「ポップ〜〜〜〜っっ!!!」

「・・・・ダ・・・・イ?!ちょっ!?
ばかっ!おまっっ!?」


名を呼ぶダイの声に笑みを浮かべ、
マトリフの手を借りつつ上体を起こしたポップは、
嬉しそうに此方へと向かうダイのその姿に一瞬にして顔を強張らせる。

こっちはいくら回復したとは言え万全の体調ではないのだ。
師のマントを羽織り漸く上体を起こせたばかりだと言うのに、
全速力で突っ込まんばかりに駆けて来るダイなど受け止められるか。

仮に万全の状態でも、このスピードを無傷で受け止める自信はないけどな。

何処か冷静な思考でそんな事を思いつつ、身体は何とか逃げようとするものの。
全速力の相手には適うはずもなく。
ダイに押し潰されたポップの呻く様な声が、
その様子に仲間が苦笑が、
平和な森に響き渡るのは、

もう少しだけ後の事。





Even if it exceeds a time12




「・・・・・・お、ま、え、は・・・・・
俺を殺す気かぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「いひゃい!いひゃいっっ!!」

「怪我人相手に、全速力で、突っ込んでくるとか。
挙句お前の、その馬鹿力で、抱き付くとか。
実は俺が嫌いかお前は。
そうかそうか、いい度胸だ。」


ダイの頬を左右に遠慮なしに引っ張り、
顔は笑って米神に青筋と器用な芸を見せながらポップが、なぁ?と問い掛ければ。
地味に痛いその攻撃に、涙目になりながらダイはジタバタと手足を動かす。
そうして、モゴモゴと頬を引っ張られたままダイが口を動かせば、
気が済んだのかポップは盛大な溜息と共に頬から手を離した。


「だって!ポップが無事だと思ったら嬉しくて。
つい勢い余っちゃって・・・ゴメン・・・・。」

「・・・・ごめんじゃねぇっての。
お前はただでさえ力が強いんだから、
俺はともかく、姫さんやマァムに抱き付く時は注意しろよ?」


シュンと頭を下げるダイのその様子に、仕方ないヤツと呟いてポップは苦笑を浮かべる。

長く、本当に長い時間の後に再会できた親友に。
懐かしさと。
ほんの少しの切なさがポップの胸中を占めながら。

この頃のダイは、まだ自分が何者であるか知らない。
駆け出しの勇者として、
世界を、
仲間を守りたいと願っていた、
純粋な少年の頃のダイなのだ。

苦く笑ったまま、何も言わず。
手を伸ばしその小さな頭を撫でてやれば、
不思議そうに己を見上げるダイに、
ポップはただその笑みを深める。


これから。
ダイは途方もない絶望と衝撃とをいくつも繰り返し味わう事を自分は知っている。
勇者として、バーンを倒す為に必要な成長過程だとわかってもいる。
そう年の変わらないあの頃は、その勇者としての成長が頼もしく見えたのだけれど。

まだまだ少年のままで良いじゃないかと。
自分の過酷な運命に立ち向かうにはまだ早いじゃないかと。
そう思えて。
今は、少しだけ悲しい。


「・・・・あんまさ、無茶すんなよ?」


叶わぬ願いだとわかっていてもつい紡いだ言葉に、
ダイはキョトンと首を傾げる。
なにが?と問い掛けたそうなその顔に、苦笑を意地の悪い笑みに変えれば、
ポップはグシャグシャとその頭を乱暴にかき混ぜた。


「何たって意外と頭に血が上りやすいからな、お前は!
いつ何時無茶するんじゃねぇかって心配するこっちの身になれって話だ!」

「あら。
それはポップも同じだと思うけど?」


苦い笑いを伴った背後から聞こえるマァムの声に、ポップがあらぁと若干の引き攣りを見せれば。
変わらずにグシャグシャと弄られたままダイも、そうだよ!とすかさずの反論を試みる。


「ポップの方がよっぽど無茶じゃないかぁ!」

「・・・・あぁん?」

「うっ・・・・た、だって自分の事置いて逃げろとか、
無茶な事言うし・・・」

「ばーか。あん時はそうでもしなきゃ確実に全滅だったろうが。
まぁ・・・たしかに自分でも無茶だったとは思うけどよ。
俺が言ってんのは、しなくてもいい無茶すんなよって話だってーの。」

「でも、心配したのも事実だわ。」

「本当だな。
悪魔の目玉からフレイザードの声を聞いた時は流石に俺も肝が冷えたぞ。」


もごもごと反論するダイを一瞥し正論で返すも、
マァムとクロコダインの言葉を聞けばポップはむぅと小さく唸る。
間違った事はしていないかもしれない。
が、中々に無茶だったと自覚している分、
心配されたと言えば返す言葉が見つからないのも事実だ。

ヒュンケルにまで、その通りだと言わんばかりに苦笑しつつ頷かれれば、
これは困ったと眉を下げ。
頬を掻きつつ師へと視線を向ければ。
お前が悪いと言わんばかりのマトリフの意地の悪い笑みにポップは肩を竦める。

そうして。
どうにも分が悪いようだと思いつつ謝罪の言葉を紡ごうとした時、
突然感じた威圧感にポップは咄嗟に目の前のダイを抱き込み、
前方を睨み付けた。


「師匠っ!」

「わかってる。」


守る様にダイを抱き込んだまま、マトリフへと視線を向けるポップに、
マトリフもまた威圧感の方向へと視線を向けたまま心配するなと小さく紡ぐ。
そんな二人のやり取りに、レオナはマァムは訝しげにしつつも同じ方向へと視線を向けるに過ぎないが、
ヒュンケル、クロコダインはやはり気配を察知したのか警戒の色を強めた。


「お前は・・・・・ミストバーンっ・・・」


そうして、無言で現れた気配の主に。
ヒュンケルがゆっくりとその名を呼ぶ。
氷魔塔で忽然と姿を消したはずの魔影軍団長の登場に、
一瞬でその場空気が緊迫したものに変わる中。
ポップは小さく歯噛みする。

過去では。
もはや消滅しか道のなかったフレイザードを使い、
ダイの完成したアバンストラッシュの威力を測ったミストバーンだが、
そのフレイザードも今はもう消滅している。

なにをするつもりだ。
そう警戒を強めたままポップは内心呟く。

ありえない話だとは思うが、
今もし此処でバーンの力を使われたら。
間違いなく、全滅する。


幸いにして、この場には結界は存在しない。
拠点がバレるリスクを承知でもルーラで逃げるべきか否か。
相手の手が読めぬ以上、
考えられる限りの手を此方も考えねばならない。
視線は外さず、真直ぐにミストバーンを見据えたまま、
ポップは思考を巡らせる。
だが、予想に反してミストバーンは動きを見せない。


「・・・・・・・・次は、ないと思え・・・・」


暫くの睨み合いの中、そう短く言葉を紡いで、
ミストバーンはバサリと衣を翻し姿を消した。












「一体何者なの・・・・今のは。」

「あれは魔影軍団長ミストバーン・・・・
魔王軍の中でも何を考えてるかわからぬ、底の知れぬ男だ・・・」


気配がなくなり安堵した様に問うレオナに、クロコダインが警戒を緩めながらも答える。
とりあえず、危機は去った。
だが。
そう思いつつも疲労の色を濃く滲ませ始めた皆を他所に、
ポップはじっとミストバーンの消えた空を見続ける。


「・・・・ポップ?
どうした・・・・・?」

「ん・・・・?あぁ・・・・」


そんなポップの様子に気づいたのか、ヒュンケルの紡ぐ言葉に。
何でもねぇよと手を振りポップもまた大きく息を吐く。


「ま。とにかく敵さんも居なくなった事だし。
帰って休もうぜぇ?」


皆ボロボロだし。と言葉を続けダイから手を離しポップが笑う。


「一番ボロボロなのはお前だけどな。」

「・・・・・師匠うっさい。」


揶揄する様に放たれた言葉に不貞腐れつつ、
それでも差し出されたマトリフの手を駆り立ち上がれば。
そんな二人の会話に釣られた仲間の笑い声に、
ポップも苦く笑い返した。


ミストバーンの。
衣で隠された両の目が。
真直ぐ己に向かっていたなどと。


気のせいだと思いながら。




to be continued


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