その沈んだ表情にマトリフはあぁと内心小さく嘆息した。
出来るならば、変わってやりたいと願うほどに沈んだそれ。
俯き、小さく唇を噛むポップにマトリフは黙って手を差し伸べた。




ぎゅっと己にしがみ付くポップを抱き止めながら、
マトリフはただその頭を撫でてやる。
弟子になって5年、大切な恋人になって4年。
変わらないその仕草に苦笑を洩らしつつ、
その事実にマトリフは胸の痛みを懸命に隠した。

そう。
彼は何一つ変わっていないのだ。


顔立ちも。
背丈も。
恐らく、
年齢すら。


魔法使いは時に並の人間より年を取るのが遅い事がある。
それは自分の身に纏う魔力が影響を及ぼしているのか、
それとも魔の力を扱うためか。
何一つ解明されていないけれど、
そういった事があるのは事実だった。
それはマトリフ自身身を持って知っていた。
若返るまで己もまた百年近い時を生き、
そしてその間の長い間やはり周囲に比べると年を取るのが遅かったのだから。

けれど、彼の場合は違う。
若くして絶大な魔力を身に宿した為か、
それとも竜の血を受け入れた為か。

彼の時は動く事はなかった。



「・・・・・旅に、出たい・・・・」

マトリフの首に顔を埋めたままポップは呟く。
手掛かりを探して、戻る度沈んだ様子を見せる彼だけれど。
今日の様子は何時も以上のものだった。
だが、マトリフは其れについて何も触れない。
カタカタと震える手が、彼の心の内を語っていたから。

恐らく、もう時は動かないだろうと。


「・・・・もう駄目か?」

ぽつりと聞いてやれば、ポップは何がとは聞かず黙って頷いた。
変わらない時間に気付いてから、懸命に探し続けた数年。
良く頑張ったとそう思うからマトリフは旅に出たいと願うポップを
逃げ出すとは思わない。

少年から青年へ。

大切と胸張って言える仲間達が成長していく中、己だけが変わらないその辛さ。
良く耐えたと、内心そう呟いてマトリフはもう一度その頭を撫でてやる。



「まぁ、この洞窟も飽きて来たしな。」

次は何処辺りが良いかと小さく笑いながら聞けば、
ポップは恐る恐る顔を持ち上げた。
その表情は、良いのかと訴えていて。
マトリフは益々笑みを深める。

「俺と離れてぇのか?」
「・・・・そうじゃない・・・」

掠める様に口付けてそう聞いてやれば、
慌てて首を振るポップは小さくでも、と呟く。
ん?と先を促せば微かに震えた声でポップは言葉を紡ぎ始めた。

「・・・俺、多分普通には死なないと思うし・・・・」

首を斬られるか身を消滅させるか。
恐らく普通に生活していれば死ぬ事はない自分の体。
限りなく不死に近い不老の体。
それは一所に定住出来ない事を案に示しているから。
その長い時間の放浪に付き合わせるのは嫌だと思った。
それでも。
離れる事が辛いとそう思っているのもまた事実で。
マトリフの言葉が嬉しくもあり申し訳なくもあり。
何と己の感情を表現して良いのか分からず再び俯けば、
少しの間を置いてマトリフの溜息が聞える。
馬鹿な奴めと聞える言葉に顔を上げればぶつかる視線。
そうして、酷く優しい顔だった。


「・・・・俺がお前を手放すと思ってんのか?」
「師匠・・・・」
「付き合ってやるよ。最後まで。」
「うん。」
「俺が死ぬ時は殺してやるから。」
「うん。」
「だから泣くな。」
「・・・・・・うん・・・・・・」



ぽろぽろと零れ落ちる涙を拭って口付ければ、
ポップはそれでも止まらない涙をそのままに呟いた。
それは時が止まったと知った時から、
一度たりとも口に出せなかった言葉。
心の底ではずっと願っていた言葉だった。


「・・・・・傍に居て欲しいんだ。」
「分かってる。」
「離れたくないんだ・・・・・」
「知ってるさ。」
「・・・・一人は・・・・怖い・・・・・・」


胸に縋る様に抱き付くポップを両の腕で受け止め、
マトリフはあやす様に何度も口付ける。
どうそれを伝えたら良いのだろうか。
離れたくないのは自分も同じなのだと。
いや、自分こそ離したくないのだと。
泣きじゃくる愛しい恋人に伝えるにはどうしたら良いのか。
離れるくらいなら。
壊してやりたい位愛しいと言うのに。


そうしてようやっと泣きやんだポップにマトリフは微笑む。
安心させる為だけではなく、
心の底からの本心を。
少しだけ痛む心を隠して。

出来るならば変わってやりたいと願うけれど、
叶わないのならば、
ただ何時までも傍に。
そう願わずに居られないから。
ありったけの思いを混めて囁いた。


「・・・・俺から離れるな。」





END




はい、久々のマトポプです。
いやぁぁぁぁんw楽しいよぅ!書いてて!!!

あ、ちなみに続かない上に全くの偽装でございます!!(爆)

ただね、書きたかったんですよぅww
あははははは!!!

やっぱりあれだね、愛だね愛!
マトポプ最高ww
楽しんで書くのが一番と再確認した今日この頃。


まぁた書き手だけ楽しくて申し訳ないデス;



読んで頂きありがとうございましたw




戻る