねと小さく苦笑を零す。
まぁ彼も一時とは言えバランと共に魔王軍にいたのだ。
会った事はなくとも噂くらいは聞いているのだろうから、
ある程度は仕方ないのだけれど。

けれど、合いも変わらず好戦的だが、ラーハルトも決して暗愚ではない。
過去の遺恨は消せるものではないが、
今現在敵でない者と事を構える必要もない事を知っている。

暫しの沈黙の後、溜息を吐きつつも納得した様子のラーハルトに、
でもさとポップは口を開く。


「普通さ、今まで何をしてた?とか聞くもんじゃねぇの?
何かナチュラルに受け入れられたんで忘れてたけどさ。」

「聞かれたいのか?」

「いや全然全く。
寧ろ聞かないで欲しいけどさ。」

「お前がかなり諦めが悪くてしぶといのは周知の事だ。
心配するだけ馬鹿らしいだろうが。」


憮然と言い放つその言葉に、ポップは目を瞬かせる。
毒に包まっているけれど、それは彼なりの照れ隠しと言うもので。
諦める程弱くないから、無事でいると信じてたと。
そう言う事なのだろうから。
事実、不機嫌そうに見えて、
実は照れ臭さを隠す為に視線を逸らすラーハルトの顔を覗き込む。


「相変わらずテレ屋さん。」

「殴られたいのか貴様は。」


ジロリと今度こそ不機嫌そのもので睨み付けるその様子に、
ポップは冗談だと笑って、
そうしてありがとうと呟いた。








「・・・・・そんなに不機嫌そうでしたらポップさんが益々心配しますよ?」


今も結構心配してらっしゃるのに。
そう言外に伝えるメルルの言葉に、キルは再び歎息する。
だから彼女は苦手なのだと。
そう思いながら。

占い師としての才能も然る事ながら、
彼女は一度意識を共有した所為か、ポップの事に関しては驚くほどに聡い。
勿論全てを知りうる訳ではないけれど、
なんとなくわかるのだろう。
それは自分と半身たる君主と似た様な事なのだけれど。
それでもそれが、酷く苛立たせる要因だとキルは知っている。

彼女がポップを愛している事を知っているからこそ。
そして、元は他人だからこそ。
酷く苛立つのだ。
つまならい嫉妬だと知っているのだけれど。


「・・・・・・・人は近くなればなるほどに情が募るけれど、
深すぎると恋愛ではなくなるのですね。」


小さく聞こえた呟きにゆっくりと視線を向ければ、
ティーポットを持つメルルが、少し寂しそうに笑う。


「お茶のお代わりは如何です?」

「イイヤ。ソレよりも続きが聞きたいものダネ。」


そう言って続きを促せば、メルルはポップへと視線を戻し、
目を細める。
そうして残念ですけれど、と促されるままに言葉を紡いだ。


「私とポップさんの精神はまだ繋がっているんです。
とは言っても辛うじて、ですけれどね。」


それは例えるなら薄い壁を挟んだ様なもの。
普段は聞こえなくても、聞こうと思えば聞けるものなのだとメルルは笑う。

だから、ポップが行方不明になった時も所在がわかったし。
誰にも伝えて欲しくないという思いが伝わっていたからこそ。
沈黙を貫き通した。


「確かに彼を愛しているのに。
その思いは意識を共有した時からゆっくりと変わっていったんです。
彼の気持ちがわかるからこそ、
いいえ、わかりすぎるからこそ。
私の彼への愛は恋愛ではなくなっていった。」

「思い込みじゃないのかい?」

「ですから残念だけれど、と言ったでしょう?
本当にもう恋愛ではないんですよ。」


意地の悪いと言える質問にも笑顔で答えるその様子に、
キルが再び溜息を吐けば。
メルルは悪戯に笑って意趣返しの様に言葉を続ける。


「貴方もご自身の半身と恋愛する気にはならないでしょう?」

「・・・・・・・・・・・・気持ちが悪い事を言わないでくれるカナ・・・・・」


それと同じですよと笑うメルルに疲れた様に頬杖を付いて視線を逸らし、
キルは歎息した。
だから彼女は苦手なのだと。


「それで、お茶のお代わりは如何です?」

「頂きましょう・・・・・」














また来てくださいねと笑うメルルと、
再会した時と同じ様に片手をあげて挨拶するラーハルトに見送られ。
ポップ達はのんびりと歩き出す。


「しっかし、メルルと言いラーハルトと言い変わってねぇよなぁ。」


ぽつんと紡がれた言葉にそう?とキルが視線を向ければ、
ポップは同意を求める様にそう思わないかと問い返す。


「いやボクはまともに会った事ないしネェ。」


だからわからないヨと言葉を続けるキルの様子に
ポップは暫くその様子を眺め、そっかと短く笑った。

キルの機嫌が良くない事は知っていた。
それがメルルに対するものだという事も。
けれど自分にとってメルルも大切な仲間だから。
知っていて欲しかった。
彼女が自分に向ける愛情の種類を。
自分が彼女や仲間に向ける愛情の種類を。

そうしてそれは成功だったのだとキルの様子から知れば、
ヤレヤレと肩を竦めた。


「本当に面倒な奴だよなぁ、お前って。」

「・・・・今更気付いたのカイ?」


なんとなしに呟いた言葉に返事か返れば、ポップはゆっくりと隣に視線を向ける。
そしてキルの笑みに彼も自分の企みを知っていたのだとわかり笑みを深めた。


「いや、知ってたけど再確認しただけ。」

「ボクの愛情の深さを?」


戯れの様なその言葉と一瞬重なる唇に、
馬鹿な奴と笑って見せれば、唇を離したキルはそれで?と言葉を紡ぐ。


「次は何処に行くのサ?」


何処でもイイヨと微笑む姿に、ポップは一度目を閉じて。
そうして視線を目的地に向ける。
ほんの少しだけ寂しそうに。


「次は・・・・・墓参り。」


to be continued




当サイトはラーハルト×メルル推奨です。

・・・・・・・・すいません、大嘘です(汗)
そしてすいません。

ヒュンケル出なかった・・・・・ORZ
ど、努力はしたんです!
もうこれ以上ないってくらい頑張ったんです!!
何とか登場してもらおうとしたんです。
結果。

全然話が進まねぇ(涙)

もうだめだって事で、ヒュンケル兄さんは今度アバン先生と一緒に登場してもらいます。
ごめんよ、ヒュンケル;
君の事は好きなんだけどな:;



そして今回判明した事。
キルさんメルル苦手だったんですね(爆笑)
いやもう口で軽く負けそうになってるキルさんは楽しかったです。

負けるのはポップとヴェルザー様だけじゃなかったんだね。
このまま苦手な人が増えて負け犬化したら
それはそれで面白いかしらとか思ってきちゃいました(笑)
ヘタレなキルさんとか。
そんでポップに仕方ねぇなぁとか言われるの。
妄想しすぎですね(何時もの事です)


次回はお墓参りらしいです。
結構シリアスになるんじゃないかなぁとか思ってます。
つーか今半分ほど書いてますが、すでにシリアス風味です。
うちのポップは(正確には姫宮が)師匠が好き過ぎるので、
気を付けないと、お師匠に全部持っていかれるんですよね。

うちのサイトは多分、

キル<<<越えられない壁<<<師匠

です。
やべぇ、お師匠様至上主義に変更するべきか?(笑)

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