「俺さぁ・・・・・ダイが本当に好きだったんだよ。」


勿論、恋愛感情じゃないけどな?
そう苦笑しながらポップが告げれば、
向かいに座るレオナもまたちいさく笑って頷いてみせる。


「わかってるわよ。
親友とか、そう言う意味でしょ?」

「そ。親友っつーか、弟っつーか。
まぁとにかくダイが好きだったんだ・・・・・」

「そう・・・・」

「・・・・姫さんも、だろ?」

「そうね・・・。
私のは本当に恋愛感情だけど。
ダイくんが本当に本当に大好きだったわよ。」

「・・・・・・・会いたいな。」

「会いたいわね・・・・・」


もう一度だけでも良いから。
そんな風に呟いて。
レオナとポップが顔を見合わせ、ただ苦く笑えば。
カチャリと扉が開かれ、現われたハドラーが呆れた様に口を開いた。


「・・・・・・・・・・・・・・・何の話をしてるんだ?」

「あら、久しぶりね。
お邪魔してます。」

「お帰りハドラー。
もう鍛錬終わった?
お茶飲む?
それとも珈琲?」


途端にぱっと笑みに変わり、席を立ち己の側に来るポップと。
それを眺めながらやはり笑顔で手を振るレオナの様子に、
ハドラーは益々訝しげな表情を浮べ、それでも己の椅子に向えば。
で、何の話をしていたのだ。
そう問うた瞬間。
ピシリと空気が凍った。


「・・・・・・・ダイが凄く好きだったって話をしてただけど?」

「・・・・・・・ええ、ダイくんにもう一度会いたいって話をしてただけよ?」


ねぇ?とお互いの顔を見合わせて二人は微笑む。
例えば普通の人間だったら、その笑顔だけで失神できるんじゃないかと。
そう思えるくらいの冷たい笑みで。
そんな笑みを浮べる二人からゆっくり視線を逸らせば。
リビングの、先程からカタカタと小さく揺れ続ける窓に動かした視線を向けて。
そうして。
今度こそ深く深くハドラーは溜息を零した。


「・・・・・・・・そうか。」


窓の外で。
涙目になりつつも扉を叩いているのは。
ついでに、恐らく謝罪の言葉だろう何かを紡いでいるのは。
間違いなくダイではないのだろうか?
そう思いつつも、ハドラーはそれ以上何も言わずに大人しく座る。

十中八九、恐らく間違いなく確実に。
今、二人は機嫌が悪い。
一体何をやったらコレだけ怒らせる事が出来るのかと、
酷く経緯は気になるものの、
今それを聞けば確実に余波を食らう。
出来ればソレは避けたい。

そんな風にハドラーが内心で好奇心と葛藤していれば、
向けた視線の先でガッチリとダイと眼が合った。

パクパクと必死で何かを訴えるダイに、
そう言えば此処はどうやってかは知らないが、防音対策もしっかりしていたな。
などと見当違いのことを考えつつもハドラーはその口の動きを読む。

何とかして。
そう言いたいのだろうダイの気持ちはわからなくもない。
わからなくもない、が。
巻き込むなと言い返してやりたい。

例えかつて魔王と呼ばれようと。
竜の騎士が強かろうと。
恐ろしいものは恐ろしいのだ。


「さっきから外を見てるけど何か見えるの?」

「何か気になるものでもある?」

「まさか外に何かいるとか言い出すのかしら?
私、幽霊とか凄く苦手なのよねぇ。」

「姫さんは怖がりだからなぁ。
駄目だぜ、ハドラー。
ビビらせる様な事言ったら。
それとも何かい?
人が折角徹夜までしてサミット用のスピーチ原稿書いてやったのに無くしやがった大馬鹿野郎
でも見えるのかい?」

「それとも。
その原稿をなくした事を黙っていた挙句にサミットで全然見当違いの事を言って失笑を買っていたパプニカの王様
でも見えるのかしら?」

「まさか、んなもん見える訳ないよなぁ?」

「って言うかそんな人居る訳ないわよねぇ?」

「で、ハドラー。
珈琲と紅茶とどっちがいい?」

「お茶請けにクッキー持ってきたから、良ければどうぞ?」


半ば脅しにも近いその問いに、窓から視線を戻せば。
ハドラーは何度目かわからなくなった溜息を吐く。

同情はする。
同情はするが、フォローは出来ない。

まぁ世の中には自業自得と言う言葉もあるくらいだ。
偶には良い薬だろうと思いながら。
ハドラーはゆっくりと口を開いた。


「・・・・・取り合えず珈琲で。」




ダイ様FANに向って土下座ッ!!!!!








それはほんの出来心。


「・・・・師匠!!!」


外に出て釣りをする背中を見ていたら。
何だか急に悪戯心が湧いてきて。

俺は、勢い良く背中を突き飛ばした。


「ーーーーーーーなっ?!」


滅多に聞けない師匠の焦った声とばしゃんと弾ける波の音。
珍しく成功した悪戯に、俺は思わず声を上げて笑う。


「・・・・てめぇなぁ・・・・」

「へへん。油断大敵なんだろ?」


びしょ濡れになって睨み付ける師匠にそうやって言えば。
益々眉間の皺が深くなるけれど。

俺は知ってる。

あれは怒ってるんじゃないって事を。
まんまと悪戯に嵌った事が悔しいんだ。

本当に負けず嫌いだよなと、一人笑いを堪えていれば。
はぁと大きな溜息が聞こえて。
苦虫を潰したような顔をしてるんだろうなとそれを拝見しようとした時。
視界が急に揺れた。


「うわっっ!!」


腕を引かれた驚きと、大量に押し寄せる塩辛い水に
慌てて空気を求め水面に顔を出す。


「・・・・ぶはっ!!!」


畜生。
やられた。
海水が沁みて思わず涙目になったじゃねぇか。
つーか口の中が塩辛い。

避けれなかった自分がムカつくやら悔しいやら。
先に自分がやったんだろうとか、
自分も充分に負けず嫌いだなとか。
そんな事は取り合えず置いておいて。

まずは文句の一つでも。
そう思って顔を上げれた瞬間。

俺は激しく後悔した。


「油断大敵・・・だったな?」


ニヤリと笑って、ぱさぱさと落ちる髪を鬱陶しそうに撫で付ける。
その師匠の仕草が。

凄く格好良いとか思っちまうなんて!

あぁもうマジで勘弁して下さい。
何でしょう、俺ってばやっぱし末期なんでしょうか。

それはほんの出来心、だった筈なのに!
まさに油断大敵。

色んな意味で、やめれば良かったと後悔しながら。
俺は訝しげにこっちを見る師匠から逃げる様に海に潜った。



・・・海から上がるまでにこの赤い顔が何とかなってれば良いんだけど!!!





バカップルには石でも投げてやれば良いよ!メドローアで仕返しされるけど!!




それは特にやる事もなく、のんびりとお茶を飲んでいた時の事。
暇だと小さく欠伸を繰り返していたはずのポップが、
ふと顔を上げれば。
彼は悪戯な笑みを浮かべ言葉を紡いだ。


「・・・・・・・・なぁなぁ、キル。
れさぁ
えから思ってたんだけど。
らそうで、態度悪いくせに大事な時には、
むしゃらになる奴って
げーなって思うんだよな。
らいじゃないし。」


事も無げに呟いたその言葉に。
椅子に深く座り本を読んでいたキルもまたソレを閉じ。
習うようにゆっくりと言葉を紡ぐ。


「・・・・そう?
くは
るしい時も辛い時も
っきりと絶望だってわかる時も
きらめないって、
しを持ってる奴の方が
んぱいもするし
んせいの自信家って気もするけど
すばんしか出来ない奴よりずっと良いと思うよ。」


「・・・・変な趣味。」

「キミもネ。」


クスクスとお互い笑い合えば。
再びポップは欠伸を繰り返し。
キルは閉じていた本を再び読み出す。
そうして。
そんなたわいも無いと思われる会話を黙って聞いていたヴェルザーは、
呆れた様に言葉を落とした。


「・・・・・・・・・貴様ら。
んびりしてると
くでもない事を考えるのはわかるが。
んかよりマシだとも思うが。
っきり言って
い趣味とも思えん。
んなに暇なら散歩でもしてきたらどうだ?
きれば早く行け。
かましいからさっさと行け。
んらくだけは忘れるなよ。」


キョトンとしたポップが一拍置いて笑い出せば。
キルもまた苦く笑い。
そうして了解と呟いて出て行った二人を尻目に、
漸く静かになったとヴェルザーは歎息した。






だって暇だと煩いんですもの!



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