01 駄目よ、約束したでしょう?
  私はもう、あなた以外愛さないって決めちゃったの
(キルポプ)





「お前なんかもうしらねぇよ!バァーーーーーーーカッ!!」


そう言ったきり向かいのソファーの肘掛に手を突き、
顎を乗せたまま動こうとしないポップに、
キルはからかい過ぎたかと、小さく呟いて肩を竦めて見せる。

些細な、本当に些細な言い合いから発展した口喧嘩は、
どうにも彼の癇に障ったらしい。
尤も、怒りに任せ部屋を飛び出さないだけ、今日の怒りはマシなのだけれど。


「・・・・前に怒らせた時は二ヶ月くらい行方不明だったしネェ・・・・・」


その時に比べたら居るだけマシだと、独り言のように呟いて、
キルはゆっくりと立ち上がり、
未だ頬杖を付き視線を合わせようともしないポップの隣に座る。


「・・・・・・・・・なんだよ、ボケ。」


隣に座っても、全く合わない視線に少しだけ焦れて。
その背中に寄りかかれば漸く返ってきた言葉に、
キルは歎息する。


「ボケは余計じゃナイ?」

「うっせぇ。お前なんかボケで充分だ。」

「ハイハイ、じゃあボケで良いから顔くらい見なヨ。」


抵抗するポップの腕を掴み無理矢理に己の方へ引き寄せ、
両手で頬を挟めば、キルは満足げに笑みを浮べた。


「やっと見たネ?」

「見たんじゃなくて無理矢理見せたんだろうが。」


未だ不機嫌そうなその様子に、そうとも言うネと言葉を続けて。
ポップの額に口付ければ、
暫くの沈黙の後、ポップは大きく溜息を零し、
パプっと小さな音と共にキルの腕の中に納まる。


「何かすげぇムカツク・・・・・・」


謝られた訳でもないのに、
こんなキス一つで宥められる自分自身が。
酷く腹立たしい。

何が?との問いに返されたポップのその言葉に、
一瞬眼を瞬かせ、やがてキルはクツクツと愉快そうに肩を震わせる。
そうして、笑うその様に再び不機嫌さを醸し出すポップに一つ口付けた。


「キミって本当にボクがスキだよネ?」

「あ〜もう、うっせぇ!」


今からお前を嫌いになるからお前も俺を嫌いになりやがれ!

笑みを浮べたままのキルに心底腹立たしいと言わんばかりに、
そう呟くポップの手を取れば。
その掌に唇を押し付け。
そうして、ゆっくりと視線を合わせて。
キルは微笑んだ。



「駄目ダヨ、約束したデショ?
ボクはもう、キミ以外愛さないって決めたんだ。」



尤も、約束なんかしなくても、キミしか愛せないけどネ。






バカップルになりすぎた・・・・・orz






02 じゃーん!私の最終兵器!これであなたも私の虜!
  ねえ、どう?ドキっとした?ホレ直した?
(マトポプ)





「師匠〜〜っ!!!」


バタバタと騒がしい足音を立てながら己を呼ぶ声に。
今日はアバンの元へと顔を出しに出かけていたはずだと言うのに、
戻るのが早い上に、戻ってきた早々にうるせぇと小さく呻き。
マトリフは顔に乗せていた本を退け、
ゆっくりと椅子へと預けていた体を起こした。


そう広くもないこの洞窟で、態々走るほどの用事など、
緊急なものであるか、それともくだらないかのどちらかと決まっている。
ましてやアバンの元から戻って来たのだ。
この場合は確実に後者に間違いないとポップの声から確信しつつも、
仕方なしに声の方向に体を捩り、
そこで動きと思考を止めた。


「・・・・・・・・お前なぁ・・・・・・」


止めたと言うよりは無理矢理に止められた思考をなんとか引き戻し、
ヒクリと頬を引き攣らせマトリフが必死で声を絞り出しそう問えば。
悪戯に成功した子供のようにポップはその場でクルリと回って見せる。

そう。
ピンクのフリルでたっぷりとあしらわれたそれはもう可愛らしいエプロンドレス姿で。
しかもご丁寧に普段のバンダナを外し、
エプロンドレスと同じピンクのリボンまで頭にちょこんと付いている姿で。


この場合、馬鹿な事をするなと、怒れば良いのか、
お前は一体いくつだと、呆れれば良いのか。
そもそもアバンの所からそんな格好で戻ったのかと聞けば良いのか。
それとも何も考えず、美味しく頂けば良いのか。
流石に昼間から一番最後の選択肢は無理だろうとか色々考えながら、
珍しくもマトリフが言葉を詰まらせて居れば、
ポップはさも機嫌良さそうにさらに言葉を紡ぐ。


「じゃーん!俺の最終兵器!これで師匠も俺の虜!
ねえ、どう?ドキっとした?ホレ直した?」


色んな意味でドキっとするに決まってんだろう馬鹿弟子がっ!
そう叫びそうになるのを辛うじて堪え、マトリフが米神を押さえれば。
そんなマトリフの様子を呆れたと取ったのか、ポップは小さく溜息を零した。


「・・・・・・ちぇっ・・・・やっぱしこんな格好意味ないじゃんか・・・・」


少しだけ拗ねた様な、そんなポップの呟きに、
漸く苦くとは言え笑みを浮かべる事に成功したマトリフが手招きしてやれば、
ポップは僅かに頬を膨らませたまま、それでも素直にマトリフの腕の中に納まる。


「で、何がしたかったんだ?」

「ん〜・・・・・・・何って訳じゃねぇんだけどさ・・・・」


流石に自分でも先ほどの台詞は恥があったのか、
マトリフの腕の中で鼻先を掻きながらポップは口篭り。
笑うなよ?と先に念を押してから言葉を続ける。


「偶に見せる意外性が長続きの秘訣。」

「・・・・・・・・・・・・・は?」

「だから。
偶に見せる意外性が長続きの秘訣だって先生が言うからさ。
俺は面倒だしヤダって言ったんだけど。
折角ドレスも用意したんだし、良いじゃないですかって言われてさぁ。
色々説得もされたし、まぁそこまで先生が言うなら必要なのかなぁって・・・・・・」


やっぱり呆れるよなと苦笑するポップの頭にポンと手を乗せ、
馬鹿な奴と小さく笑ってやれば。
ポップもうるせぇと反論しつつも苦笑から笑みに変わる。

そうして鼻先に口付けて着替えて来いとポップを部屋から追い出せば。
マトリフは静かに笑みを浮べた。

最愛の愛弟子のもう一人の師匠であるあの男のことだ。
意外性など関係なく、100%確実に自分が見たかっただけに決まっている。
寧ろ自分が見たいから、態々意外性云々などと口実を付けたのだろう。

確かにそれなりに良いものを見たとも思うが、
アバンが用意した服を何時までも着せておくほど寛容でもなければ、
容認するほどお人好しでもない。
何より、味を占めたアバンがまたポップを丸め込んでポップをまた趣味で飾り立てるかもしれない。

そんな事はゴメンだと小さく呟いて。
マトリフは立ち上がる。
先程までの苦笑でも、微笑でもなく。
酷く凶悪な笑みを浮べたままで。



笑顔の鬼がアバンの元に訪れるまであと数分。





・・・・・・アバン先生ゴメンナサイ・・・・・(土下座)




03 おい、これはどういうことだ?説明してみろ。
 そんな目で見たって駄目だ!俺は騙されんぞ!今日こそは騙されん!
(ハドポプ)




麗らかな日差しの中、柔らかいまどろみを妨げるその轟音に、
ハドラーはまたかと小さく歎息して。
そうして、のそりと起き上がった。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・で?」

「ゴメンナサイ。」


ポップに調合部屋と称された元小屋の、
見るも無残な残骸に溜息を零しつつハドラーがそう問えば。
そんな残骸の様子に頭を掻き、ポップは律儀に正座し深々と頭を下げた。

そんな珍しくも素直に詫びる姿に困惑しつつ、
ハドラーがポップの側に近寄れば、怪我はあるかとそう問いながら手を伸ばすも、
地面に額を擦り付けんばかりのポップの言葉がそれを遮る。


「本当にゴメンナサイ!!
ほんっっっきで反省してます!
つーかもうマジですんませんっ!!
ほんっっっっっとうにごめんなさいっっっっ!!!!!」


その畳み掛ける様なポップの謝罪に、益々困惑の色を深めるハドラーだったが、
そのポップの尋常でない様子に漸く気付き、ピタリと動きを止めた。


「・・・・・・・何をした?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・てへ。」

「てへじゃないっ!!!
一体何をしたんだお前はっっっ!?
目を逸らすな!!
説明しろ!!!!」


ポップの両肩を掴み上体を無理矢理起こしガクガクと揺さぶれば。
漸くポップは視線を合わせ、
人差し指を自分の頬に当て爽やかに笑みを形作る。


「ハドラー大好き!
愛してるから許して!」

「許せるかぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ちっ・・・・」

「ちっじゃない!!!
いいからさっさと説明せんかっ!!!」

「え〜・・・・・説明面倒・・・・・」

「本気で反省してたんじゃないのか貴様は!?」


ピクピクと米神に青筋を浮かばせ、怒りに震えるハドラーに
ポップは冷汗を掻きながら無言で半壊した小屋の片隅を指差す。
そうしてつられる様にそちらへと視線を向けたハドラーは、
今度こそ固まった。


「・・・・・・・・・・・・・・・ヲイ・・・・・・・・」


たっぷりの沈黙の後、ゆっくりとポップに視線を向ければ、
当のポップはうるうるとワザとらしい涙目を披露する。
だが、流石にそれくらいで騙される訳もなく、
ハドラーはソレを指差し声を荒げた。


「おい、これはどういうことだ?説明してみろ。
そんな目で見たって駄目だ!俺は騙されんぞ!今日こそは騙されん!」

「ハドラーこわ〜い。」

「寧ろお前の方が怖いわ!!!!!!
何だアレは?!
何をしたらああなるんだ!?」

「熱心な研究の成果です。」

「なるかぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」


何をどうやったら
八本の腕を動かし獲物を狙う、
身の丈10mはあろうかと言うくらいの、
一匹の巨大な蜘蛛が出来るというのだ。


いい加減爆音と小屋の半壊には慣れたが、
流石にコレはありえないと呻くハドラーの肩に手を置きポップは小さく首を横に振る。


「事実を認めるって大事だぜ。」

「・・・・・お前が言うな。」

「ちなみに雌です。
今は繁殖期です。
卵持ってます。」

「・・・・・・・・・・・・・・・という事はだ。
俺達は捕食対象の上に、
アレを根絶やしにしないとあのでかさの蜘蛛が大量に増えると。
そう言いたい訳か。」

「あっはっは!!!
いやもう、あんなん増えたら生態系狂いまくりだな!!
魔法も効かないし!!」

「笑い事・・・じゃ・・・まて。
まてまてまて。
なんと言った?」

「生態系狂いまくりだな?」

「その後だ!!!」

「魔法も効かないし?」

「何をしたぁぁぁあぁぁぁ!!!!!!!」

「最近薬草に集る蟲が邪魔で、その駆除にアレを使おうとして。
んでどうせなら多少サイズを大きくした方がいいかなぁと思って色々実験した結果です。」


そしたら何でか魔法も効かなくなったんだよなとケラケラと笑うポップに、
今度こそ眩暈を覚えつつも、ハドラーは仕方なしに立ち上がる。
そうして、暫く研究は禁止だと言い残して駆け出した。










「お〜・・・・・流石にハドラー。
やっぱ強いなぁ〜」


巨大蜘蛛を薙ぎ倒すその圧倒的な強さのハドラーをのんびりと眺めながら、
ポップはポツリと呟く。


「予定ではもうちょい小さくするつもりだったんだけど。
まぁ・・・・・平和な世の中じゃ戦いなんぞ滅多にないし。
いい加減ストレス堪ってただろうし。
あのくらいで丁度良かったかな。」


元来闘い好きな彼が、平和な世の中で戦う事もせずに大人しく暮らすのは、
それなりにストレスも堪る。
ましてや彼は元は魔王軍。
10年経ったとは言え、未だハドラーの顔を覚えているものは多く。
誰かと手合わせなども簡単に出来はしないのだから。

口では何だかんだといいながらも、
それでも嬉々として戦う最愛の人を眺めながら、
ポップは策士の笑みを浮かべた。


「次は何で失敗しようかね・・・・・」




ハドポプはギャグ担当です(ぇ)




今回お借りしたお題。
可愛く
01 駄目よ、約束したでしょう?
  私はもう、あなた以外愛さないって決めちゃったの
02 じゃーん!私の最終兵器!これであなたも私の虜!
  ねえ、どう?ドキっとした?ホレ直した?
03 おい、これはどういうことだ?説明してみろ。
  そんな目で見たって駄目だ!俺は騙されんぞ!今日こそは騙されん!


此方様からお題を借りました
「モモジルシ」様

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