「ねぇ。ポップ君。」
「あん?何だよ?」
何時もの様に顔を出したお茶の席で、
レオナ姫が発した言葉。
それは、多分いずれ考えなくてはいけないけれど。
考えたくなくて逃げてた言葉だった。
「貴方何時までマトリフさんの所にいるの?」
「・・・何時までって・・・」
ほんの少しの沈黙の後ポップは困った様に頭を捻る。
そもそも予定を立てていた訳ではなくて。
ずっと体調を崩していた師匠が心配で、
半ば押し掛ける様に同居していたのだから、
確かに今一緒に居る理由はないのだけれど。
「この生活が当たり前になってたからなぁ・・・」
今更何時までと聞かれてもと苦笑するポップに、
レオナは半ば呆れながら持っていたティーカップを置き、ずいっと顔を覗き込んだ。
「もう!自分のことでしょ!」
「・・・って言われても・・・」
しどろもどろになりながら取り合えず落ち着けと何とか宥めれば、
レオナは椅子に座り直し小さく溜息を尽いた。
「急にどうしたんだよ?」
「・・・貴方、実家にも全然顔出してないらしいじゃないの。」
ノヴァから聞いたわよ。
そう言われ、うっとポップは押し黙る。
確かに言われた通りここ半年程実家には顔を出していなかった。
昔の様に父親が苦手な訳ではない。
あの戦いで変わった自分を父も多少は認めてくれているし、
家を継げなどと言われる訳でもないのだから、
もう少し家に戻っても良いのかも知れない。
けれど。
「まだ帰れないなぁ。」
まだ父親が苦手なのかと聞くレオナにポップは小さく頭を振る。
「そうじゃなくてさ。俺はまだ道を決めてないからな。」
「道?」
「あぁ。道っていうか、生き方?
姫さんはパプニカの女王になるだろ?
でもさ、俺はどう生きたいか決まってないんだよなぁ。」
困惑した様子のレオナにポップは小さく笑う。
「そんなに難しい事じゃないって。
・・・俺さ、別に魔法使いになりたかった訳じゃないんだよな。
ただ、アバン先生に憧れて。
ついでにランカークスから出れれば何でも良かったんだ。」
昔は本当に父親が恐かった。
それは自分が臆病で嘘吐きだったからなのだけれど。
今ならそう理解できるのだけれど。
本当に恐くて、苦手で。
毎日逃げる事しか考えてなかった。
そんな時アバンに会い、
魔法使いと言う道を得て変わる事が出来たけれど。
まだ自分は何一つこれからを決めていないから。
「散々親不孝したからさぁ。
もうちっと胸張ってこれが生きる道だって言えるまで帰れないんだよなぁ。」
「・・・後悔してる?」
「何に?」
「魔法使いになった事。」
「いんや。全然。むしろ感謝してる。
魔法使いにならなきゃ俺は変われなかった。」
「なら良かったわ。
実家に帰りたくないとかそんな逃げる口実でマトリフさんの所に居るんじゃなくて。」
良かったと安堵の息を漏らすレオナにポップは軽く肩を竦める。
「心配症だよなぁ、姫さんて。」
「誰かさんの所為でね。心配が癖になったのよ。」
「それって剣忘れていったあの馬鹿の事かい?」
「そう。誰かのお腹を思いっきり蹴飛ばしてったあのお馬鹿さんの事よ。」
「そりゃ心配性になるわな。」
「でしょう?」
悪戯っ子の様な顔で二人はうんうんと頷き合い、
やがて堪え切れなかった笑いが何時までも和やかに響いていた。
ざぁざぁと潮が打ち寄せる音に耳を傾けながら、ポップは小さく呟いた。
「…ごめん、姫さん。半分は嘘だ。」
波打ち際に膝を抱えて座り、ぼんやりと夕日を眺める。
本当は生き方などと大層な話ではないのだと思う。
もう殆どの修行は終わっていて。
古代魔法などは解読に時間が掛かるが、恐らくは一人でもやっていけるだろう。
ましてや師が若返った今、看病などは無縁のもので。
一緒に住む必要は何処にもないのだ。
けれど、今の生活を逃したくなかったから。
自分はそれを咄嗟に正当化しただけに過ぎない。
あの時マトリフにから告げられた言葉は、本当なのか曖昧すぎて分からないけれど。
たった一言の言葉が、今もぽつんと胸に残っている。
それが何故今も残っているのか、理由すら分からないけれど。
「・・・これがダイなら親友だからの一言で済むのに・・・」
共に在るのに理由が必要な関係なのかと思えば、少し胸が痛んだ。
そこに愛や恋がないと一緒に居れないんだろうか?
ただ傍に居たいから。
それだけでは理由にならないんだろうか?
「・・・もう少しだけ・・・」
理由なんか分からないけれど。
ただ傍に居たいから。
「・・・今のままで居たいんだ。」
END
またもや更新に時間かかった:::
HP改装に思ったより時間掛かったんですぅ;
しかもG.Wに山に篭ってたもんで・・・。
す・・・すいません(土下座)
今回は少し切ない系?です。
ポップ君に少しずつ変化が見られてきました。
ただ傍に居たいって、それを愛と言うんじゃぁぁぁぁぁ!!
と、姫宮は思うのですがポップ君はまだそれに気付かない(笑)
読んで頂きありがとうございました♪
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