「ねぇ、ポップお願いがあるんだ。」
それは大魔王バーンとの決戦を間近に控えたある夜。
マァムやメルルはそうそうに寝床に戻り、
先程までフローラと打ち合わせをしていたレオナが、
話し相手とポップを捕まえ、深夜の茶会に興じていた時の事だった。
普段であれば決してこんな時間には起きている筈のないダイの、
珍しいその言葉に、ポップは勿論レオナすら不思議そうに首を傾げる。
何かよっぽどの事があるのか?
あるいはあったのか?
心当たりはあるかとお互い視線を交し合うけれど、
やはり心当たりはなく。
レオナとポップが再び首を傾げれば。
聞いてくれる?
とまたもやダイに似つかわしくない殊勝な言葉が飛び出し、
二人は同時に頷いた。
「ポップくんにお願いなんてダイくんどうしちゃったの?」
真顔で尋ねるレオナの言葉に、微妙に失礼な台詞をと思いつつも、
今此処でそれを突っ込めばダイの話を聞く所ではないと思い直せば、
ポップはちらりとレオナを一度軽く睨んでからダイに視線を戻した。
「で、俺にお願いってのはなんだよ?
言っておくが金ならねぇぞ。」
「何でポップにお金借りるのさ。
って言うか俺、お金なんか別に必要じゃないし。
そうじゃなくて。
凄く真剣なお願いなんだよ。」
「・・・・・なんだよ・・・・・?」
何かを決意したような真剣な顔でそう呟くダイを見れば、
ポップも流石に茶化すのを止め、ダイに視線を合わせる。
そうして次の言葉を促せば。
ダイはゆっくりと口を開いた。
--------俺と結婚して?
He gets married
お願いと、真顔で紡がれたその言葉に。
室内は一瞬にして静まり返り。
そうして。
ポップとレオナは同時に顔を見合わせた。
「・・・・ちょっ・・・・・ひ、姫さん・・・・
この天然記念物をどうしたら良いもんかね・・・・?
俺、笑いを堪えるのに結構必死なんだけどよ・・・・」
「・・・・っ、駄目よっポップくん。
い、今笑ったらダイくん絶対に傷付くからっ・・・・
て言うかキミが笑ったら私も堪える自信ないから・・・・!」
ですよねー。
そんな風にお互い顔を突きつければ、返事を大人しく待つダイに視線を向け。
そうして再び視線を合わせ、
ポップは笑いを堪えつつ深々と溜息を吐くという器用な芸当をしてみせる。
「なんつーか・・・・あれか?
結婚は男と女じゃなきゃ出来ないとか、
男と女の違いを教えるとか。
んな所からしなきゃいけねぇのか、俺は?
つか俺はどっちだ?
ダイを嫁に貰うのか?
それとも俺が嫁に貰われんのか?」
「何言ってるのっ。
知識がある=理解してるって訳じゃないのよ。
ダイくんの事だもの。
知っててもポップくんが良いんだとか平気な顔で言うに決まってるわよ。
それにダイくんは自分が自分が男の子だってちゃんと自覚あるわよ?
ならポップくんがお嫁さんに決まってるじゃない。
あらやだ、想像したら笑い堪えるの大変だわ。ポップくんのせいよ?」
「いやいやいや。姫さんが勝手に想像しただけだろ。
そもそもダイが男の自覚あるとかないとかの前に俺も男だし。
つか何でそんなに冷静なんだよ。アンタは。
姫さんダイの事好きなんじゃねぇの?」
「大好きに決まってるじゃない。
可愛い可愛い弟分だもの。」
「あ、恋愛対象じゃなかった訳ね。」
「恋愛対象にならなかった。ってのが正しいわね。
本気で大事なのも確かなんだけど。
でも大事すぎて恋愛対象にはならなかったのよ。
勿論ダイくんが私を好きって言ってくれれば、
私も好きになるんだろうけど、
私じゃない誰かを好きになっても
ダイくんが幸せならそれでいいかなって思えるくらい大事なの。」
「・・・・乙女心って複雑ね。
俺にはさっぱり理解できんわぁ。」
「乙女心理解してどうするのよ。」
「ですよね。」
と言う訳で。
そう言葉を続けたレオナは寒気がする程の麗しい微笑みを浮かべ椅子から立ち上がれば、
ポップの肩を軽く叩いた。
「私はお邪魔だろうから退散するわ。
ダイくん、頑張ってね。
それから、ポップくん・・・・・・・わかってるわよね?」
結果は明日聞かせてもらうから。
そんな風に呟いて笑いながら部屋を後にするレオナの。
最後の言葉にポップは一筋の冷汗を垂らす。
横で普通に、うん。また明日ね。なんて笑って手を振るダイの鈍さが心底憎いかもしれない。
最後に自分に向けられた言葉は確実に、
「ダイくんを泣かせたら容赦しねぇわよゴルァァァ!」
だった。
つうか間違いない。
此処で
「何アホな事を言ってんだ?
俺は女の子が好きなんだ。男と結婚なんて冗談も休み休み言え。」
みたいな事言ったら確実に痛い目にあう。
寧ろ決戦前とか関係ナシに100%の確立で消される。
「姫さん有言実行が信条だもんな・・・・・・・」
言ったからには確実にやるだろうと思えば、
剛毅な姫の庇護下にあるダイを少しだけ恨めしそうに睨み。
ポップは一つ咳払いをしてからダイを手招く。
「で、だ。
お前マジで言って・・・・・いや、なんでもない。
マジに決まってる。
嘘つける奴でもないし。
冗談言えるほど器用でもないし。
つーか、何で俺な訳?」
「ポップじゃないと駄目だと思ったから。」
だって結婚て一番好きな人とするものだろう?
俺は一番ポップが好きだし、特別だし。
ずっとずっと一緒にいたいと思うから。
だから結婚したいと思ったんだ。
そんな風に、手招きに素直に応じ自分の前に立てば、
さも当然と言わんばかりに答えるダイに、
ポップは額に手を当てて今度こそ盛大に溜息を零した。
「・・・・・・・なんだこの無自覚天然タラシは。
そんな台詞を何処で覚えてきやがった。
うっかりほだされそうになったじゃねぇかバカタレが。」
俺は女じゃねぇってのに。
そう呟いてポップは額に当てたままの手を頬に移動させ、
頬杖付いてダイから視線を逸らし壁を見詰める。
此処で、嫌だと答えるのは。
レオナからのお仕置きから逃げる算段を考える以外は酷く簡単だ。
多分ダイは自分が断っても多少残念そうな顔をするものの、
それでもわかったと簡単に引き下がるだろう。
そうして明日の朝には普通に戻っているはずだ。
だが、出来ればダイに寂しそうな顔はさせたくない。
でも自分だって男だ。
男にプロポーズされて、はい喜んで。なんぞと二つ返事で受けるのは御免被りたい。
ダイを傷つけず上手く断る方法はないものか。
そもそもなんでまた結婚なんて事に思い立ったのか。
「・・・・・・・・・・・・・あ。」
そこまで考えて、ポップは唐突に短く声を上げてダイに視線を戻す。
そうして不思議そうに自分をみるダイを手招きすれば、
ポップはダイの頭に手を置いて苦笑してみせた。
「ポップ?」
キョトンと自分を見上げるダイの表情は、やはり幼く歳相応のもの。
そんな仕草を眺めながら、ポップは漸く口を開く。
「・・・・・・・・・5年だ。」
「5年?」
「この闘いが終わって。
んで5年たって。
それでも気持ちが変わらなかったら仕方ねぇ。
腹括って結婚してやる。」
「ホントっ?!」
途端にパッと顔を輝かせて喜ぶダイに約束だと頷いて、
ポップは苦く笑う。
あくまでも予測でしかないのだが。
恐らくダイは無自覚で不安なのだ。
バーンを倒せるか、ではなく。
人間ではない自分が平和になった地上で暮らせるか。
仲間達と共に居られるか。
自分は受け入れられるのか。
そんな本人も自覚していない不安が渦巻いて、
その結果が結婚なのだろう。
結婚すれば一緒に居られる。
結婚すれば離れない。
そんな風に思い至ったのかも知れないと。
そうポップは考えたのだ。
何故自分なのかとは思うが、
デルムリン島でずっと過ごしてきたダイは、
人の世界で生活している同じ年頃の年代よりは、やはり純粋で幼い。
友情と愛情の区別が上手くつかないのだろう。
「・・・・・・・まぁ、5年もありゃいい加減区別くらいつくだろうし。」
その時には、昔話としてからかってやるのも良いかもしれない。
コイツは昔俺にプロポーズしたんだぜ。
そう仲間に教えて笑ってやろう。
そんな事を考えつつポップがダイを見詰めれば。
ダイは嬉しそうに笑って見せる。
「何にしても、だ。
まずは地上が平和になってなきゃ意味がねぇけどな。」
「そうだね。
俺は絶対バーンを倒すよ。」
「俺達、だろうが。バーカ。」
そうでした。
ペロリと舌を出して。
少しだけ悪戯に。
そう笑うダイに笑みを返して。
そうして約束だと指切りをしたのは。
もう、
遠い昔の話----------------------------------
「----------------今思えばさ。
あんな約束をした俺が悪かったのかなとか真剣に思うわけよ。」
あの時よりも長くなった髪を指で弄び。
ポップは切なげに空を見上げ歎息する。
その表情は子供のものではなく大人のもので、
共にお茶の席に座る、名実共に女王となったレオナもまた小さく息を吐いた。
「気持ちはわからなくもないわ。
でも、ポップくん。
過去をどれだけ責めても今は変わらないのよ?
いい加減現実を見詰めないと・・・・・・」
自分が辛いだけよ?
そう呟いて、俯き肩を振るわせるレオナに視線を向ければ、
ポップは再び溜息を零し、そうしてゆっくりと口を開いた。
「姫さん・・・・・・・・・・・・・・その笑いの堪え方めっちゃ腹立つんだけど?
つかいっそ普通に笑ってくれた方がなんぼかましな気がするんだけどっ?!」
「あ・・・・あらそう?
じゃぁ遠慮なく・・・・
あははははははははははははははっ!!!!!
も、駄目っ!!
可笑しすぎて涙が出ちゃう!!!!
しばらくランカークスに居ないと思ったらそんな事になってたなんてっ!!!!」
「だぁぁぁああぁぁっ!!
普通に笑われるとそれはそれでやっぱしムカツクっ!!!!
つかありえねぇだろっ?!
普通ありえねぇだろっ?!
あん時人の腹蹴りくさって自分だけいなくなったと思ったら
まさかきっちり5年目に戻ってくるなんて誰が思うよ?!」
約束、憶えてるよね?
俺ちゃんと帰ってきたよ。
なんて。
自分よりも背が高くなって。
一人前の男の顔つきになって。
んでしかも変わらない笑顔で「ただいま」なんて言われた日には。
「うっかりほだされるに決まってんじゃねぇか馬鹿やろぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」
「しかもちゃぁぁぁぁんと花束と指輪付きでしょ?
さすがダイくんっ!私が見込んだだけのことはあるわぁ。」
「しかもクソむかつく事に指輪なんてサイズぴったりだぞ、おい。
どーやってサイズ調べたんだって聞いたら、勘とか言いやがるしっ!
どんだけ野性的だってーの!!!!」
「ワイルドでいいじゃなーい!
って言うかちょっぴり耳赤いけど、それだけじゃないんでしょ?
他にはなんて言われたのよ?」
「・・・・・ううっ・・・・言わねぇ・・・・」
「ええ〜?!
それを聞かなきゃつまらないじゃないっ!!
ま、どーせ。ポップの事なら俺は何でも知ってるよ。とかなんだろうけど〜?」
「見てきたみたいな事言うんじゃねぇっ!」
「おほほほほほほほほほほっ!
キミ達の幸せっぷりに私の方がちょっぴり腹立つわぁ。」
「笑顔で言うな。怖いから。」
「で、も。
幸せでしょ?」
そう聞けば途端にぐっと口篭るポップを見ればレオナは肩を竦めて見せる。
「ダイくんが居ない時のキミは笑顔もどこか詰まらなそうで、寂しそうで。
ずーっと曇り空みたいだったもの。
今はとっても楽しそうよ?」
なら、良い事じゃない。
テーブルに突っ伏して呻く姿を尻目にレオナがそう付け加えて笑い続ければ、
ポップは少し顔を上げてジトっとレオナを睨む。
が、やがてそれも諦めたのか漸く顔を上げて。
まぁ、と小さく言葉を続ける。
「・・・・今日来たのはそう言う訳。
今はまだブラスじぃさんに泣きつかれてるからデルムリン島だけど、
ダイも近いうちに挨拶に来るってよ。」
「ブラスさんも随分落ち込んでたものねぇ。
お元気になられて良かったわ。
しかもお嫁さん付きだし。
こりゃ孫の顔見るまでは死ねないって奴ね!」
「いや無理だから。
ありえないから。
産めませんから。」
あほな事と言うなと呆れ混じりに呟き立ち上がるポップを眼で追い、
レオナは笑みを深める。
帰るの?と聞けば頷くその何処か照れた様子に益々笑みを深め。
旦那さんに宜しくと高らかに告げ、空を見上げ。
「今日は、良い天気ね。」
レオナは満足そうに呟いた。
END
ダイポプチャットで遊んで頂いている柴崎様に押し付けますっ!!!
ええと、もうなんつーんでしょうか。
ダイくんが好きです。
でもレオナとポップの会話はもーっと好きです(←殴)
ダイの出番が少なくてすいませんっ!!!!
いやもう本気で;
こんなもんを人様に押し付けるつもりか私はっ!!
と深く反省しておりますです、はい。orz
ええと柴崎様、
日々ダイポプトークで遊んでいただいてるっつーのに、
恩を仇で返しまくって申し訳ありませぬっ!!!
こんな駄文になりましたが、如何でしょうか・・・・?(オドオド)
柴崎様のみお持ち帰り可ですが返品もやり直しも可で御座いますっっ!!
柴崎様の素敵サイトはコチラからどうぞv
戻る