それはなんて事のない日常のはずだった。
「まちやがれ、馬鹿弟子がぁ!」
「いやだぁぁぁぁぁ!!!」
殺されるうぅぅぅぅぅぅぅ!!と何とも情けない声と廊下を走り回る騒音に、レオナは
またかと頭を抱えた。
バジルの大渦の見える海岸傍の洞窟に居を構えるあの師弟は、
割と日常的にここ、パプニカ城に訪れる。
それは別に構わないのだが、
いや、むしろダイが不在の今
何とかポップをパプニカに引き止めたいレオナとしては
訪問は大歓迎なのだが…。
その訪問の仕方が問題なのだ。
ポップが悪戯をする。(または修行をサボる)
マトリフが怒る。
ポップが逃げ出し、マトリフが追いかける。
そうして、大抵逃げてくる先がアバンの居る場所である
このパプニカ城なのだ。
大戦の時こそ体調を崩し、周囲を心配させたマトリフも
弟子をいびれる位には回復したらしい。
はぁと頭を抱えて、先ほどまで話をしていたアバンに顔を向ければ
アバンもまた何とも言えない顔で笑いを噛殺していた。
それは苦笑とも取れるし、含み笑いにも取れる。
アバンは今相談役兼レオナの教師としてここパプニカにいる。
今度こそカールに戻り腰を据えるかと思えば、
周囲の期待を見事に打ち砕いてくれたのだ。
アバンの言う所にはカールの美しき女王とは友人以外の何でもないそうで。
そして、アバンがレオナの教師としてパプニカに留まっているこの半年で、
いやと言うほど思い知らされた事がある。
…アバンがこういう笑いをしている時は大抵ろくな事がない。
「あの、アバン先生?」
「ふむ、成功ですかねぇ…」
一体何をしたのかと、若干引き攣った顔で笑みを浮かべ、
それでも何とか聞き出そうとした時。
「アバン先生!なんて事してくれたんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
壊れそうな勢いで扉が開かれた。
そうして勢いを衰えさせる事なくそのままアバンに押し迫るポップの姿に、
あぁ顔面蒼白とか絶体絶命ってこんな時に使うのねとレオナは妙な納得すら覚えた。
「師匠が!師匠じゃないし!つか、栄養剤って!何なんですかあれはぁぁぁぁぁ!」
「ちょ、ちょっと何があったのよ?!」
「何ってっ!師匠がジジィじゃなくて!変わりに変なおっさんがいて!」
「はぁ?!」
意味が解らない。落ち着けと言いかけたその時、ゆらりと黒いオーラを
纏わり付かせた男が扉の前に現れた。
「きたぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「だれぇぇぇぇぇぇ?!」
突然現れた男に、レオナとポップは悲鳴を上げながら部屋の隅にあと退る。
歳は20後半から30前半くらいだろうか、大魔王も裸足で逃げ出す様な
真っ黒い笑みを浮かべてその男はアバンに詰め寄る。
「ふふふふふ…相変わらず面白い事するじゃねぇか…」
「おや。若い頃は随分いい男だったんですねぇ。」
「…冥土の土産に言い訳聞いてやるぜ?」
「若返って良かったですねぇ。」
「ほほぅ、言いたい事はそれだけか。」
「内容物の説明も聞きたいですか?
あれは、私が長年研究してきたものですから簡単には教えられませんよ〜。」
相手の機嫌すら意に介さず、ニコニコと笑うアバンに
あぁ、そうだった。この人はこう言う人だったとポップとレオナはそっと涙し、
米神をヒクヒクさせながら男は笑ったまま魔法力を両手に籠めた。
「…取り合えず死ね。」
この所また師匠の調子が良くない。
そうもう一人の師であるアバンにポップが相談したのは昨日の夕方の事。
年齢が年齢であるのだから、いずれは避けられぬ運命であるとしても
出来る事ならば長生きしてもらい。
その為に何とかいい方法がないものかと言うポップに、アバンはそれならばと
小さな小瓶を手渡した。
とっておきの栄養剤ですよと笑うアバンに手厚く礼を言い。
その足で、洞窟に戻ったポップはマトリフにその『栄養剤』を
飲ませた。
そうして何事も起こらず夜は更けていき、翌朝、衝撃がマトリフとポップを襲ったのだ。
「…じゃあ本当にマトリフさんなのね…」
ポップの一通りの説明を聞きレオナが、やや信じがたい顔でそう聞けば
胡坐を掻いた男は不機嫌なまま頷いた。
「あぁ…」
「良かったじゃないですか。これでポップも自由でに動けますよね。」
落ち着いたら一緒に旅もいいですねぇと笑う旧知の仲に、
青筋を浮かべたマトリフが張り付いた笑いを見せる。
「そう言う事か…」
「そう言う事です。」
「まだまだこいつにゃあ教えたい事があるしなぁ。
折角若返ったみたいだし?」
「いやですねぇ、元々ポップは私の弟子ですよ?
私が教えますから。」
「何言ってやがる。こいつが使えるようにしたのは俺だろう。」
「あっはっは。それは偶々でしょう。この子は才能ありましたからねぇ。
基礎が出来てるんですから誰が教えても伸びますよ。
肝心なのは最初ですから。」
「ははは…」
「ふふふふ…」
いっそここから逃げ出したいと恐怖すら覚える笑顔の攻防戦に
ポップはすでに涙目になっている。
この自分の事にはとことん鈍い二代目大魔導師は、おそらく二人の言葉の真意は
理解してないのだろうけど何か恐ろしい雰囲気だけはわかるようだ。
哀れな友人に同情の意を込めつつ、
レオナはこれから始まる戦いの鐘の音を確かに聞き、再び溜息を吐いた。
シリーズ第一弾です。
とりあえず、こんな経緯で若返りました(笑)
いやぁ、アバン先生が別人ですねぇ;;;;
そして姫宮はレオナが好きなのでついつい彼女の出番が増えちゃいます。
(ぶっちゃけ、レオナには迷惑でしょう/反省)
これから色々発展すると思いますが(思うって;)
苦情だけは勘弁を(ビクビク)
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