一瞬。
本当に一瞬の事だった。
突然歪む視界。
何処かに叩き付けられた衝撃。
後からやってくる激痛にそれが攻撃だったと理解し、
ポップは小さく痛みに喘ぐ。
「・・・・・っ・・・・・う・・・」
そして何とか眼を開け、
状況を把握しようとするポップの視界に飛び込んだのは。
穏やかな笑みを浮かべ剣を握る男と、
その剣を鎌で受け止め対峙するキルの姿だった。
死神のオワリ ACT.3
「・・・・ふふふ、随分と久しぶりだな。」
擦れる金属音すら感じさせぬ程静かに男が笑う。
金の髪を靡かせ白い法衣を纏うその男は、
キルの反撃の一閃すら優美に避けふわりと後方に佇んだ。
「・・・・あれが・・・・神。」
つっと額に汗が流れるのを自覚しながらポップは小さく呟いた。
柔らかな金の髪。
一見穏やかな表情。
その身に纏うのは白い法衣と確固たる威厳。
なるほど確かにそれは幼い頃より描いた神のイメージに近いのかもしれない。
万人が見れば間違いなく平伏し神よと称えるだろう。
だが、とポップは思う。
あれは神などではない。
否、本当に神だとしても。
少なくとも自分がかつて思い描いた神などではなかった。
確かに表情そのものは穏やかに見える。
それでも違うのだ。
その表情に隠された瞳が。
ポップはその瞳に隠された色を知っていた。
そう、かつて大魔王と謳われたバーンもそんな色で己達を見ていたのだから。
あの眼は人を見下した眼。
人を見下し、己が絶対的に有利であると知っている眼。
あれは神ではなく王の眼だ。
心の底から湧きあがる感情にポップは己を必死に制御する。
神が人の為にとダイを封印したのならば、
納得いかないまでもまだ己を制御出来たのかもしれない。
けれど、対峙しはっきりと分かった。
神でありながら神ではないその男は、
人の為にダイを封じたのではない。
ただ己の為にダイを封したのだと。
ポップのその怒りを燈した眼に気付いたのか、
神は皮肉に口角を上げ言葉を紡ぐ。
「随分と嫌われたものだな、私も。
一体何を吹き込んだんだ?ヴェルザー。」
「・・・・別に何も?
ただ彼は聡いからネ、色々気付いたんじゃない?」
侮蔑を篭め、軽口の様にそう言って見せれば、僅かに神と呼ばれる男の表情が変る。
だがキルはそれに構うでもなく言葉を続けた。
「・・・・・それに、一つだけ言っておくケド。
ボクをヴェルザーと呼ぶな!!」
そう言うや否やキルの放った一閃が神に牙剥く。
それが戦いの合図だった。
ドンと言う衝撃音とそれに伴う砂埃。
ぼやける視界で目を凝らせば、
聞える剣戟と飛び散る火花。
休む間のなく起こるそれは攻防の凄まじさを表していた。
「・・・ふっ、なるほど。」
左から振り下ろされた鎌を容易く掴み神は薄く笑う。
汗一つ掻かず息すら乱さず、
余裕すら称えた笑みで。
一見受け止めただけに見える鎌を掴んだ腕は
渾身の力が篭っているにも拘らずピクリとも動く気配はない。
小さく舌打ちするキルを込めた魔力で吹き飛ばし、
確かにと神は言葉を続けた。
「確かにお前はヴェルザーではないな。
アレがこれ程力弱く脆弱な筈もない。」
壁に強かに打ち付けられ、一瞬の隙を見せるキルの腹に、
即ち先ほどダイとの攻防により傷付いた腹に容赦なく剣を打ち込み
僅かに呻くキルの髪を掴み顔を覗き込む。
「だがその器は間違いなくヴェルザーのモノ。
・・・アレは器を捨てたのか?」
「・・・それを・・・・アナタに言う義務があるとでも?」
そもそも教える気もないけれど。
口端からつっと流れる血を拭いキルが皮肉にそう言えば、
いやと神はそれを否定し未だキルの身を貫いたままの剣に力を込めた。
ぐっと噛殺す痛みの声を感慨もなく聞き流し、
神はキルを見下ろす。
「ほんの少し興味が湧いただけの事だ。
アレがどうしてその体を捨てたのか知らぬが、
むしろ都合が良いと言うもの。」
片方の手に魔力の剣を造り神は口角を上げる。
優越感と己が勝利を確信して。
だが、その手がキルに振り下ろされる事はなかった。
憎しみを露に睨むキルから視線を外し、
神はついと其方を見やる。
その眼に映るのは今にでも飛び掛らんとする焔の鳳を従えるポップの姿だった。
「邪魔する気か、人間。」
折角の機会を邪魔された事への僅かな不快の色を隠さず神が口開けば、
ポップはその臨戦の体勢を崩さぬままそれに答える。
「・・・・邪魔くらいいくらでもするさ。
ダイを奪い。キルを傷付けたアンタは俺にとっても敵だ。」
「ただの人間が威勢の良い事だ。
人が神に叶うとでも思っているのか?
・・・・思い上がりも甚だしい。」
侮蔑すら含めた笑いを浮かべ
剣に縫い付けられたままのキルを置き神はポップに歩み寄る。
その姿は正しく神の威厳を纏い、その眼があった瞬間何とも言えない恐怖がポップを支配する。
バーンと対峙した時でも、これほど体の底から恐怖が湧き上がる事はなかったと
そう額に汗を滑らし、それでもポップは逃げ出す事も視線を逸らすこともしなかった。
此処で視線を逸らす事は即ち負ける事。
此処で負ける事は死を意味する事をポップは本能的に悟っていた。
そして何より。
己を唯一神だと自負せんばかりの神が許せなかった。
「思い上がってたらどうだって言うんだ。
アンタが例え神様だって俺には関係ねぇ。
アンタは俺の大事な親友を奪った。
アンタは俺の・・・・」
つっと一瞬だけ視線を移しポップはキル見た。
ダイを極力傷付けないで欲しいと願った為に負った傷。
それを完全に回復する前に再び刺された剣に貫かれたそれは決して軽症などとは呼べない。
ごめん。
心の内でポップは小さく呟く。
アンタにもアンタの目的があったのに。
自分の我侭で傷付けた。
契約だからと笑って、俺の願いを最優先させた。
ごめんともう一度呟いてポップは対峙する神へ視線を戻し
ありったけの怒りを灯し睨み付けた。
「・・・・・・アンタは俺の大事な奴を傷付けた。」
や・・・・・・やっと更新・・・・・
ほんっっっっきでごめんなさい〜〜〜〜〜〜!!
そしてお待たせしました!!
姫宮なんとか復活です!!
続き物で一ヶ月近くお待たせするとは本気でどうしようもない大馬鹿野郎でございます(涙)
切腹どころか万死に値しますな(T-T)
こんな大馬鹿野郎に温かいお言葉を下さいました皆様。
本当にありがとうございます!
またご心配お掛けして本当に申し訳ありませんでした。
これからも頑張って行きますので、
どうぞ宜しくお願いいたします!!
拍手ありがとうございました(礼)
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