戦況は最低にして最悪。
魔界に降りた日から幾年月。
過去に例を見ないほどの最悪な戦場で、
ダイは傷付いた四肢を投げ出し空を見上げた。


薄雲に覆われたこの魔界では、
太陽ほどの強烈な光はなく、何時だって薄暗い。
まるで今の自分の心情のようだと一人自嘲気味に笑えば、
肩にある裂傷がピリリと痛みを訴えた。


今度こそ、最後かもしれない。


動く気力すら失い、ダイはふとそんな事を思う。
元々無理があったのだ。
自分ただ一人で魔界をどうにかしよう等と、
そう思った事が既に無謀であったのだ。

それは、驕りだったのかもしれない。
ただ一人の竜の騎士。
大魔王すら倒した自分に敵はないと、
そう思っていたのかもしれない。

けれど、魔界に降りると決めた時。
仲間をこれ以上危険に晒したくないと思ったのもまた事実で。
あの時はこれが最善の策と信じていたのだ。


「・・・・情けないな。」


ほぅと小さく息を吐き。
血に濡れた手をまじまじと見つめる。

あの頃よりも大きくなった手。
あの頃より成長した体。
なのに。
あの頃よりも弱くなった気がするのはどうしてだろうか。
昔よりも沢山の人を守れるはずの手は、
今、自分すら守れない。


ゆるりと眼を閉じれば、周囲で感じる気配と敵意。
どうやら敵もまだ自分を探してるらしい。
敵の数はそう多くはないが、今の自分では厳しいのが正論だった。


「・・・仲間が、欲しいな・・・」


その仲間を置いてきたのは自分だけれど。


「どうして俺は一人で大丈夫なんて思えたのかな。」


あいつが居たから戦って来れたのに。


そこまで呟いて、あぁとダイは理解する。
結局自分は弱いのだと。
力ではない。
心が、だ。

心が弱いから、共に戦ってくれと言えなかった。
拒絶されるのが怖くて。
仮に頷き、共に魔界へ降りてくれたとしても。
あいつが傷付くのが怖かった。
死に至る事すらある戦いの中で、
失う事を恐怖した。
そして。
血に染まる自分を拒絶される事が何より怖かったのだ。


「本当に情けないなぁ。」


今更気付くなんて。

じわりじわりと敵の気配は近づいてくる。
それは当然だろう。
何しろこれほど深く傷付いているのならば、竜の騎士とて倒せるかもしれない。
そんなチャンスはそうある筈もないのだから。

潔く散るべきか、
それとも最後まで足掻くべきか。

痛みを堪え剣を杖代わりにダイは立ち上がる。
こんな時、彼ならどうするか考えながら。

臆病で、泣き虫で。
でも誰よりも勇気を持っていたあいつなら。


「絶対諦めないんだろうな。」


だったら。
小さく呟きダイは剣を構える。
俺も諦めない。
最後まで足掻いてやる。

そうして、背後から斬り付けて来た敵と刃を交わした瞬間。
激しいまでの閃光が煌めいた。








「っ!」


小さく言葉を洩らしたのはダイだけだった。
咄嗟に眼を閉じ、それをやり過ごしたのも。
未だ戻らない視力で、それでもどうにか気配を探り。
ダイはビクリと身を震わせた。

敵の気配は既にない。
けれど、
存在するはずのない気配が、そこにあった。


「・・・・・・嘘だろ・・・?」


此処にいる筈がない。
そう戦慄いたけれど、その気配は間違いなく彼のもの。
漸く見えてきた周りを見渡せば。
当たり一面には敵はおろか木々すら無くただ土の色が見えるだけ。
一切を削ぎ取り無に返す。
そんな呪文を使えるのはこの世に一人しか存在しない。
はっきりと捉えた姿にダイは震える声で名を紡いだ。


「・・・・・・・・ポップ・・・・・・・・」

「おう。」


短く頷き返すのは間違い無くポップだった。
あの頃より少し長くなった髪を緩く纏め、
法衣に身を包む彼は、少しだけ大人びて見えた。


どうして?
そう聞きたくて仕方がない。
けれど、この魔界に来る理由がそうそうある筈もないから。
ダイはともすれば微笑みそうになる己を引き締め、短く言葉を紡いだ。


「後悔しない?」

「するかよ、馬鹿。」


するくらいならこんな所まで来ねぇよ。
そう笑うポップの顔は昔のまま悪戯で、何一つ変わり無い。
屈託無く笑うその姿に、ダイもまた笑み浮かべながら。
心が温かくなるのを自覚する。

そう。
何時だって背中を押すのは。
絶望の中に居る俺を引き上げるのは。
勇気をくれるのは。

ただ一人。

だから、感謝の気持ちをありったけ込めて。
それを伝えよう。

ありがとうと。
そして。



「待ってたよ、俺の魔法使い。」








 待ってたって言っても、俺誘われてネェんだけど?

 え、いやぁ・・・・だって誘ったら悪いかなぁ・・・・とか・・・・・ね・・・・?

 ・・・・・・・・帰っていいか?

 あぁ!!ごめんなさい!!帰らないで!!!

 ・・・・・言うのが遅せぇんだよ・・・・・

 ・・・・ごめん・・・・

 罰として回復は自分でやれよな。

 えぇ?!俺回復呪文なんか出来ないの知ってるだろぉ!!

 あぁもう!!うっせーから耳元で騒ぐな!ったく。仕方ねぇなぁ・・・・

 ポップ・・・

 あん?

 ・・・・ありがと。

 おう。




END



超素敵キルポプを頂いたお礼に雛瀬様に押し付けます!(マテ)

初めはマァムの結婚式をこっそり見るポップ(魔界に在住)を更にこっそり見るダイ(同じく魔界在住)とかにしようと思ってたんですが
はい、綺麗さっぱり消え失せました!!
雛瀬様。随分とお持たせして本当に申し訳ありません!!!!(床下額擦り付け土下座)

と言いますかこんなものをお礼と言う辺りが何とも押し付けがましく・・・(泣)

雛瀬様のみお持ち帰り可ですが返品は可で御座います!!




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