強い心が欲しい。
どれだけ彼が傷付いても、
冷静さを失わない様に。
死神のオワリ ACT.2
幾度と無く繰り返される剣と鎌の攻防をポップは
じっと見詰めていた。
恐らくは一度しかない好機を見逃がさない為に。
チャンスはただ一度しかない。
二度目をさせてくれるだけ甘い相手ではないのだから。
ポップは唇を噛み、それを見つめた。
的確に急所を狙うダイの攻撃。
それは確実にキルを追い詰めていく。
キルが弱いのではない。
戦うスタイルが違うのだ。
接近戦を主とするダイと違い、
キルは本来遠距離からの攻撃を得意とするタイプだ。
間合いを取りながら戦う彼にダイの戦い方は尤も不得手とする所。
剣を往なし致命的な傷を負っていないのは流石だけれど、
それでも分が悪い。
これが動きを止める為ではなく。
確実に息の根を止める為のものであったなら。
まだキルにも余裕があったのかもしれないが。
キルの攻撃はダイの動きを鈍らせているけれど、
それでもまだ足りない。
確実に動きを止めなければ、失敗する可能性がある。
早く。
焦る気持ちを堪えポップは更に唇を噛む。
隙を見出す為には、個人的な感情は邪魔だと分かっていても、
傷付いていく様を見るのは辛い。
かつて師に散々言われたのにまだ冷静になれないのかと
自分を叱咤し、ポップはその戦いを見続ける。
出来るだけ傷付けずにとの注文に軽く舌打ちしながら、
キルはダイの剣撃を避ける。
最初から不利なのは分かっていた。
魔法を駆使しないタイプのダイとはそもそも相性が良くないのだから。
切り札が無いわけではないが、
それは今使うわけにはいかない。
さぁどうしたものかとちらりとポップに視線を向け、
キルは少しだけ苦笑した。
その表情があまりに辛そうで。
ダイの剣を受け止め、魔力でそれを弾く。
間合いを取り、再び構えるダイになら己もまた構えながら、
馬鹿だねとキルは小さく呟く。
そんなに唇を噛むものじゃない。
彼が大事だと分かっているからそれを止めるつもりは無いけれど、
そんな顔は見たくない。
そう自然に思える自分が何だか可笑しいと思いながら、
キルは構えを解いた。
隙が無ければ作れば良いだけの事。
突然構えを解いたキルに背後から戸惑った声が聞えけれど。
彼はそれを無視して躊躇無く己に向かってくるダイを見据えた。
灼熱が腹を焼く。
構えを解く姿を見た時、
冷静でなんかいられなかった。
何をしてるんだと言葉を乗せても返事は無く、
ダイがその機会を外さずに攻撃を仕掛けるのを見た時、
心臓が壊れるかと思った。
ぶしゅっと嫌な音を立て、キルの体をダイの剣が貫通する。
その瞬間、キルが薄く笑うのを見てポップはぎりりと再び唇を噛んだ。
分かってる。
今が一度しかない好機だ。
駆け付けたい衝動を必死で堪え、ポップはそれを口にした。
「アストロン!!」
眩い光と共にダイの体が鋼色に染まっていく。
それを確認すると同時にキルは剣を引き抜き後ろに飛び退いた。
ぼたぼたと零れる血の色にぐっと胸を押さえそれでもポップは叫ぶ。
「キル!!空間を!!!!」
瞬時に意図を察しキルはその両の手に魔力を篭め
空間を生み出す。
アストロン
仲間全体が鉄のかたまりとなり、一切の攻撃・呪文を無効化する。
一般的に味方に使用するその呪文をポップはダイに施した。
竜の騎士であるダイに長い時間効果があるかはわからない。
否、恐らく直ぐにでもそれを解かれる可能性が高い。
けれど。
キルの生み出した異空間に封じ込める事が出来たのならば、
少しは時間稼ぎになるはず。
神が自ら施した記憶操作を容易く解除出来る術はない。
ならば、少しでも多くの時間が欲しかった。
術を施した張本人を倒すために。
時間の揺らめきと空間の歪。
裂けた空間から現れた闇が最早動かなくなったダイを絡め取る。
早く。
その光景を見ながらポップは呟いた。
どうか早くと。
彼の腹から流れる水滴は足元に水溜りを作り始めている。
例え彼が特別な力を持っていても。
負った傷は相当なものな筈。
焦る気持ちを押さえポップはゆるゆると収束していく闇を見続ける。
そうして、それが元に戻った時。
ポップは駆け出した。
「キル!!!」
駆け付け腹に手を当てれば、濡れた感触が傷の深さを教えていた。
ポップはそれに回復を掛けながら小さく眉を顰めるキルを睨み付ける。
「・・・・・お前無茶しすぎ。」
出来るだけ傷つけない様にとは言ったが、
無茶な真似をしろなんて一言も言ってない。
そう恨みがましくそう呟けば、キルは悪びれた様子もなく笑って見せる。
「だってさぁ。勇者クンを捕まえようと思ったらアレが一番楽じゃない?
どうせキミが回復してくれるしぃ。」
「んなっ!お前そんな単純な理由でかよ!」
「あははは。効率的デショ?」
少し痛かったけどネと悪戯にそう言うと、キルは呆れた様子のポップの頬に手を伸ばす。
本当は唇を噛む姿を見ていたくなかったから。
辛そうな顔をこれ以上させたくなかったから。
本当に自分も甘くなったものだと内心自嘲しながらそれでもキルが紡いだのは別の言葉だった。
「・・・・唇が切れてるヨ?」
「うっさい。」
少しだけ強めに指で拭いキルは言葉を続ける。
馬鹿ダネとそう呟くキルはいつもと同じはずなのに
何処か優しげで。
その仕草にポップは少しだけ戸惑う。
いつも気まぐれに優しさを見せる男だけれど。
此処に来てからのキルは明らかに様子が違うと。
馬鹿にされて揶揄されるより遥かにその方がマシな筈なのに、
何処か不安が付き纏うのは何故だろうか。
離れない不安に頭を振り回復に専念しようと未だ頬に触れたままのキルの手を払えば。
キルはやれやれと肩を竦め、ポップの手を掴んだ。
まだ治療は終わってないと訝しげに見やれば、キルは首を横に振る。
後は自分でやるからとそう言葉を続け、
そうして、立ち上がると長い回廊を睨み付けた。
「・・・・・無粋な人が来たみたいだしネ。」
もういっそ此処まで来ると土下座くらいでは済まない気がしてきました・・・・:
更新遅くなってすいません!
尚且つ、ダイ様取り戻せなくてすいません!
さらにセリフまでなくてごめんなさい〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
姫宮責任とって切腹してきます!!!!
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