あぁ、そんな事は当然だ。
お前がそこにいるのは分かっていたのだから。
起こり得る危機の為にそこに在るお前が、
出て来る事を予測しない程俺は馬鹿じゃない。



あぁ、それくらいは当然だネ。
ボクはその為に此処に来たんだ。
君臨する事に貪欲なアナタがそれをする事を、
予測しない程ボクは愚かじゃない。



『覚悟がなければ神に逆らうものか。』






死神のナマエ



眩しいとすら形容出来ない程の白。
そんな異質とも言える空間を通り抜け、
最初に眼にしたのは、
荘厳と呼ぶに相応しい城だった。


「・・・・・ここが天界・・・・・」


ポップは我知らずぽつりと言葉を洩らす。
清浄な空気と神聖な雰囲気の空間。
そしてまだ入り口に差しかかっただけだと言うのに感じる威圧感。
本能的に異質だと感じるそれは、
間違いなくここが地上ではないという証。


だが。
この静けさはどうだ?
一切の音もなく、自分の鼓動だけが大きく聞えるの何故だ?
人の気配は感じられず、
感じるのは神と呼ばれるこの城の主の威圧感のみ。


「・・・・これじゃあ・・・・・」

誰も存在してないみたいじゃないか。
そう呟いて初めてポップは気付く。
ここには何もないのだと言う事に。
草も木も風もない見渡す限りの白い空間。
全ての音がない世界。
そこには一切を拒絶した城だけがあるのだ。
感じた違和感の正体にごくりと喉を鳴らせば、
その様子を見ていた死神が小さく笑った。


「昔はネ、こんな所じゃなかったんだヨ。」


こんな風に何もない所じゃなかった。
木も草も風も。
全てがあって。
もっと穏やかな時間が流れている所だった。
何処か自嘲する様に呟き、キルは己を見つめる視線に薄く笑って見せた。


「やっぱり驚かないんだネ。
君って本当に驚かし甲斐がナイヨ。」


大袈裟に肩を落とし、わざとらしく溜息を尽いてみせるキルに、
ポップは何を今更と胸を反らし勝ち誇って見せる。
いつから気付いていたんだと問えば、ポップは小さく笑った。


「時間だけはあったからな。」


そう言ってポップは視線を眼の前の城に移す。
その白い巨大な城は5年前の戦いを思い起こさせ、
自ずと苦笑が湧いてくる。
懐かしいとは思えない。
何時だってそれを思えば湧いてくるのは後悔だけだったから。
けれど、
今過去を口にするのに何の感慨もないのは。
漸く逢えると確信しているからだろうか。


「何度も何度も、それこそ嫌になるくらいあの時を思い出してさ。
情けねぇくらい後悔して。
そん時に気付いたんだ。
ミナカトールを唱えても大魔王クラスにゃ影響は殆どないのなら、
何でお前は平気だったんだろうって。
ミストバーンは大魔王の体を使ってたんだから影響ないのは当たり前。
ハドラーもあん時は大魔王クラスの力だったんだろうしな。
・・・じゃあお前は?
死神って名乗ってた体が人形で、使い魔が本体だとしたら。
絶対に影響が出てた筈なんだ。
じゃあどうして影響が出なかったのか。
そうやって考えたら答えは一つしかなかった。
使い魔と、人形と。
お前は両方操ってたんだろう?」


有り余る時間の中で、考えるのは何時だってあの戦いだった。
もし自分がもう少し知識があれば。
ヒュンケルの傷を癒す事も出来た筈。
ダイだけを犠牲する事などなかった筈。
なるほどネと確信を逸らし笑うキルに苦笑を返してポップは言葉を紡ぐ。


「ま、操ってたのが魔界からか近くからかはわかんねぇけどさ。
でも仮に魔界からだとしたら、消費する魔力は半端じゃない。
たとえ近くでもそうだ。
何百年もそれを操るなんて普通の魔族が出来る筈ないんだ。
竜の騎士ですら魔力に限界があったんだから。」
「・・・・・本当に君って厄介ダネ。妙に聡いし。」
「褒め言葉として受け取っておくよ。」


肯定も否定もせずやれやれと肩を竦めるキルは何処か面白げだった。
最早隠す必要もないとそんな態度でただポップの言葉に耳を傾けるだけだ。
尤も最初から隠す気すらなかったのかも知れないが。


「・・・・考えれば考えるだけ疑問と違和感が湧いた。
ただの魔族が神をあんなに憎んだりする訳がない。
ただの魔族が天界を知る筈がない。
だけど、ただの魔族じゃなかったら?
そうやって考えれば辻褄があうんだ。」


ポップは真剣な面持ちでひたりとキルに視線を合わせる。
その眼が揺れているのは、言葉にする事への恐れなのか。
否、もし眼の前の死神がそれを肯定すれば、
自身の考えが正しいのだと証明される事になる。
それがポップは恐ろしかったのだ。
それが正しければ、
今まで信じていた神の存在全てが否定されるのだから。
ぎゅっと唇を噛締め、ポップはその言葉を紡いだ。


「・・・・お前はヴェルザーなんだろう?」









覚悟を決め呟いたその言葉に沈黙が下り、
それを破るように最初に言葉を発したのはキルの方だった。
溜息とそれに伴う苦笑を浮かべ、ゆっくりと首を横に振る。


「半分だけ正解だヨ。
ボクはヴェルザー様じゃない。
その一部な事は否定しないけどネ。」


その眼に浮かぶ色を何と例えたら言いのだろうか。
いつもと違う色に戸惑いながらキルと小さくポップが名を呼べば。
死神は一度眼を閉じそうしてポップを見やった。


「そう。ボクはキルだ。
ヴェルザー様じゃない。
あの方の邪魔をする者全てを排除するもの。
『killーキルー』
それがボクだ。
あぁ、そんな顔をしなくてもいいヨ。
ボクはそれを苦痛とも負担とも思った事はないんだから。」


だから君がそんな顔をする必要はナイんだと呟き。
困った様な表情で己と向かい会う姿にキルは笑みを浮かべる。
同情でも哀れみでも、己を見て己の為に向けられる感情を喜ばしいと思うのは
それが彼だからだろうかとそんな風に思いながら。
大丈夫だと頷いて見せ、キルは神の居城へと視線を移した。
その様子にポップもまた視線を移しながら表情を引き締める。


「・・・・・・・キル。」
「なぁに?」
「俺はまだ聞きたい事が山の様にあるんだからな?」


ダイを取り戻したら。
お前が役目を終えたら。
ちゃんと答えてもらうぞ。
そう紡ぐのは無事を願う彼なりの心遣い。
そんなポップにキルはやんわりと眼を細める。


「・・・・・面倒な事はキライだなぁ。」
「やかましい。」
「まぁ、その内ネ。」
「約束だからな。」
「ハイハイ。
・・・・・・・・・・じゃあ、行こうか。」
「あぁ。」



強い意志を宿らせ2人は走り出す。
お互いの『望み』と『覚悟』の為に。








ダ、ダイ様出なかった・・・・・・・・・・・orz

すいません〜〜〜〜〜;;次こそ必ず!!
必ず出します!!


間を置かずラストまでテンポよくUPしていきたいと思ってますので
もう少しだけお付き合い下さいませ。


拍手ありがとうございました!
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