俺達の姿を見た瞬間、
無風だった其処はほんの少し風が吹き。
師匠が・・・
久しぶりだなと笑ってくれた気がした。
大魔道士の帰郷4
「・・・・・・久しぶり、師匠。」
小さく呟いて、ポップはその場に屈む。
綺麗に掃除され、華の添えられた。
師の眠る場所に。
生前暮らした洞窟の側にある小高い断崖。
そこにあるその場は、
以前洞窟に住んで居た時は、毎日の様に訪れた場所。
こうして彼の前に座り、話す事が日課だったとすら思える、
そんな場所。
「しっかし、綺麗なもんじゃん。
もっと荒れ果ててるかと思ったぜ?」
仲間達が定期的に訪れてくれているのだろう事がわかるから。
意外と人望あって良かったな。
そんな風に皮肉な笑みを浮べ、ポップが手入れの行き届いたその場所を見渡せば。
少し強めの潮風がポップに向かい舞う。
まるで、お前とは違うんだと。
そう師に揶揄する様に言われたみたいで。
またポップは少し笑った。
最後まで。
彼はポップの行動を咎める事はなかった。
けれど最後まで。
ポップを案じていた。
大丈夫だ。
それは今際の際に彼が紡いだ最後の言葉。
ダイを探し、手掛かりが見付からないと嘆く度。
その度に彼は慰め、焦るなと笑った。
時間はまだあるからと。
そのくせに。
身を案じポップが洞窟に留まろうとする度。
その度に彼は叱咤し、行けと背中を押した。
心配はいらないと笑って。
そんな師が最後の最後で紡いだ言葉に。
長い時間、頷けずにいた。
「・・・・知ってると思うけどさ、ダイ戻ったんだぜ?
今じゃパプニカの王様だってんだから驚きだよなぁ。
もう、挨拶には来た?」
アイツは義理堅いから、多分来てるよな。
そんな風に言葉を続けてポップは肩を竦める。
「俺?俺はさ、ちゃんと行くよ。パプニカに。
いい加減顔出さないと姫さんに殺されそうだしな。」
ちゃんと会いに行くよ、アイツと一緒に。
そう笑ってポップは後ろを一度振り返る。
小指の先程遠く離れたキルを一度確認する為に。
この場に訪れると言った時、キルは一つ頷いて。
けれど、決してこの場所には近付かない。
それが彼なりの気遣いなのだとポップは知っている。
知っているからこそ、何も言うつもりなかった。
穏やかな沈黙と共に流れる時間の中、
暫く黙っていたポップは、師の眠るそこに視線を戻せばポツンと口を開く。
「・・・・大丈夫だ。そう師匠が言った時さ。
俺・・・全然大丈夫じゃなかったよ・・・・」
今だから言えるけど。
抱えた膝に頬を寄せて、そう継げたポップは静かに笑う。
多分、師はあの時知っていたのだろう。
自分がこの世から去った後、何かが起きるのを。
その力を恐れられ、迫害されるかも知れない。
その力を利用しようとする奴が現われるかも知れない。
理不尽な流れに巻き込まれるかも知れない。
世界を救った勇者達は誰もが歳若く、
幼いから。
その波に飲まれる事を、彼は誰よりも心配していた。
だからこそ。
最後の最後まで微笑んで告げたのだ。
大丈夫だと。
「大丈夫なんかじゃなかった。
キツかった。なんで俺だけって思った。」
俺はただダイを見付けたかっただけなのに。
仲間達ともう一度皆で笑いたかっただけだったのに。
「何で俺だけがこんな目にあわなきゃいけないんだろう。
そう思ったよ。
でもさ・・・・・」
俺はアンタの最初で最後の弟子だから。
そう眦を下げて泣きそうな顔でポップは笑う。
絶望した時もあった。
世界を憎みそうになった時もあった。
それでも。
誰も恨まず、憎まず、諦めず。
生きていられたのは。
彼の言葉があったから。
「最初はアンタが居なくなった時。
次は、この洞窟に居れなくなった時。
んで最後が、喉を潰した時。
生きてるのがイヤになった。もう諦めちまうかって思えた。
でもその度にアンタの声が聞こえるんだ。
大丈夫だって。
その度に、まだ大丈夫って思えた。
何時だって・・・・アンタが俺の背中を押すんだ。」
時に力強く。
時に慰める様に。
もうイヤだと思うたび、師の最後の言葉が聞こえた。
大丈夫だと。
お前はお前だから大丈夫だと。
「やっとさ、大丈夫だって思えるんだ。
俺は大丈夫。
アイツが居るから俺は大丈夫。
そうやって思えるから、師匠に逢いに来たんだ。」
遅くなってごめん。
そう呟けばポトリと小さく涙が零れた。
貴方は俺の最高の師匠です。
今までも、そしてこれからも。
照れ臭くて、気恥ずかしくて。
本人の前では決して言えなかった言葉を紡いで、
ポップはゆっくり立ち上がる。
次はアイツにも挨拶させるから。
少し離れた場所、それでも絶対に自分の見える場所。
そこで己を待つキルの姿に視線を向ければ、
小さく微笑んで。
そうしてポップが師の眠る場所を振り返り、またと呟けば。
またなと風が彼の頬をゆるりと撫でた。
「オカエリ。」
「・・・・・・・・・・・おう。」
師の眠る場所を後に、ゆっくりとけれどしっかりとした足取りで彼が現われれば、
キルは凭れていた岩から背を離し出迎えの言葉をかける。
もうイイの?
そう聞けばポップは良いんだと小さく笑う。
そんな彼の目元が少し赤い事に気付けば、
キルはそっと歎息する。
彼にとって師と言う存在は、多きな部分を占めていた。
勿論、もう一人の師でアバンも彼にとって大切な人間である事には変わりはない。
けれど、アバンともう一人の師では違うのだ。
アバンは彼一人の師ではなかった。
そしてマトリフは彼一人の師だった。
ポップただ一人を弟子と認め、
時間が許す限り彼を支えてきた。
それがまだ幼くも重責を与えられた彼に、どれだけの救いとなっただろう。
どれだけの助けとなっただろうか。
マトリフと言う師は、
ポップにとって唯一年相応に甘えられる存在だったのだ。
もし彼が居なかったら。
ポップは生きる事を諦めていたかもしれない。
重圧と責任に潰されていたかもしれない。
もし生きていたとしても、
己の知る彼ではなくなっていたのかもしれない。
そう考えてキルはゾクリと背中が粟立つ。
出会う前に失くしていたかも知れない可能性に恐怖し、
そして自らに芽生えたその感情に、キルが内心苦笑していれば、
ポップはなぁと小さく声を掛ける。
「次はさ、お前も墓参りに付き合えよ?」
「そうダネ・・・・・・・・・面倒だけど付き合うヨ。」
まさかあっさり了解するとは思っても居なかったのか、
ポップが意外そうにキルを見れば。
彼は静かに笑う。
「ボクはね、意外と義理堅いんだ。
受けた恩は返す主義だしネ。」
「・・・・お前、師匠に会った事あるっけ?」
その言葉にポップが訝しげに首を捻るのを眺めながら、
キルはどうだろうネと肩を竦める。
別にポップが知る必要もないのだ。
けれど、マトリフが居なければ、
彼が彼のままでなかったのかも知れないのなら。
それは恩人と思っても良いのではないのだろうか?
そう思えるから。
墓参りくらい付き合うのも悪くはないと。
そう、思えたのだ。
to be continued
今回はわりとシリアス風味でお届けしました。
お師匠様のお墓参り編。
一番初めに死神シリーズを書き始めた時から、
多分お師匠は鬼籍に入られてるんだろうなぁと姫宮自身も思っていました。
だってお師匠様生きてたらポップ君が行方不明になるわけないですしね。
つーかもし存命だったら、
「うちの弟子泣かすなボケっ!!」
くらいの勢いでメドローアで世界の重鎮達に脅しくらいかけてそうですから(笑)
それにしても意外だったのは、
キルさんがお師匠にヤキモチを焼かなかった事ですかね。
もしかしたらヤキモチ焼くかなぁと思ってたんですが、
どうやら感謝の方向で、姫宮自身がびっくりしました。
うーん、流石だな。師匠。
次ははっきりと明記してませんが
多分パプニカじゃなくてカールに行くんじゃないかと思います。
今度こそ出すぞ、ヒュンケル兄さん。
でもアバン先生とキルってどうなんでしょうねぇ?
原作でも対決してますし。
アバン先生の事気に入らないとか言ってたし。
口下手なヒュンケルがフォロー出切るとも思えないし。
・・・・・・・うちのアバン先生黒いし・・・・・・・・(ぁ)
どんな話しになるか予想不可能。
お話・・・・・纏まるのかな・・・・・;
纏まると良いな・・・・・・
戻る