あの時、止められなかった事。
無力だった事。
それを忘れた事は。
ただの一度だってない。
女王の憂鬱
賑わう城下を見下ろしながら、レオナは一人溜息を付いた。
明日は大事な日。
去年までは、臣下に嫌になるほど勧められた結婚の話も今年はない。
否、これからはそれが起こり得る事などないだろう。
何故なら、
明日がその日なのだから。
明日は己の最大の祝い日。
幸せを約束されたその日を控え。
それでも、彼女の心は晴れなかった。
「・・・・・・ねぇ、ダイ君が帰って来たのよ。」
誰にでもなく、レオナは空を見上げ呟く。
「私ね、凄く泣いちゃった。」
逢いたくて、逢いたくて。
何度も夢に見た彼が、自分の元に戻ってきてくれた時。
子供の様に泣いたのだと、小さく苦笑する。
「貴方の・・・・お陰なんでしょ?」
彼は何も覚えていないと言ったけれど。
レオナは確信していた。
大切な彼を取り戻せるのは、間違いなく彼だけだと。
「・・・・・お礼も言えないのね・・・・ポップ君。」
ポツリと彼の名を呼んで、レオナは静かに眼を閉じた。
想い人とは別な意味で、彼は特別だった。
大切だった。
何度、彼に助けられただろう。
彼が居たから、自分は立っていられた。
負けずに、諦めずに。
それなのに。
『ポップ君!!出て行くって本当なの?!』
『よう、姫さん。走ってきたな?息が切れてるぜ?』
『そんな事どうでもいいのよ!!
・・・・・・・本当に出て行くのね・・・・・・・』
『まぁ、俺がいなくても平気だろ?
ダイの事も探したかったしな。
丁度いいって話しだ。』
『っ!笑ってないで!!!
他の国がなんて言っても良いじゃない!!
貴方が大魔道士なのは本当だけど、
パプニカに侵略の意思はないわ!
此処に居たって何の問題もないはずよ!!』
『・・・・・・それじゃあ駄目なんだよ。姫さん。』
『だって!!!』
『それはアイツが望んだ世界じゃないだろう?』
『・・・・・っ!』
『誰が言い出したのか知らねぇけど。
なるほど、確かにそうだよな。
ヒュンケルは体が万全じゃねぇ。
マァムは元々僧侶だ。
ラーハルトやヒムやおっさんなんかは強いけど国事に拘ってる訳じゃねぇ。
俺が最強ってのは嘘だと思うけどさ。
それでも俺が国に居れば脅威なのは間違いねぇわな。
なんたって大魔道士だし。』
『でも・・・・・でも!!』
『姫さん。これで良いんだ。』
あの時の彼の笑った顔を、何時までも忘れられない。
それは、酷く困った様であったけれど。
決して曲げる事のない覚悟のがあって。
もう止める事は出来ないのだと、泣いた。
「あの時も泣いたのよねぇ。」
そんなに涙腺の緩い方じゃないのよ?と一人呟きレオナは苦く笑う。
何時までも泣き止む事が出来なかった自分に、
彼は益々困った様にしていて。
それでも呟いた言葉は厳しかった。
『姫さん、アンタはパプニカの女王だろ。
最優先に考えないといけないのは俺の事じゃない。
国の事だ。
私情に流されるな。
災いの種は切り捨てろ。
これから先、何よりも国を優先させろ。
一番の我侭の為に。』
『・・・・・一番の我侭・・・・?』
『あぁ、そうだ。
俺は・・・・・・・』
「俺は必ずダイを連れて帰ってくるから。
だから、一番大事な事の為に我侭は取っておけ。か・・・・」
ダイは確かに勇者だが、それでもパプニカの女王を結婚するには
きっと困難を要するだろう。
だからこそ、今は国を最優先に。
そう彼は言ったのだ。
「お陰様で、明日はあたしの結婚式よ?
なのにお祝いも言いに来ないのね。」
嘘吐き。
レオナは小さく言葉を紡ぐ。
連れて帰ってくるって言ったじゃないと。
ダイだけでは駄目なのだ。
「連れて帰ってくるって言ったじゃない。
それはキミも一緒って意味でしょ。
半分しかあってないわ。」
あの時、止められなかった事。
無力だった事。
それを忘れた事は。
ただの一度だってない。
愛してる訳ではない。
それでも大切なのだ。
だからこそ。
「幸せな花嫁にしたいんだったら、帰ってきなさいよ。」
そう呟かれた言の葉は、返される言葉もなく宙に吸い込まれた。
to be continued
久々の更新でございます。
今回は死神シリーズの番外編って事でレオナ様のお話しを。
・・・・・ポップ君回想でしか出なかった・・・・orz
いやいやいや、でもこれからちゃんと出しますよw
勿論キルもダイも!
出します!・・・・・多分(ぇ)
番外編なら一話で終れよと自分で突っ込みをしつつ書き始めた番外編、
もう少しお付き合いくだされば幸いです。
拍手ありがとうございました!
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