世界随一の魔力を持つと謳われる大魔道士ポップ。
彼がランカークスのと言う小さな村の出身である事はあまり知られてない。
その小さな武器屋の店主は、騒がしい店の様子に疲れた様に溜息を付いた。
外から来る者など滅多にないこの小さな村に現れた、
突然の訪問者達は娯楽の少ない村の格好の話題となり、
まるで祭りの様な騒ぎになっている。
仕方がないと言えば仕方がないのだろう。
その訪問者が大魔王と戦った勇者の仲間であり、
世界最高の魔法使い。
大魔道士その人なのだから。
偉大と呼ばれる人物の訪問に当然村は騒然となり、歓喜した。
村を挙げての祝いが開かれ、渦中の人物もそれに気を良くした様に中心に座っているのを見た時、
酷く呆れたのを覚えている。
だが、そこまではまだ良かった。
折角の祭りに水を差す気はないからと黙ってはいるだけで良かったのだから。
村人に見に行かないのかと聞かれても忙しいと切り返せばそれだけで済む話だったのだから。
だが。
その大魔道士がまさか自分の店に現れるとは。
突然現れた偉人に村長などは興奮し、
何で好きな物を持っていって下さいと言わんばかりに店内を案内する。
さして広い店でもないのに案内などいらないだろう。
そもそも此処は自分の店であって、その自分の店の物を勝手にくれてやろうとするな。
そんな風に思いながら、店主はその様子を見守る。
もちろん代金はもらうつもりだが。
それにしても。と彼は黒い髪の大魔道士をちらりと見やり
小さく呟いた。
「・・・めでたい奴だな。村長も。」
本物かどうかもわからないのに。
大魔道士が黒い髪なのは有名だが、この世界にどれだけ黒い髪の人間が存在すると思っているのか。
有名になればなるほど偽者が現れるのが世の常だと言うのに。
それを疑いもしないのが本当におめでたいと思う。
外とあまり交流のない小さな村だこそ純朴で信じやすいのだろうけれど。
またそこがこの村の良い所であるのだろうけれど。
もう少し疑うべきだろうと、そんな事を思いながら店主は成り行きを見守る。
彼の持つ派手に装飾された杖は、一見豪華に見えるが何の力も篭っていない。
武器を扱い、生み出した事の在る者なら直ぐに屑と分かるような代物。
それをこれ見よがしに振るう時点でその力量が分かるというものだ。
『本物』の大魔道士は、あんなに自分を誇示したりはしない。
自分の強さを自慢げに語り、
勇者が消えた事を人前で嘆きはしない。
どれだけ辛くとも、決して人の前でそれを見せない。
「まぁ顔は偽者の方が上かもな。」
そこだけは偽者の勝ちだなとひっそり笑い、
見ているのも飽きたと視線をカウンターに置かれた1本の杖に移す。
黒い宝玉を中心にしたその杖は、
村外れに住む友人の作ったもの。
持ち手に鳳が彫り込まれた華美ではないが洗練された美しさを持つその杖は、
今朝方彼の弟子によって届けられた。
誰が見ても最高の物と分かるそれを、受け取るべき人物が戻るまで邪魔にならぬようにと棚に上げ様とした時。
背後から声が掛かかる。
「・・・・その杖を見せていただけませんか?」
売り物じゃないから見せられない。
そう店主が言うより早く、村長に見せるように言われ、彼は心底面倒臭そうにそれを渡した。
まじまじとそれを見つめ、感嘆の声が上がる。
「これは・・・・素晴らしい・・・」
「そいつは売りもんじゃないんでね。」
次の言葉が容易に想像出来て、店主が牽制する様にそう言えば、
大魔道士は表情を曇らせた。
その表情は何と言えば良いのか悲しみに彩られている様に見えるのだろう。
「・・・・そうですか・・・これさえあれば勇者を探す旅も
もう少し楽になると思ったのですが・・・・・」
仕方がありませんね。
そう呟く表情は明らかに落胆の色が見える。
一見は。
演技もそこまで出来ればたいしたもんだ。
そんな侮蔑の色を滲ませ店主は手を差し出した。
握手などではない。
その手に持つ杖を取り戻すために。
「お前さんにはその立派な杖があるじゃねぇか。」
中々渡そうとしないその姿に苛立ちを隠さないままそう言えば。
大魔道士は更に同情を誘うような声で話し始める。
「確かにこの杖もパプニカの姫より承った大切な物。
けれど、これでは力が足りないのです。
何処かで今も戦っている勇者と再び共に戦うにはこの杖のような強い力が必要なのです。」
「・・・・・その杖はアンタにゃ扱えねぇよ。」
いい加減演技も芝居も見飽きたと店主は吐き捨てる様にそう言うと、
半ば強引に大魔道士から杖を取り戻す。
何をするんだと言いたげな村長を一睨みし黙らせ、再び大魔道士を睨んだ。
「勇者の為だって言うんなら、何でこんな所にいるんですかね?
アンタは。
こんな辺鄙な村でお涙頂戴な芝居するより
さっさとその居もしない勇者とやらの元へ駆け付けりゃいいじゃねぇか?」
あれが大切な友達を探し出すまでどれだけ涙を堪えてたか。
どれだけ取り戻すために努力したか。
それを知らない奴が勝手な妄想でそれを作り上げ、
ましてや語る事など許さない。
言葉に詰まる大魔道士の胸元を掴み、店主は小さく低く言い放つ。
「いいか、『本物』は臆病で情けないがな、絶対に仲間を見捨てない。
武器がねぇだとかくだらない言い訳なんかしねぇ。
大怪我しようが血反吐はこうがじっとなんかしてねぇ。」
『本物』と知ると語る店主の言葉に青褪める姿は、
笑いが込み上げる程滑稽で。
そんな様子に幾分かの溜飲を下げながら店主は止めとばかりにその言葉を紡いだ。
「・・・・そう言う自慢の息子なんだよ。『本物』はな。」
「たっだいま〜。」
急用が出来たからとそんな直ぐにばれる様な言い訳をしながら大魔道士が自分の店から去り、
あぁ、やっと静かになったと一息付いた頃。
店の扉が再び開かれ、騒がしい声が聞える。
帰って来たかと視線を向ければ、そこには満足そうな笑みを浮かべたスティーヌとポップの姿があった。
「親父も来れば良かったのに。すっげぇ良かったんだぜ?」
「本当ね。凄く素敵なお祝いだったわ。」
おかえりと言うより早く口々に騒ぎ出す姿にジャンクは苦笑する。
勇者が無事帰還し、その祭典が3日前より開かれていたと知ったら、
この小さな村は別な意味でまた騒ぎになるだろうと思いながら。
「ダイが会いたがってたぜ?
まぁあいつの事だから時間出来りゃ来るんだろうけどさ。」
どうせ暇な店なんだし休めば良かったのにと悪戯に笑うポップを一瞥し、
ジャンクは大仰に溜息を付く。
「・・・・今回ばっかりは俺もそう思ったな。」
END
8000hitは鴉様よりリクエスト。
『ポップ、実家での親子団欒』
ジャンクさんは決して息子の前で褒める事はしません。
でも、本当は凄く誇りに思ってるんです。
だからこそ絶対に自分の息子が大魔道士だとは言わないでしょうね。
息子が昔馴染みと再会した時に距離が出来てしまうのを考慮して。
特に昔ベンガーナお抱えだったジャンクさんはその辺が良く分かっているのです。
そんなお父さんて良いなって思いつつ、
そしてそれが皆様も共感してくれると嬉しいなととも思いつつ。
気が付けばあんまり団欒してない罠。
ほのぼのもしてない気がします・・・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
いい加減湾曲した解釈はやめろ、自分(泣)
鴉様!
お優しい言葉と下さるのに期待を裏切るアホですいません;;
本気で申し訳ないです(T-T)
毎回の事ですが返品可です!!!
本当に実力不足でごめんなさい;;
そして素敵なリクエストありがとうございました!(礼)
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