「振られた。」
朝から出掛けていた彼が、戻ってきたのは昼前の事。
随分早いなと言うより早く、ポップは小さく笑ってそう言った。



ごめんなさい。
どうしても弟の様にしか思えないの。



「だってさ。」
仕方ないよなと肩を竦めるポップに、
マトリフは揺り椅子に座ったまま膝に置いていた本を放り投げ
小さく呟いた。
「…そうか」
「まぁ…何となく分かってたんだけどさ。」
マトリフによって放り出された本を拾いながら、ポップは
苦笑する。



何となく。
本当に何となくだが、予感してたものがあった。
彼女は自分を決して恋愛対象として見る事はないだろうと。
かと言って、では彼女が恋するのは銀髪の兄弟子かと言えば
おそらくそれもないだろう。
あの大戦以来微妙に変わっていった自分の気持ちに、
ポップは気付いていた。
何度も傷つき、立ち上がり必死になって死線を潜り抜けた自分達は
もう友情や恋愛などで括る事は出来ないだろうと。


「マァムの事、今もすっげぇ好きだけどさ…
でも、あいつが幸せならさ。別に俺が隣に居なくてもいいかなぁって。
正直言ってあんまりショックじゃなかった。」
俺って意外と薄情なのかなと軽口で嘯くポップにマトリフは手招きをしてみせる。
ガキじゃねぇんだけどと言いながらも、素直に手招きに応じコツンとマトリフの膝に頭を乗せた。
「…俺のマァムへの気持ちってさ。」
「…ん?」
「恋じゃなかったのかなぁ…。」
「まぁ多分恋じゃねぇな。愛かもしれねぇけど。」
「………違いがわかんねぇ。」
不貞腐れた様に呟くポップに、マトリフは苦笑を浮かべ
少し乱暴に髪を掻き混ぜてやる。
「愛と恋ってやつはよ、似てる様で全然違うんだよ。
恋は1種類しかねぇが愛は山のようにあるからな。」
親愛や友情も愛のうちだろと小さく笑えば、
なるほどとポップは小さく頷いた。




マァムの事が大好きなのは間違いない。
彼女を守りたいと思った。
その為に強くなりたいとも思った。
けれど、愛しているかと聞かれれば、
すぐにYESと答えることが出来ない。
否、愛しているが、それが親愛のものなのか
異性としての愛なのかが分からないのだ。
そしてそれはマァムも同じだったのだろうと思う。



「…愛とか恋とか、よくわかんねぇ…」
乱れた髪を直しながらそう言えば、マトリフは意地悪くにやりと笑い
再びポップの髪を乱暴に混ぜる。
「自然とそうなってるもんだ。頭で理解するもんじゃねぇだろ。」
「そっか。」
これ以上髪をボサボサにされては堪らないと、
マトリフの膝から頭を退かしポップは頷いた。
「なぁ、師匠はさ恋とかってあった?」
「…まぁ長く生きてりゃな。」
「すっげーー知りたいんだけど。」
「教えるかバカタレ。」



好奇心で眼を輝かせるポップを軽く小突き、
マトリフは視線を逸らした。
明らかに話題を変えたいのが分かってポップは更に食いつく。
「いつくらいの話?」
「煩い。」
「いいじゃん。可愛い弟子の今後の為にも教えてくれよぉ。」
「可愛くねぇし。自分で言うな。」
煩わしいくらいに纏わり着くポップに、マトリフは疲れた様に頭を掻くと手招くと
やっと教える気になったかと浮き足立つポップの耳元に呟く。
「……お前だ。」
「…うそだ…」
驚きで戸惑うポップにマトリフは意地悪く笑って見せた。




「自分で考えろ。」



END

マトポプやっと更新です。
ポップくん振られたり告白されたり大忙し;
相変わらずあんまり甘くないけど、少しは進展したかなぁ。
本当に趣味に走りまってる話ですが、意外と反応が良い事にびっくり&感謝の日々です。
これからも頑張るのでよろしくお願いします♪

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