むかつく。
ポップはちらちらと本の隙間からそれを見て、
面白くなさそうに呟いた。

視線の先には、寄り添う女と苦笑する男。

「・・・・鼻の下伸ばしてんじゃねぇよ。」

あんなのの何処が良いんだ。
確かに少し綺麗かもしれないけど。
女の武器を最大限に駆使して媚びる姿は、はっきり言って見苦しい。
こんな事なら、
一緒に買い物なんて来るんじゃなかった。

カフェテリアの一席で、大量の荷物と留守番しながら、
ポップは何とも詰まらなそうに、欠伸をし、空を見上げた。

「・・・・つまんねぇ〜〜。」


今日は朝から天気が良くて。
いい加減底を尽きそうになった食材と、
新しく入荷したと言われる魔道書を購入しようと決めた。

普段から出不精な師匠を説得すれば、 渋々ではあったものの珍しく着いて来てくれて。
おし。これで荷物持ちも確保したと、ひっそり喜んでいたのだが。

「くっそ〜。計画がパァだぜ。」

何処で間違えたんだろう。
まず先に入荷した魔道書を買って、
適当に昼飯を食べて。
そのあと食材を買って帰れば、
今頃はとっくに帰りついていたはずだったのだ。





事の始めは魔道書を買いに行った時だった。
新しく入荷されたそれは、 別の国の高名な魔法使いが書いた太古の呪文が書き記されている。
そんな触れ込みのもので。
そんなに高名なら何で大戦の時には出て来なかったんだとか。
制御の難しいと言われる太古の呪文を簡単に公表するなとか。
突っ込みたい所は色々あったが、それでも自他共に認める本の虫であるポップとしては
一読の価値があると、それなりに期待して足を運んだ。

ところがだ。
目当ての本を買い、
ついでに少しばかり予定のなかった本も買い、
上機嫌なポップとうんざりした顔のマトリフの背後から声が掛かった。


「あの。すいませんが少しよろしいでしょうか?」

振り返れば、上品な身形の女性が一人立って居た。
わりと上流の家柄なのだろう事は、着ている者を見れば分かる。
一体どうしたのだとポップが声を掛けるより早く、
その女性はマトリフに柔らかく笑いかけた。

「私、少し魔道書で分からない事がありまして、
少し教えて頂けましたらと。
お時間は取らせませんのでお願いしたいんですの。」

マトリフが答える前に女は、その腕を取ると絡める様に自分の腕を巻きつけた。
まるで、断るはずがないだろうと言わんばかりの態度である。

---逆ナンパですか。
ついでに俺はシカトですか。---

呆れた様な目線を送るポップを気にも止めず、
彼女はすぐ近くにあったカフェテリアを指差し、そこへマトリフを誘う。
そうして、そこで始めて気付いたと言わんばかりにポップに声を掛けたのだ。

「よろしければ、坊やもいらっしゃいな。
お茶くらい御馳走してよ?」

甘いお菓子も付けましょうかと勝ち誇った笑みを浮かべる彼女に、
ピキリとポップの頬が引き攣る。

---この女大嫌いだ。---

自分の機嫌が急降下するのを自覚しながら、
ポップは小さく拳を握り締めた。







そうして。
半ば、いやかなり強引に連れてこられたこのカフェテリアで、
ポップは無駄に時間を過ごしているのだった。

折角購入した本は、予想通りと言うか予想以上の最低なもので。
他に買った本も読む気にもならず、
機嫌は見事なまでに下降一直線。
ましてや、連れてこられたもののはっきり言って蚊帳の外。
まるで居ないかの様な扱いなのだから、無理もない話である。

ちなみにマトリフはと言えば、穏やかな笑顔で相槌を打っている。
絶対に自分には見せないだろうその笑った顔に、
ポップは眉を潜める。



むかつく。
何もかもが腹立たしい。
計画が流れた事も、
その笑顔も。


腹立たしいやら馬鹿らしいやら。
この大量の本も全て放り出して、いっそ先に帰ってしまおうか。
そんな風に考えていると、女が何やらマトリフに話掛け席を立つのが見えた。
今のうちの一声掛けて帰ろう。
そう思うか思わないかの時にマトリフと視線がぶつかる。
それは酷く不機嫌そうで。
何故自分が睨まれなければならないのかと、苦々しい感情が湧き上げる。
邪魔をするなと言いたいのか。
そんな気は更々ないから心配するなと言ってやろうとした時、
マトリフは機嫌悪く呟いた。

「・・・・おい。」
「何だよ?邪魔ならしねぇよ。もう帰るから、
あんたはあの女の人と仲良くやってれば?」

たっぷりの皮肉を込めてそう言ってやれば、マトリフの眉間は益々顰められる。
そうして数秒の沈黙の後に、大きな溜息を付いた。

「・・・・お前は馬鹿か。」
「んだと?」
「ありゃ、レング家の娘だ。」


レング家。
それはパプニカの城下町を中心に手広く武器や道具を扱う有名な商家。
独自で広げたネットワークは、一国だけでは収まらず世界各国に及び、
その情報量、交友関係は計り知れない。

たしか現当主は姫さんとも交友があった筈だな。
などとポップは頭の情報をフル回転させる。

「・・・流石にそこの娘を無下に扱う訳にゃいかねぇだろうが。」

心底面倒臭そうに吐き捨てるマトリフに、
ポップはやっと得心がいったとにんまり笑った。

姫さんと繋がりがある以上、簡単に追い払う事も出来ず、
この人はきっと自分には決して似合わない我慢とか忍耐などを総動員して相手をしていたのだ。

途端に上昇する機嫌のままにポップはクスクスと肩を振るわせる。

「笑ってねぇで何とかしろ。」

舌打ちと共に聞こえる声は本当に嫌そうで。
思わず悪戯心が湧きあがる。

「でもさぁ。わりと綺麗だったじゃん。好みじゃないの?師匠?」
「全然好みじゃねぇ。」
「うわ。さらっと言い切ったよ。
んでもさ。考えたら別に師匠は城勤めじゃねぇんだし、
別に無視しても良かったんじゃねぇの?」
「それも考えたんだがなぁ。」

戻ってきたレング家令嬢に視線を戻しながらマトリフは、
諦めた様に立ち上がり呟いた。

「お前は城に良く行くだろうが。」
「・・・えっ・・・・いや、まぁ・・・」

その言葉の意図を測り知る前に、マトリフはぽんとポップの頭を一つ叩いて
令嬢の元へ向かう。
とにかく何とかしろと言い残して。


俺が城に行くから。
姫さんの手伝いで、
アバン先生に会いに、
城に行くから。
だからあの人は気に入らなくても相手をしてる?


一見分かり辛い優しさに、ポップは頬が緩む。
何だかそれがとても嬉しくて。
小賢しいと自負する頭を働かす。

なんとかしろと言う指示を遂行するために。

「さぁて、どうするかなぁ。」

あれでもない。これでもないとポップは腕を組み思案する。
自然に込み上げる笑顔を自覚しながら。








空に広がる青空の様に気分は上昇中。




END



5000hitキリリクは美月様。
『若返った師匠が陰でもてていて、それにやきもちをやくポップ』でした。

えっと・・・影でじゃなくて思いっきりもててるじゃん・・・・orz

あぁぁぁぁ;;
またリクエストを吐き違えたのか?あたしは!!

あははは。まぁそこはそれと言う事で。(←マテ)
この後ポップ君は師匠の言いつけ通りきっと何とかします。
一応ネタは何個か考えたんですけど長くなりすぎて;
こんなラストになりました(土下座)
ラストの没ネタ的には

@ポップが女装して彼女の振りをする。
A仮病。
B師匠は俺のだと令嬢の前で言い張る。

なんて言うのがありました(苦笑)
女装ネタは1回書きたいなぁ。と思ったんですが、
ただでさえ師匠が若返ってるのにこれ以上の偽装はどうよ?と自分で突っ込んで断念しました;

美月様、こんなのでよろしかったでしょうか?(おどおど)
一応(?)カプ前でございます。
よろしければ貰ってくださいませ!

お持ち帰り&返品可ですので;;

妄想の働くリクをありがとうございました!!(礼)




ちなみにカプってたら師匠はきっとナンパだと分かった時点でこう言います。

「惚れた奴がいるからな。面倒な話はゴメンだ。」


あっはっは!姫宮ってばドリーマー・・・・・(T-T)
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