例え生きる場所が違っていても。
共に歩んだ道は後ろに続いているから。

ただ、真っ直ぐに。

先を見据えて進もう。



死神のサイゴ



小高い丘。
久方振りに感じる風と木々の匂いに目を細め、
気分良く伸びをすれば。
聞えるのは隣からの偲んだ笑い声。
その笑いにほんの少しだけむっとしてポップは何だよと呟いた。


「人が折角地上の空気を満喫してんのに何笑ってんだ。」


失礼なヤツだなとまさしく口を尖らせてそう言う姿は、
天界での戦いを勝ち抜いた知恵者には見えず。
そのギャップに益々キルは笑みを深めた。


「イヤ、別に何でもないんだケドネ。
ただ面白かったダケ。」
「・・・・・な〜んかハラ立つんだけど。
その言い方。」
「気のせいデショ。」
「あ〜そうですか、気のせいですか。」


本当に腹が立つよなと、ポップはそう言うけれど、
その言葉とは裏腹に表情は明るく、酷く満足気だった。
そう己の決断に何一つ彼は後悔などしてないだろう。


天界で、あの戦いの後彼が望んだ事は、
己とヴェルザー様を酷く驚かすものだったと言うのに。
彼はなんの迷いもなくソレを望み。
むしろそれが叶った時、
それは嬉しそうに笑ったのだ。


今また一つ己の望みが叶ったと笑うポップのその笑みにあの時の姿を重ね、
キルはやれやれと肩を竦め苦笑を洩らす。


「参加しなくてイイの?
勇者様の帰還祝いに。」


周りの人達かなり必死にキミを探してたみたいだったヨ?と、
眼下に広がるパプニカの盛大な祭りを見ながら冷やかし混じりにそう言えば。
同じ様にそれを眺めてたポップは良いんだと笑った。


「俺は今までもこれからも行方不明なんだよ。
どうせ喋れないって事になってんだし。
ついでに今出てったら面倒な事になりそうだし。」
「今回の一番の功労者なのにネ。」
「じゃあ影の功労者って事でいいじゃねぇ?」


中々良い響きだなと屈託なく言葉を紡ぎ、
それでもパレードから目を放す事のないその様子にキルは大仰に息を吐いた。


「まったく、何処までお人好しなんだろうネ。キミは。
普通いくら親友って言ってもそこまでしないと思うケドネ。」


親友である彼に、幸せになって貰いたい。
その一心で彼は新たな人の守護者となった己の主にこう望んだ。

『もし竜の騎士に寿命がないなら、
竜の騎士に寿命を作る事。
出来れば人と同じ長さにする事は出来ないか?』

と。
竜の騎士は役目を終えればマザードラゴンの体内で安息を得る。
そして再び戦いの中で目覚め戦いの中で果てる。
竜の騎士は一つの魂であり、同じ魂が死と再生を繰り返す。
それゆえに寿命はなく、それを作る事は不可能であった。
本来なら。
だが、彼は長い竜の騎士の歴史の中でも別格の存在だった。
人間と正統な竜の騎士の間に生まれた混血。
ゆえに新たな魂を持ち生まれた新たな竜の騎士。

混血であればこそ。
正統な竜の騎士の魂と、その父親より受け継いだ紋章を取り除く事は可能かも知れぬ。
けれど。
最早マザードラゴンが存在しない以上新たな器がなければその魂を取り除く事も出来ぬ。


そう出した結論に。
彼は事も無げに笑い、ならば簡単だと答えた。
一切の後悔もなく、むしろそれこそが最善だと笑って。




『なら、俺がその魂の器になる。
竜の騎士の血を飲んだ俺なら資格くらいあるだろう?』









「後悔は・・・・・・してないんだろうネェ。」


キミは何時だって自分が出した結果に満足だと笑うから。
今回も後悔なんてしてないんだろうネ。
そう呆れ気味に紡がれた言葉に、ポップは当然だと返す。


「俺が後悔なんかする訳ねぇだろ。」
「もう人に戻れなくても?」
「もちろん。」
「二度と仲間に会えなくても?」
「まぁ、寂しいけど仕方ねぇな。」
「死ななくても?」
「良いんだよ、俺は。」


しつこいぞと僅かに睨んで、ポップは木に凭れるキルの方を見やる。
相変わらずその表情は揶揄するように笑っているけれど、
眼の奥に移す気遣う色を知ってるから。
ポップはただ笑った。

信用出来なくて。
警戒して。
ただ共に利用するだけだと思っていた頃が嘘の様だと思いながら。


「死なないって事は。
世界中回りたい放題だし?
文献とか調べ放題だし?
今まで使えなかった禁術も使いたい放題だろ?
良い事だらけじゃねぇか。」
「・・・・何処までも前向きデスネ。」
「言い方がムカツクけど褒め言葉と受け取るよ。」


呆れた様に肩を竦めるキルに、俺は寛大だからなとポップは悪戯にそう言い。
そうしてゆっくり近づくとそれにと続けた。


「どうしても嫌になったらお前に頼むさ。
死神さん。」


その時はまぁ頼むよと、そう言うポップの眼は穏やかで。
それでも決して曇らず輝きを失くさない眼。

何時か、長い歳月が過ぎれば。
彼のその眼の光が失われる時が来るのだろうか。


一瞬でも、閃光の様にと。


そう謳った彼の言葉は、
永遠になれば失われるのだろうか。
何時かそんな時が来たら。
彼の望みを叶えても良いかもしれない。

きっとその時も、彼の眼は真っ直ぐに自分を映すのだから。
それも良いとキルは苦笑する。

きっと、そんな日は来ないのだから。
彼は強く。
何時までも輝きを失くさないだろう。
そう思いながら。



そうして、かつての死神は
かつての大魔道士の甘い唇を感受し
満足気に囁いた。











「残念。死神は廃業したんだ。」








END





お・・・・・終わりましたぁ!!
死神シリーズこれにてENDでございます。

長かったです。いやもう本当に。
でも今回は宣言通り1本でおしまいにw

番外編みたいなのは書くかもしれないですが、
一応は完結かな。

しかし、今だから言えますが。
こいつ達シナリオ通りに進まねぇな!(涙)

本当はラストももっと違った形だったんですよね、実は。
なのに、彼らが勝手に動くもので最終的には全然違う話に;


まぁその辺は日記のネタにするとして。(するのか・・・)

何はともあれ今回で無事終了となった死神シリーズ。
最後まで呼んで頂きありがとうございました!

少しでも楽しんで頂けたら幸いです。

拍手ありがとうございました(礼)

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