「あ〜〜〜〜!もう!」
本当にイヤになる!
そうレオナが怒りに任せテーブルを叩きつけたのは、
ロモスの使者としてマァムが訪れ。
そしてまた、偶然にもダイの捜索の報告にとヒュンケルも訪れていて。
レオナの補佐を務めるアバンが、久方振りの弟子達と暫し休憩を取っていた
穏やかな日差しの午後だった。
彼女自身、仲間と会うのは久しぶりで。
忙しい身の僅かな気分転換にと。
この場に訪れる事を楽しみにしていたのだが。
その楽しみな気分は道すがら会ったその人物達によって一気に害された。
「ちょっと。どうしたの?レオナ。」
何かあったのと心配げに声を掛けるマァムにまぁねと頷いて。
己の為に用意された席に座るとふっと一息付き。
彼女はソレを言葉にした。
「うちの大臣達とやりあったのよ・・・・・・。
あのジジィども。大戦の時にはちゃっかり逃げてたくせに、
今になって古株ですって顔しやがって。」
全く失礼よねぇと呟くレオナの顔は、
笑顔である筈なのに恐ろしい。
何処か視線を彷徨わせながらそう思ったのはヒュンケルだ。
マァムはと言えば、流石にジジィは不味いわよと諌めてはいるが
若干顔が引き攣っている。
「大体さ、何よ。
イヤミったらしく古代文字の原本なんか持って来てさ。
『レオナ様も時期女王となる身。
このくらいの文字が読めねば臣下に示しが付きませぬ。
御自ら勇ましく外交に向われるより
成さねば成らぬ事は山の様に御座います筈では?』
ですって?!
少しばっか学があるからなんだって言うのよ!!
長生きの干乾びたジジィだから物知ってるだけじゃない!
そもそもあのジジィどもが何一つ役に立たないから
あたしが直接外交とかする葉目になるんでしょうが。
新しく採用した文官達をアンタ等古株が散々いびってくれるから
皆辞めちゃって慢性人手不足なのよ!
はっきり言って教養なんて身に付けてる暇ないの!
やる事がありすぎて追い付かないの!!
成さねば成らぬ事があるって言うんなら
アンタ等が働きなさいよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
ゼィゼィと肩で荒く息を付き、それでも怒鳴った事で幾分か落ち着いたのか
レオナは深々と溜息を吐き本当はねと言葉を続ける。
「あの大臣達を罷免できれば一番良いのよ。
そうすれば採用した文官が辞める事もないし、人手不足は補えるわ。」
「何か理由を付けて罷免する事は不可能なのですか?」
そう問うヒュンケルにマァムも賛同するが、レオナは困った様に首を横に振る。
それが出来れば本当に話しは早いのだけれど。
それが出来ない理由があるのだ。
「簡単に言えばね。古代文字を訳せる人間が居ないのよ。」
知ってると思うけど、とレオナは言葉を紡ぐ。
パプニカは昔から多く賢者と輩出して来た国だ。
むしろ、賢者だけではなく、
僧侶、魔法使いを目指すのであれば一度はパプニカに訪れる事になると言っても過言ではない。
その最たる理由に挙げられるのが、国立図書館であった。
未来ある者にと開かれたそこにある書物は膨大で。
そこで得る知識の恩恵は並外れていたのだ。
けれど、その国立図書館は今はない。
戦火で焼けた書物の数は、半端ではなく、
残されたのはパプニカの神殿奥に厳重に保管された原本のみ。
それでも、原本が残っただけマシと言うものだが、
戦いも終り、平和となったパプニカで
それは新たな問題として持ち上げられていたのだった。
「だからね、あの大量にある原本を訳せるジジィ共を罷免出来ないの。」
三賢者や自分だけでは手が回らない上に、
訳せない箇所もある。
本当に腹立たしいのだが、それを全て訳す事が出来るのは彼等だけなのだと。
故に罷免出来ないのだと。
大仰に溜息を付くレオナにマァムもそれは困ったわねと同意し腕を組んで見せる。
「変りに訳せる人が居れば何の問題もないのよね?」
「そうね、でも今現在役職に就いてる人間を割り当てるのは不可能よ。
ある程度知識のある人間全部をそれに当てたらうちの機能は停止しちゃうもの。」
「新たに何処かから翻訳できる者を呼び寄せると言うのは?」
「凄く良い案だけどね、ヒュンケル。
並の人間じゃあのジジィ共にイビられて辞めちゃうのがオチよ。
だって本当に陰険なんだもの。」
「じゃあ、古代文字を訳す事が出来て、
尚且つ陰険な虐めにも耐えられる人が居ない限りは現状維持って事になるのね・・・・・」
そんな万能な人間いる筈がない。
否。居たとしても探し出す為に割く時間すらない。
やはりこのままで居るしかないのかと、
そう諦め混じりにレオナが再び溜息を付いた時。
それまで沈黙しお茶を飲んでいたアバンが口を開いた。
「おや、そうでもないでしょう?
その大臣達が辞めても原本全てを訳せる人間が居れば良いんですから。」
だったら簡単じゃないですかと事も無げに言い放つアバンに、
レオナは幾分疲れた様にだってと口を尖らせる。
古代文字で書かれた原本と言っても。
文字は一種類ではない。
パプニカだけではなく、それこそ世界中の古代書があるのだ。
それを一人でどうにか出来るなどととてもではないが思えない。
そう言うレオナにアバンは笑む。
悪戯にとも見えるその笑いに、残された三人は怪訝そうな顔を浮かべるけれど。
彼がこう言った話し方をする時は何かしら確信があるのだと先を待つ。
その様子に、笑みを深めさらりと紡いだそれは。
見事なまでに彼女等を硬直させた。
「ポップがいるでしょう?」
確かにマトリフに師事した彼ならば、
ある程度の書物を訳す事は出来るだろう。
それは師であるマトリフの洞窟で蔵書を見た事があるレオナにも理解は出来る。
けれど、全てが出来るとも思えない。
一体何の冗談だと、一様にそんな顔をしていたのだろう。
アバンは三人を見渡すと、やれやれと小さく肩を竦めた。
「おやぁ?疑ってますね?」
「だって・・・ポップでしょう?」
信じられないですと呟くのはマァム。
未だ手の掛かる弟感の抜けない彼女にして見れば、
アバンの紡いだ言葉は到底信じられるものではなかった。
ヒュンケルもまた状況を把握する能力の高さや実力を認めてはいるけれど、
それは戦闘に関しての事で。
そこまでの知識を年若い彼が持っているとは思えず、神妙な顔で師を見やっている。
唯一、レオナだけがもしかしたらと、
そう半信半疑ながらも押し黙り、アバンが続ける言葉を待っていた。
そん三人三様な姿に苦笑を浮かべ、
こほんと一つ咳払いをするとアバンはそれを口にする。
「ポップはね、知ってると思いますが本当に修行が大嫌いだったんですよねぇ。」
どれだけ促しても彼は修行に打ち込む事はなかった。
剣の修行をさせて見れば、
剣が重いから嫌だと言い張り。
武術を教えて見れば、
痛いから嫌だと悪びれる事なく言い切った。
ならば僧侶にと。それならば痛い事はないだろうと促せば。
返って来たのは地味だから嫌だと、何とも散々な言葉。
一体何の為に弟子になったのだと。
あの時ばかりはアバンも自信を失くしたものである。
そんな彼が唯一興味を示したのは、一冊の魔法書だった。
本当に初歩の。
ごく基本的な事が書かれたその魔法書にポップは夢中になり、
そうしてやっと彼の修行を始める事に成功したのだ。
「・・・・・それは・・・ポップ君らしいわね・・・」
何とも彼らしいと呆れた顔を隠さずレオナは呟く。
けれど今聞きたいのはそんな話しではないと、先を促す三人の弟子達に
アバンはそうですねと続きを語りだす。
「あの子が実際に魔法の修行を始めたのは何時からだと思います?」
「・・・修行・・・・・ですか?」
「そうです、弟子になったのはマァムの修行を終えてですから結構長いですよね?
私の弟子の中で一番長く居たのはあの子でしょうねぇ。
でも、あの子が本格的に修行を始めたのはダイ君に会う半年くらい前からなんですよ。」
その言葉に耳を疑ったのは一人だけではない。
確か彼は年単位の長さでアバンと共に過ごしていた筈。
ならば何故と誰しもが疑問に思うその言葉に、
アバン一人が懐かしむ様にお茶を啜り小さく笑った。
「ようやく興味を持ってくれた事が嬉しくて、
あの子のしたい様にしたのが悪かったんですかねぇ。」
ポップが始めて興味を持ち、自ら進んで望んだ事。
それは出来るだけ沢山の書物を読む事であった。
知る事は罪ではない。
むしろ知識を深める事は必要な事であると、
アバンもそれを止める事はぜす求められるままそれを与え続けたのだが。
そこには一つだけ誤算があったのだ。
「際限が、ないんですよね。
初めこそ色々聞きに来ましたけどね、
何時からか聞きに来る事もなくなって。
それこそ全て読み終わるまで部屋から出て来ずに居たなんてざらでしたよ。」
故郷であるカールやロモス。
そしてパプニカと。
国立の図書館がある国は殆ど行ったんじゃないですかね?
ましてや、あの子は私の後にマトリフの師事も受けたでしょう?
だからね、と驚きに言葉すら失った弟子達に、
アバンは悪戯に笑い一つウインクをして見せるとこう呟いた。
「あの子なら、適任だと思いませんか?」
後日、パプニカでは大臣等の罷免が一斉に行われたらしい。
END
9000hitのリクエストは鴉様より『修行時代を先生と2人で仲間に語るポップ』でした。
・・・・・・・・ポップ君でなかった・・・・・・orz
あぁぁぁ;;何だか妙に長くだらだらとしたお話しに!!
鴉様長々とお待たせした上にこんなお話しで本当に申し訳ありません(滝涙)
もしこんなのでも宜しければ、どうぞお納めくださいませ!!
毎回の事ですが返品可です!!!
素敵なリクエスト本当にありがとうございました!!
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