羨ましくて、
誇らしい。
それはきっとそんな気持ち。



「・・・ちっ・・・」
マトリフは、小さく舌打ちしながら、その長い回廊を歩き続けた。
ここはパプニカ城。
万人ならば萎縮してしまうような豪奢なその造りの中を、
マトリフは別段気にした風もなく、足早に目的の場所へと向かう。


「・・・入るぜ。」
ノックをするでもなく、行き成り開いた扉の奥には、
若くして一国の主となったレオナとそれを支える国の重鎮達が座っていた。
ざわりと、周囲がどよめく。
それは仮にも一国の王に会うには余りに不遜なその態度を見ての事なのだろう。
事実、無礼ななどとこそりと呟く者すらいるのだ。
もっともレオナは相変わらずのその態度に苦笑を漏らすだけだが。


そんな周囲の態度を別段気にも止めず、マトリフはレオナの傍まで歩み寄ると、
不機嫌そうな顔のまま口を開く。

「・・・・国事に関わる気は一切ねぇって言わなかったか?」
「えぇ。もちろん覚えてます。マトリフさん。」

機嫌の悪さをそのまま表した言葉を、レオナは臆する事もなく二コリと笑い
真正面から受け止める。
そうして、その笑顔を解くと真摯な眼差しでひたりとマトリフを見据えた。

「でも今回は事情が違うの。
国境付近で魔物が確認されました。
パプニカの次代女王として貴方の助力を願います。」




パプニカの国境付近にある小さな森。
そこに僅かではあるが歪が発見されたのは大戦よりも前の事だ。
それは大魔王バーンの魔力の影響を受けていたのか、
バーンが討たれた事により、徐々にではあるが小さくなっていて。
このまま行けば自然に消滅するであろうと。
マトリフはそう見解していた。
けれど、魔物の脅威に晒された国の重鎮達はそうは思わなかったらしい。
大戦時にそうそうに逃げ出し、そして何食わぬ顔をして戻ったその重鎮達は
逃げ出した事を恥とも思わず権威を振りかざし。
そうして、再び繁栄を取り戻そうとしているパプニカで手柄をたてる事を
只管に求め。
レオナの判断を仰がず、勝手に歪に人を送った。
それを閉じれば手柄になると信じて。


「放っておけばそのうち勝手に消滅する。
俺はそう言わなかったか?」

魔界と人間界を繋ぐ。
それは言葉にするほど簡単な事ではない。
いくら歪が小さかろうとそれは途方もない量の力を秘めているのだ。
力量のない人間がそれを閉じようと力を扱えば、
逆にそれを開かせる可能性がある。
まぁ暴走しなかっただけましだがなと面倒臭そうに溜息を付けば。
レオナもそれは確かにねと頷いた。

「協力してもらえるかしら?」
「・・・ったく、厄介な事しやがって。
まぁ、もう少し待ちな・・・・」

緩慢な動作で腕を組みマトリフがそう言えば、
レオナは黙って返答を待った。
任せておけ、そんな言葉は言わないだろうと分かっていた。
それはそんなに簡単に解決出来る事ではないだろうから。
出来るのであれば、彼は何か言うまでもなくさっさと片付けて
貸し一つなと笑う様な人なのだから。

一見やる気がなさそうで。
しかし今の状況を冷静に判断し解決方法を考えるその姿は、
彼の弟子であり彼女自身の友であるポップを彷彿させる。
彼が今ここに居ないのは相当な痛手だと思いながら。

こんな事ならポップ君に依頼なんて頼むんじゃなかった。

そう心の中でレオナは小さく愚痴る。
ポップにレオナが別の事件の調査を依頼したのはつい昨日の事。
本来ならポップに頼む程の事でもなかったのだが、余りに人でが足りずそれを頼んだのだ。
魔物を倒しながら歪を閉じる事はそう簡単に出来る事ではないのだから。
無謀と無茶は違う。
きっと彼は今そのぎりぎりの判断を下しているのだろうと思った時、
沈黙に耐えかねた大臣の一人が声を荒げた。

「えぇい!先程から黙って見ていればその態度は何だ!
恐れ多くもパプニカのレオナ姫が力を貸せと仰っているのだぞ!
無理を押してでも尽力を尽くすのが当然の事だと言うのに
その慇懃無礼な態度はなんだ!!」
「大臣!!!」

レオナの制止の声も聞かずその男は腹に据えかねた様な態度で捲くし立てる。
それは自分達の失態をマトリフに擦り付け様としているのが明白だった。
このままでは、歪を放っておけと言われたにも関わらず手柄に急いだ自分達の責任になってしまう。
だが、マトリフがそこに向かいさえすれば、それに講じて責任をうやむやに出来る。
失敗してくれれば尚の事吉だ。
それら全てをそこにいる高慢な男の所為にすればいいのだから。
はっきりと分かるそんな態度に嫌悪の表情を隠さずレオナがそれを静止しようとした時、
くつくつと偲んだ様な笑い声が響く。
侮蔑の色を滲ませた笑いを浮かべたマトリフは、ちらりとその男を一瞥した。

「・・・・それで俺が失敗すればてめぇは責任を押し付ける気なんだろうが。」
「っ!無礼な!!」
「そもそも最初に言ったよな?あれに触るなと。
それを手柄欲しさに無駄に突付いたのは誰だ?
それが失敗した今、慌てて俺に責任を擦り付けたいんだろうがな。
・・・・笑わせるんじゃねぇ。」

その迫力にたじろぐ大臣の襟をぐっと掴みマトリフは侮蔑と共に吐き捨てる。

「・・・てめぇの責任はてめぇで取りな。」


最早完全に言葉を失った大臣を突き飛ばす様に離したマトリフに、
背後からクスクスと笑い声が聞こえる。
窓の方から聞こえるそれにレオナ達がはっと視線を向けると、
そこには何時から居たのかポップが笑いながら窓際に座っていた。

「ポップ君?!」
「・・・・遅いぞ。」

同時に上がる声にポップは笑みを浮かべたまま軽く手を上げて見せる。

「よぉ姫さん一日ぶり。
つか、師匠遅いってさぁ。これでも急いだんだぜ?」
「何でポップ君がここに・・・?」
「ん?あぁ。師匠から連絡が来たからさ。
取り合えずさっさと終わらして来たんだ。」

それの報告はまた後でなと、マトリフの元に近づくポップにレオナは驚きを隠せず
凝視した。
報告を受けてからすぐに事態を把握し、ポップに連絡を繋げたマトリフの的確な判断に。
そして、最低でも2日は掛かるだろうと思われた依頼をあっさり片付けたポップの行動に。

「あらら、機嫌悪いねぇ。師匠。」
「うるさい。見てきたのか?」
「うん?周辺だけだけどな。
ざっと魔物は20体。えらい殺気だった奴らばっかりだから戻すのは無理だな。
今は先に行ったアポロさん達が抑えてるけど、
村から近いしさっさと片付けた方がいいな。」
「ふむ。どっちが抑える?」
「あのタイプの歪は俺は触った事がねぇからな。
もうちょい事態が深刻じゃなきゃ俺がやりたいんだけど、今回は師匠のが良くないか?」
「分かった。魔物はお前に任せる。」
「了解〜。」



突然の急展開に付いていけない周囲を他所にさっさと話を纏める2人に、
レオナはあぁ、と納得する。
先程マトリフが言ったもう少し待てと言う言葉。
それはポップが戻るのを待てと言う事だったのかと理解して。

もう心配ないわね。

そうレオナは心の中で安堵の息を漏らす。
2人が揃ったのだから、きっと驚く程簡単に事態は収束していくのだろう。
大臣達の責任問題や、今回力を貸りた事での礼や、
悩む事はそれなりにあるが最悪の事態は免れたのだ。


それにしても、とレオナは事態の解決に勤しむ2人を見ながら思う。

本気で信頼しあってるわよね、あの2人。

師弟の絆の強さと言うには度を越した信頼関係に
レオナは微笑む。


そんな信頼関係が
羨ましくて、

そんな彼らと仲間である事が
誇らしい。

それはきっとそんな気持ち。



END


ネアン静子様から頂きました5555Hitのリクは『格好良い師匠』でした。

格好良いかなぁ?これ・・・・?(汗)

いやポップ君が良い所持って行ったなぁとは思ったんですけど;;;

きっとこの後ほんと〜〜〜にあっさり事態は完結しそうですw
あの2人最強ねw

ネアン静子様こんなお話で宜しかったでしょうか?
宜しければ是非お持ち帰り下さいませ。

相変わらず返品も可でございます!

素敵なリクエストありがとうございました!!!



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