いつまでもこのままで。
そんな願いが叶うはずもないのは知っていたけれど。
終わりがこんなに早く訪れる日が来るなんて思わなかった。
「ポップ。話がある。」
師であるマトリフがそう切り出したのは、ポップが戻ってからすぐの事だった。
ポップは帰宅が遅れた事の説教かと一瞬頭の中に言い訳を考えれば、
よっぽどそれが顔に出ていたのか、そんな話じゃねぇと苦笑される。
「へっ?違うのか?」
じゃあ何かヤバイ事が暴露でもしたのか。
そんな風に軽口を叩くポップにマトリフは真剣な眼差しで見据える。
「大事な話だ。」
師と二人で居てこれ程沈黙が息苦しいと、
逃げ出したいと思ったのは初めてでは無いだろうか。
かつてアバンの印が光らず、逃げる様に此処に来た時ですら。
こんなに居た堪れなくはならなかった。
聞いてはいけない気がする。
聞いたら、もう戻れない。
そんな気持ちが早鐘の様に胸の奥で鳴り響く。
「い…今じゃなきゃ駄目か?」
無理に顔に笑いを貼り付けてポップが問うが、マトリフは
ゆっくりと横に頭を振る。
「今じゃねぇと駄目だ。」
すまないが俺にも覚悟があるからと、
そう言われれば、最早ポップにそれを止める手立てはなく。
ぎゅっと唇と噛み締めマトリフを見つめる。
「…お前はいつもそうだな。」
メドローアを教えた時も、恐ろしくて仕方ないくせに
そうやって唇を噛んで逃げだしたい気持ちに耐えた。
何時だって、自分の気持ちよりも相手の覚悟を優先させる。
何が?と首を傾げるポップに何でも無いと首を振り、
マトリフは心の内で小さく礼を言う。
逃げないでくれてありがとうよ。と。
「…ポップ。俺はお前に惚れてる。」
ドキっと大きく鼓動を打つのが分かった。
もしかしたらこのまま死んでしまうんじゃないかと思うくらい、
大きな鼓動と、荒くなる自分の呼吸にポップはぎゅと胸を押さえる。
この人は誰だ。
こんなに真剣な眼で、
真直ぐに自分を見据える人は誰だ。
初めて見るマトリフの一面に上手く言葉が出ずに、
ポップは視線を逸らす。
答えなければいけない。
この人は覚悟を決めて言っているのだ。
己もそれに習わなければいけないと分かっている。
けれど。
戸惑いと。
驚きと。
混乱と。
湧きあがる様々な感情を上手く表す言葉がなくて。
何と答え、言葉を告げたら良いのか思案しているポップのその様子に、
マトリフは苦く笑う。
「…まぁ。行き成り言われたんじゃ声もでねぇよな。」
「………ごめん…。」
「いや、仕方ねぇさ。」
行き成り言われた上に同じ男だ。戸惑うのも無理はない。
優しくそう言い、ポンポンと軽く頭を叩いてやる。
「けどな。俺にも覚悟がある。
もうこのまんまじゃいられねぇ。」
俯いたままのポップの顔を持ち上げ、視線をあわせると
マトリフは真剣な面持ちで言葉を紡ぐ。
「だから選んでくれ。
俺を受け入れて此処にいるか。
拒んで出て行くか。
選択は一つだけだ。」
はぁと小さく溜息を尽いてポップは寝返りを打つ。
眠れる訳が無い。
考える事が多すぎて。
「答えは明日でいい。…か。」
明日の朝答えてくれればいい。
そう言ってマトリフは自分の部屋に戻った。
己も混乱した感情を何とかしようと自室で横になって居たのだが、
冷静になど、なれるはずも無い。
「…このままじゃ駄目なのかよ…」
今のままじゃ居られないのか。
離れたくない。
傍に居たい。
そう思っている。
だけど、この気持ちが何と呼ぶ物なのか分からない。
もし。
もしこのまま答えずにいたらどうなるんだろうか。
答えを先延ばしににして、
答えないままでいたら。
変わらずにいられるのだろうか。
「んなわけねぇな。」
ベットの上でごろりと仰向けになり、ポップは片手で顔を覆った。
変わらずにいられる訳がない。
だって自分は知ってしまったのだから。
曖昧な言葉ではなく。
はっきりと聞いたのだから。
受け入れられなければ。
その先にあるのは決別。
もし、そうなったのならば。
もう二度と会えないのだろうか?
偶には会って貰えるのか?
以前みたいに笑って貰えるのだろうか?
「っ!!」
嫌だと思った。
二度と会えないなんて。
離れるなんて。
そんな事は嫌だと。
「…なんだ…答え出てるんじゃん、俺。」
傍に居て欲しい。
離れないで欲しい。
この感情の名前は分からなくても。
この気持ちが本物なら。
それを伝えればいいだけなのだ。
ぎゅっと胸の印を握り込みポップは立ち上がる。
そうして一つ深呼吸すると部屋を後にした。
部屋の前で大きく息を吸い、ポップは決意した様に扉を叩いた。
一瞬、寝てて欲しい。
気付かないで欲しいと思った自分を叱咤する。
「…逃げるな。もう決めたんじゃないか。」
未来が欲しいなら進むしかないんだから。
だから逃げるなと、そう呟き。
扉が開かれるのを待った。
「…どうした?」
ガウンを羽織り、マトリフはほんの少し驚いた様子でポップを招き入れる。
だがポップはそこから動こうとはせず。
ぎゅっと印を握り締め、マトリフを見つめた。
「答えが出たんだ。だから、聞いて欲しい。」
「…そうか…」
中で話すかと聞けば、ポップは左右に首を振る。
「ここでいい。…俺臆病だからさ。今すげぇ恐いんだ。
だから…決意が鈍らない内に…聞いて欲しいんだ。」
分かったと頷くマトリフに礼を言い、ポップは視線を離さないまま
言葉を紡いだ。
「正直、自分の気持ちがわかんねぇ。何て言ったらいいかわかんねぇんだ。
だけど。だけど、俺は師匠と離れるのは嫌だ。
傍に居たい。
一緒に居たいんだ。
これじゃ答えにならないか?」
「…それは弟子としての感情じゃないのか?」
それならば答えにならないと溜息を尽くマトリフに、ポップはカッとなり
声を荒げる。
「違う!!そんなんじゃない!」
ただの弟子ならこんなに苦しくなんてならない。
傍に居る事の理由まで探したりしない。
離れたくないから。
傍に居たいから。
「弟子としての感情なんかじゃない。
俺はあんたの隣に居たいんだ!
あんたの隣に他に誰かが居るなんて耐えられないんだ!!
だから…っ!」
言葉は最後まで続かなかった。
突然腕を掴まれ、ポップはマトリフに抱き込まれる。
予想してなかった事に戸惑っていると、頭の上から声が聞こえた。
「…それでいいんだな?」
「師匠がいい。師匠じゃなきゃ嫌だ。」
気持ちの名前が分からなくても、離れたくない想いは本物だから。
戸惑いながらも腕を背中に回せば、一層強く抱き締められる。
「俺はもう我慢しねぇぞ?」
「…うん。」
「覚悟は出来てんだろうな。」
「…うん。」
そっと頬に触れる掌にポップは静かに眼を閉じる。
覚悟などない。
それを与えるのがマトリフであるのなら、
それは恐怖ではないのだから。
覚悟を決める必要など何処にも無いのだ。
降りてきた柔らかな口付けにポップは小さく微笑んだ。
END
やっと告白できました!!!!!
つ〜か長くてすいません;(土下座)
なんとか告白終了そして両想いに…ww
これでやっとLOVELOVEな二人を書く事が出来ます〜〜〜〜!!
最初は4話くらいで告白できるはずだったのに中々上手く進まず…
やっと出来上がったよ。長かったよ(号泣)
ちなみにこの後二人が何をしたのかは内緒のお話(ぇ)
まぁ次の日ポップ君は動けないんでしょうけどね!!(笑)
多分裏で書きます。多分ですが;;
若師匠シリーズもとりあえず一段落。ここまで読んで下さって本当にありがとうございました!!(礼)
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