いつか再びキミに会えたなら。

ごめんなさいじゃなく。
お帰りじゃなく。
久しぶりでもなくて。

ただ伝えよう。

『       』




女王の憂鬱 act.5





本日は晴天。
柔らかい日差しが窓から降り注いで。
まるで昨日何事もなかったかのような今日が訪れる。

事実、昨日一日何かが起こった訳ではない。
そう、彼女以外にとっては。

豪奢なドレスと柔らかなベールとを身に纏い、
ただ、心静かにその時を待つだけ。

トントンと扉を叩かれる合図にレオナがそっと顔を上げれば。
一人の従者が恭しく膝を突き頭を下げ挨拶を述べる。


「式のお支度が整いました。女王陛下には神殿へ向って頂きたく。」


そっと手を伸べるその仕草に小さく微笑みレオナは立ち上がった。

祝福された今日と言う日の為に。









カツンと小気味良い音を響かせ回廊を二人で歩く。
何時もは賑やかしいこの場所も、今は誰もいない。
皆今頃は一目その姿を望もうと、神殿に集まっているのだから。


ふと、そこでレオナは足を止める。

回廊の、その日差しの一番当たるであろうその場所は。
彼が酷く気に入っていた場所だった。


「女王陛下?」


足を止めたレオナを訝しげに声を掛ける従者に、
何でもないわと首を振りレオナは再び歩き出す。


「・・・・・・・・彼ね、此処が凄く好きだったの。」


サボるのも。
何かを調べるのも。
あの場所だった。


「良く怒ったものよ?部屋でやってって。」


いつも探すのが大変ですって苦情が来てるのよ!
そう文句を言えば。
何時でも彼はヘラリと笑って頭を掻いてこう言うのだ。


『いやぁ、ごめんごめん。あそこが一番気持ち良くてさ。』


「日差しが良い位テラスでも何処でもあるでしょ?って普通思わない?」


返事がないのを承知の上でレオナはクスクスと肩を揺らしながら笑う。
これは独り言のようなもの。
返事がないのをわかって最初から話しているのだからと、
別段気にした様子もなく彼女は話し続ける。


始めは気付かなかった。
何時でも周囲が不思議がる事を平気でする彼だから。
気まぐれでそこが気に入ってたのだとばかり思っていた。

いつだっただろう。
それに気付いたのは。

周囲が不思議だと思っていた事は、何時でも何かしらの理由があって。
後に必要なものであったと、改めて誰もがそう思った時。
レオナはその場所を覗いて見た。
そこにも、彼がいた理由があった気がして。
日々の政務に追われ、普通であったら絶対に気付かない様なそんな場所。
そこからは。


「街がね・・・・良く見えるの・・・・」


一人一人の顔が見える距離ではないけれど。
それでも行き交う人々の様子は見て取れた。


「・・・・彼は・・・ポップ君は。私より大切なものを知ってるんだとあの時痛感したわ。」


もしかしたら誰よりも統治者に向いてるのかもしれない。
そんな風にすら思えたとレオナは苦笑する。


「忘れちゃうのよね。 国の為って何時も思ってるけど国が誰のものなのか。
会議とか書類とか。 そんな紙一枚で済むもので国の全てを理解した気になっちゃうの。」


そんな筈はないのに。
日々の忙しさに感け紙の上で人を理解しそうになる。
統計で人の心まで計れるはずがないと言うのに。


「それをポップ君は良く分かっていたんだと思う。
だから、何度言っても此処が良いんだって笑っていたのよ。」


気付くのが少し遅かったけれどね。
僅かに憂いを帯びながらそう呟けば、長く沈黙していた従者が始めて言葉を紡ぐ。


「一度でも過ちを過ちと認めたなら、それに早いか遅いかは関係ないと思いますよ。」


人が過ちを犯すのは残念ながら当然の事で。
問題なのはそれに気付いた時、何もしない事。
過ちに気付いて、その為に何かを始めたのなら。
それに遅い早いは関係ない。


そう呟き、次いで照れた様に笑って見せるその仕草にレオナは僅かに驚いて、そして微笑んだ。


「・・・・えぇ・・・そうね。その通りだわ。」


後悔しても、その後どうするか考える事を忘れてはいけない。
それを教えてくれるのは、
何時でも貴方だった。


「ありがとう、貴方に感謝するわ。」


いつか再びキミに会えたなら。

ごめんなさいじゃなく。
お帰りじゃなく。
久しぶりでもなくて。

ただ伝えたかった言葉があるの。


困惑気味に立ち止まる従者にレオナは確信を持って微笑んで。

そうして、それを呟いた。



「・・・凄く会いたかったわ。ポップ君。」


to be continued



はい、素直に懺悔します。
最初「女王の〜」は4話で終わる予定でした。
今5話目です。


・・・・終わりませんでした・・・・(T-T)

で、でも次こそ!!完結!
したいなとか思ったり思わなかったり・・・(マテマテ)

次は早めに更新しますので、これからも宜しくお願いします(礼)


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