いつかの未来で再び出会えた時。
胸を張って笑いたいから。







街中でそこだけ時間が止まった様に立ち止まるポップを見て。
マトリフは静かに溜息を尽いた。

またか、と思う。
だから嫌なんだ、とも。
何時だって彼はそれを見ると辛そうだから。
街には出たくないのだと。


彼の視線の先には。
子供達が映っていたから。


大魔王との戦い以降、彼は良くああして立ち止まる。
今はいない勇者と同じ年格好の子供を見つけると必ず。
恐らく本人も意識している訳ではないだろうそれは、
見ている方が言葉に詰まるほど、
切なそうで、
悲しみに彩られていた。

『あいつに誰よりも平和な世界を見て欲しかった。』

いつだったか彼がそう洩らした事を思い出し、
マトリフは未だ動かないポップを見つめた。
こんな時に掛ける言葉が見つからないのだ。

子供たちは笑い、辺りを走り回る。
やっと得た平和を愉しむかの様に。
口々に何かを言い合い、
追い掛け合い、
そして彼らの横を通り過ぎ掛け抜けていく。


「なぁ!次は俺が勇者な!!!」
「じゃあ俺大魔道士!!」
「あたしお姫様がいい〜〜!!」


きゃぁきゃぁと笑い、通り過ぎ様に聞こえるその言葉達に、
ぴくりとポップの体が揺れた。
その様子にマトリフはがしがしと自分の頭を掻き、ポップの方に手を置いた。

「・・・良かったな。」
「何が?」

まるで八つ当たりする子供の様に、機嫌の悪さをそのままに、ポップは意味が分からないと呟く。
そう。それは理不尽な言い様のない感情なのだろう。

何故、子供達が平和に暮らすのにあいつはいないのか。
何故、あいつだけが犠牲になったのか。

たとえ生きてると分かっていても、
ポップにとってたった一人の親友であるダイが、 今この世界にいない事が理不尽だとしか言い様がないのだ。

「あぁやってガキが何時までも外で遊んでられるのはあいつのお陰だろ?
良かったじゃねぇか。」
「・・・・でも、あいつはいない。」
「でも忘れられた訳じゃねぇ。」
「そうだけど!!でも!!」

ばっとポップは振り返り今にも泣き出しそうな顔でマトリフを睨む。
正確には、泣くのを堪えた様な顔で。

「でも・・・俺は・・・」

これがあいつの救った世界で、
子供達が笑ってるのもあいつのお陰で。
そんな事分かってる。
だけど。
誰よりも頑張ったあいつが居ないなんておかしいじゃないか。


そう呟いてポップは再びマトリフに背中を向ける。
その背中は小刻みに震えていて泣いているのだと容易に想像出来た。

「ならおめぇはあのガキどもに一生笑うなって言いてぇのか?」
「・・・・違う!」
「それとも一生勇者に感謝して暮らせと?」
「違う!!そんなんじゃない!」
「違うってんならいつまでも拗ねてじゃねぇよ。」
「っ!!」

言葉に詰まり、ポップはそのまま俯く。
時折聞こえる嗚咽にマトリフは舌打ちするとそのまま片手で抱き寄せた。

「俺は・・・・俺は・・・」
「・・・別に怒っちゃいねぇよ。」
「・・・・羨ましいんだ。」
「あぁ。」
「でも、それ以上に悔しいんだ・・・
あの子達が幸せそうなのをあいつが見れないのが・・・・
誰よりも皆の幸せを望んでた奴が!
今のこの世界を見れないのが悔しい!!」
「・・・分かってるさ。」

羨ましかったのは、
平和を素直に甘受出来る事。
悔しかったのは、
・・・・その姿を見せる事が出来ない事。

ただ一人の親友に。

それが叶わない事がどうしようもなく辛くて、悔しいのだ。


「・・・あいつは皆の胸の中で生きてる。なんて月並みな事は言わねぇぞ。」

そう言えばポップは涙を拭いながら頷く。
そんな台詞は聞き飽きたのだし、それに同意は出来ないのだから。

「だがな、帰って来ない訳じゃねぇ。いつかの為にお前がやる事はあるはずだろう?」
「・・・いつか・・・・?」
「平和ってのは維持すんのが一番大変だ。
直ぐに欲に負けるからな。
10年先、いや100年先にあいつが戻った時まで平和である事。
それがお前の出来る事じゃねぇのか?」
「平和の維持・・・・」
「見て欲しいんだろ?親友に。」
「・・・・・・うん。」

人の欲には限りがなくて。
何時だって与えられた物には直ぐに慣れてしまうから。
たとえ魔物が居なくともあっさり平和は崩れてしまうから。
勇者が戻る日まで、
それを維持し続ける事こそが本当の戦いなのだと。
そう告げるマトリフにポップはもう一度頷く。

「・・・あいつもどっかで戦ってんだよな。きっと。」
「だろうな。」
「俺も・・・・戦わねぇとな。」

戦う場所も意味も違うけれど。
気持ちはきっと変らない筈だから。
ただ一人の親友が望んだ世界の為に。

「師匠・・・・ありがと。」

ぽつりとそう呟けばマトリフは黙って頷く。

再びマトリフの方に向き直り、手伝ってくれるかと聞けば。
彼は滅多に見せない柔らかい微笑を浮かべ答えた。


「もちろんだ。」



決意を秘めポップはぎゅっと拳を握る。

もう泣いていられない。
後悔していられない。


いつかの未来で再び出会えた時。
胸を張って笑いたいから。
そして言ってやりたいから。




これがお前の救った世界だと。


END


アイ様からのリクエスト。
『ちょっと凹んでるポップを優しく慰めながらも、発破を掛けて元気にさせてしまう師匠』でございました。

ちょっとじゃないよ!激しく凹んでるよ、ママン!!(マテ)

う〜〜〜ん、しかも暗めですな・・・orz

で、でも頑張って師匠は発破掛けてましたよね?ね?

ものすっっっっごい言い訳するなら、
ポップ君は誰よりもダイ君に平和な世界を見て欲しいんだと思います。
それで、これはお前が頑張ったからだぞって言ってあげたかったんだと思う。
人とか人じゃないとか関係なくて、ただお前って言う存在がそれを与えたんだから胸を張れって。
だから、ダイと同じくらいの背格好の子供を見ると凄く悔しいんだと思います。
子供相手じゃなくて、自分自身がね、凄く悔しいんですよ。
それを言ってあげれなかったのが、ね。

何て思ったりしながら書いたのですが・・・伝わりましたでしょうか?
少しでも伝わったら嬉しいなと思ったりもするのですが、伝わらない場合は文章力のせいですな!!!(滝涙)

この作品はアイ様に捧げさせて頂きますw
毎度の事ですがお持ち帰りも返品も可でございますので!!


アイ様素敵なリクをありがとうございました!

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