人には〜の様なと言う形容詞がある。
太陽の様な。
空気の様な。
人其々例えられる形は違えど、それは何かしら思い当たるもので。

そして、彼に当て嵌めるとするならばそれは……





その声が聞こえたのは、夕刻近く。
そろそろ手元の本が読み難くなってきた頃だった。
弟子兼恋人であるポップはすでに食事の支度の為台所に向かっており、
軽快な包丁の音が響き渡る。
元々一人暮らしで必要最低限な物しかなかったこの洞窟も、
いつの間にか生活に必要な物が溢れ、台所に至っては
最早自分の居た頃とは比べ物に成らない程物が充実し、同時に自分が立ち入る場所では無くなった。
ポップ曰く、邪魔だから来るな。との事だ。
元々自分の棲家であったはずなのに随分と酷い言い様ではあるのだが、
事実一切の家事など頓着しない性質だったので、言われるままに任せている。
そんな時、台所からポップの悲鳴が聞こえたのだ。
最初は何か落としたのかと思ったが、
よくよく考えればその程度であれ程の声で叫ぶ訳が無い。
一体何があったとマトリフは立ち上がり、小走りで彼の元へ向かった。
そこには。




「うわわわわっ!何処から出てきたんですか?!アバン先生!」
「う〜〜ん、会いたかったですよ。ポップ。」
「い、いや!あの!包丁が危ないんですって!!」

包丁を持っているポップを後ろ抱きにして纏わり付くアバンの姿があった。


マトリフはひくりと頬が引き攣るのを自覚した。
むしろ此処で穏やかに良く来たなと言える奴が居たら教えて欲しいものである。

「暫く見ない内に少し痩せたんじゃないですか?」
「え?いや、そんな事はないと思うけど…あ、あの先生?」
「何です?」
「腰掴まれてると動けないんですけど…」
「ちっちっちっ。そんな事は気にしちゃいけませ…っ!」
「良い加減にしやがれ!!」

ドンっと良い音が響き、アバンが地面に口付けると同時にマトリフはポップを自分の腕に抱きこむ。

「〜〜っ。流石にぐーで殴られると痛いんですけど。」
「当たり前だ!何しにきやがった!」

ほんの少し涙目で頭を擦るアバンをジロリと睨みつける。
ポップに至っては何が起きたのか状況を把握するのに精一杯の様で、
頻りに両方を見やっている。
どちらに声を掛けるべきか迷っているのだろう。

「何しにって可愛い弟子の様子を見に来たんじゃないですか。」

何かそれに問題でも?と一見人好きのする笑みを浮かべるアバンに、
マトリフは再び頬が引き攣る。


「…弟子の様子見るのに抱きつく必要はねぇと思うが?」
「いやですねぇスキンシップですよ。スキンシップ。
可愛い弟子との円滑な関係を保つには大事ですよ?」
「はっはっは。じゃあヒュンケルにも同じ事するんだな?てめぇは?」
「いやですねぇ。いくら弟子でも20歳過ぎた男に抱きつく趣味はないですよ。」
「ほぉぉぉぉ。スキンシップは必要なんだろ?」
「スキンシップの仕方はそれぞれでしょう。
全員に同じスキンシップなんて出来る訳無いじゃないですか。」


マァムにこんな事したらセクハラですよと軽く笑うアバンに、
そろそろ攻撃魔法でもお見舞いしてやろうかとマトリフは拳を握る。
そんな時、マトリフの腕の中から控えめに声があがる。

「あのさ。」
「…どうした?」

わざと見せつける様に抱き直し問うてやれば、今度はアバンの頬が軽く引き攣るのが見えた。
ふんと軽い優越感に浸り視線をポップに戻す。


「いや…だからってその前に放してくれよ。」

照れ臭そうに体を捩るポップの姿に、アバンはチャンスを見付けたとばかりに
目を光らせポップの腕を掴み引き寄せる。

「んっふふ。マトリフ。嫌がってる見たいですよ?」
「え?いや、あの。」
「…はぁ?そいつは照れてるだけだろ?見てわかんねぇのか?」
「おや?照れてる様には見えませんでしたよ。」
「その若さでもう老眼か。流石に同情するぜ。」
「あの…だから…」
「いやですねぇ。老眼は貴方でしょう。目だけは若返らなかったんですねぇ。」
「はははは。それは俺のもんだ。嫌がるわけねぇだろ。」

アバンからポップを取り戻し、抱きしめればぐぇっとなんとも情けない声があがる。
どうやら少し力が強かったようだ。

「もの扱いなんて酷いですねぇ。苦しがってるじゃないですか。」

一瞬腕の力が緩んだ隙を逃さず、引き寄せられたポップは再びアバンの腕の中。

「いや…あのさ。だから…」
「そいつを放せ。」
「何でですか。嫌がってないんだから良いじゃないですか。」
「俺が!嫌なんだ!」
「あの・・・もしも〜し?」
「男の嫉妬は醜いですよ〜?」
「余計なお世話だ。放せ。」
「・・・話聞いて欲しいんだけど・・・」
「だから、弟子とのスキンシップを邪魔しないで下さい。」
「はぁ?そんなもんは他の弟子とやれ。」
「嫌ですよ。私はポップに会いに来たんですから。」

ぷちりと何かが切れる音がした。
例えるならばそんな表現が一番適切であろう。
段々子供の喧嘩の様になってきた二人の口論は突然終わりを告げる。

「・・・あのさ・・・聞けよ?」


地の底から響く様な声に二人はぴたりと押し黙る。
声の主に視線を向ければ、そこにはポップが小刻みに肩を震わせていた。


「さっきからさ・・・人の話も聞かないでさ。」
「え・・・あのポップ?」
「お、おい。落ち着け。」
「そりゃさ。たまにしか会えない先生と師匠が話してんだからさ。
俺だってゆっくり話してて貰いたいと思ったよ。」


二人の言い争いの様な会話も、二人の挨拶の様なものだとポップは認識していた。
だからこそ、邪魔をするのもどうかと思い、極力会話に参加する事も控えたつもりだ。
けれど、物扱いされる上、
腕を引っ張られ二人の間を行ったりきたり。
あげくコチラの言葉は綺麗に無視である。
これで怒らなければ聖人君子も真っ青である。


「だけどさ。俺にだって都合があるんだよ・・・」

ひくひくと顔が頬を引き攣らせながら、ポップは笑みを浮かべる。


「・・・・飯の支度の邪魔すんなら出てけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」




ポップの怒りに任せた攻撃魔法が炸裂するまであと10秒。







人には〜の様なと言う形容詞がある。
太陽の様な。
空気の様な。
人其々例えられる形は違えど、それは何かしら思い当たるもので。

そして、彼に当て嵌めるとするならばそれは……


「台風」

怒り狂ったポップが暫く口を利かない事が容易に想像できてマトリフは深く溜息を吐く。
時折現れるアバンと言う名の台風は多大な被害をもたらすのだ。

END



ua様から頂いた『マトポプで黒いアバン先生が出場』なリクエスト。
・・・何か間違えた様な気がするのはワタクシだけでしょうか・・・(滝汗)


ua様。す・・・すいませ〜〜〜〜ん!!!
こんなのしか浮かびませんでした!!!(土下座)
あ、あのですね。気に入らなかったら返品可ですので;;


UPが遅くなった上にこんなもので本当にごめんなさいぃぃぃ。
最後になりましたがキリリク本当にありがとうございました(礼)

責任取って切腹!!!
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