そよそよと優しい風に黒い髪が揺れている。
だがそれにすら髪の持ち主は気付かず、心地よい眠りに誘われていた。

胸元には一冊の魔道書。
開かれたままのそれは、彼が読んでいる内に眠ってしまった事を伝えている。


おやっとヒムはその姿を見て思った。
珍しい事もあるものだと。
一見お気楽なイメージのある彼だが、こんな風に無防備に寝る姿は初めて見た。
もっとも自分が彼を始めて見た時は、敵同士だったのだけれど。
始めて見た時は、ひ弱そうだと思った。
それが、大魔王と対峙した時間違いだと気付き。
自分の主でるバドラーが認めた男だと知った時、
なるほどと納得した。

今はクロコダインと共にロモスの復興に協力しているヒムであったが、
偶にパプニカに訪れても見るのは周りに指示を与える姿で。
歳相応の顔で眠る姿に興味を引かれ、ヒムは彼の隣に腰掛けた。


「・・・つ〜か。良く寝てんなぁ。」

普通の人間ならいざ知らず、仮にも勇者の仲間が気配も感じず寝てるのはどうだろう。
そんな事を思いながら、マジマジとヒムはポップの顔を覗き込む。

「意外と綺麗な顔なんだな。」

起きている時は全然気付かなかったが、こうして寝顔を見ているとそれは良く分かる。
白い肌理の細かな肌。
整った鼻筋と柔らかな唇。
強い意思を秘めた目が閉じられているのが少し残念だが、
思いがけず良い物が見れたと、少し笑い立ち上がろうとした時。
それは起きた。



「んなっ!!!」
ドンと大きな衝撃と共に自分の体が吹っ飛ばされる。
頑丈な体ゆえそこまでの痛みはないが、瞬間何が起きたのか把握できずにいた。
それでも受身を取り着地したのは流石と言えよう。
「っ誰だ!!」
ざわりと闘気を漲らせ周囲に視線を巡らせば。
目の前に数人の人影が見えた。


「・・・だから魔法は効かないって言ったじゃんか。」
「ダイの言う通りだ。状況判断は大事なのではないのかアバン。」
「あははは。いやですねぇ。一撃で終わらせたら詰らないじゃないですか。」

不貞腐れたように文句を言うダイと。
それに同意するヒュンケル。
アバンは何やら言いながら笑っている。


「・・・お、お前ら何を・・・」

血迷ったのかと叫ぼうとするヒムより先にダイが口を開いた。

「久しぶり〜。ヒム。」
「・・・・お、おう。」

にこにこと笑って手を差しだされれば、ヒムも呆けたものの手を挿しだす。
お互いの手が握られた瞬間、ダイの手の力が込められる。
みしみしと嫌な音を立てる自分の手と痛みに、顔を顰めるヒムだが、
ダイは笑顔のままで。

「っ。おい。」
「ほんっとに久しぶりだよねぇ。出来ればゆっくり話したいくらいだよ。
・・・・ポップの隣で何してたかとかさぁ・・・」
「はぁ?!」

意味が分からないと抗議するより早くヒュンケルの手が空いた手を掴み取る。

「ふむ。本当に久しいな。」
「だ・・・だから何しやがるお前ら!」
「いや、旧知の仲を深める事も大事だと思ってな。
それに遺言くらいは残したいだろう?」

迫力のある笑顔を称えたままの、二人にようやくヒムは理解した。
どうやら、ポップの傍に居たのが気に入らないと言うのか。
しかし、理解した所でこの状況がピンチな事には代わりなく。
一体どうしたものかと、思案に暮れる。

「まぁまぁ。そのくらいにしないと。」

柔らかな笑みを浮かべ、アバンの制止の声が掛かる。
あぁ、この人はまともだったのかと安堵の息を漏らすより早く、
ダイが抗議の声を上げる。

「なんで?だってポップの隣に居たんだよ?!
俺だって隣にいて寝顔見たりあんな事やこんな事したいのに!!」
「あんな事ってなんだよ!!」
「ダイの言う通りだ。ポップの滅多に見れない寝顔を独占する奴は万死に値する。」
「そこまでか?!」
「気持ちは良く分かりますけどね?ここではダメですよ。」
「分かるのかよ!!!」


尽く無視される突っ込みに少しアバンは苦笑し、ヒムを見据えた。
無論、笑顔のままで。

「ヒムくんでしたっけ?」
「お、おう。」
「私達はね、皆ポップが大好きなんですよ。」
「俺には関係ねぇだろ!」
「いやいやいや、関係ありますよ。
だってねぇ。ポップはあの通り好意には鈍感でしょう?
だからあの子が誰かを選ぶまで、私達は協定を組んでるんですよ。」
「そうそう!誰もポップに1人で近づかない代わりに、
誰もポップの傍には寄らせないって、ね。」

無邪気と言う言葉が似合う様な笑顔でダイはヒムの右腕を掴み。

「裏切った奴にはそれ相応の報いがあるからな。」

ニヒルな笑みを浮かべヒュンケルが左腕を掴む。

「お、俺には関係ねぇじゃねぇか!!」

まさしく顔面蒼白と言う言葉が似合いそうなほどヒムの頬が引き攣る。

「おやおや、言ったでしょう?
誰も。近づかせない。って。」

意味分かりますよね?
そう言った彼もまた笑顔のままで。
アバンはパチンと指を一つ鳴らせば、
それに頷きダイとヒュンケルは歩き出す。
無論ヒムの両腕を拘束したままで。


ゆっくり話しましょう?
そんなアバンの声を遠くで聞きながらヒムは思った。


笑顔ほど恐いものはないと。
そして。
二度とポップには近づくまいと。




END




4000HITのリクはポップ争奪戦でした。
・・・違うじゃん!!!
争奪戦じゃないじゃん!!!
ひぃぃぃ!!ごめんなさい!!(土下座)

さ、最初は争奪戦にするはずだったんです;;
でも書き終わったらヒムが可愛そうな話に・・・・・(T-T)

リク頂いたのにこんな話で申し訳ありません!!

宜しければ貰って下さい;

返品可ですので!!!!!



戻る