罪だと?
神に逆らうだと?
んな事は知ったことか。
俺はただ俺に出来るベストを尽くすだけ。
その結果が罪だというなら。
天に向かって唾でも吐いてやるさ。
Even if it exceeds a time2
「その願いは・・・・・貴方の願いなの?」
揺り椅子に座った少女は付いていた頬杖を放し、
不思議そうに彼を見詰める。
意外だと言わんばかりのその表情を気にもせず、
そうだと答えれば。
彼女は愉快ねと呟いて薄く笑った。
「偏屈で我侭で人嫌い。
人と拘る事を凄く凄く嫌っていた貴方がそんな願いをするなんて。
凄く面白いわ。」
まるで彼の人生を見てきたかの様なその言葉にも彼は動じない。
だからどうしたと憮然と答える、その傲慢にも見える態度が、
逆に少女には面白いものだった様で、さして気にもせず彼女はまたクスクスと笑った。
「あの子に会ってから貴方は変わったのね。
自分の為だけに生きて死んでいくのだと思っていたのに。」
あの子と少女が呟いた時、ピクリと彼の眦が僅かに動く。
そうして不機嫌さを隠さぬままに一度溜息を吐いて、
彼は口を開く。
「さっきから喧しいな。
俺が聞きたいのは出来るのか、出来ないのか。
叶えるのか、叶えないのか。
ただそれだけの話だ。
俺がどう思って動こうがアンタにゃ何の関係もねぇだろうが。」
「ふふふ、図星だからって怒らないで頂戴。
でもそうね、叶えてあげる。
だって今の貴方なら、私が邪魔をしないでも同じ人生なんて歩まなそうだもの。」
漠然とした誰かの為じゃなく、
大切に思う子の為にと思える様になった今なら。
過去に戻っても、同じ人生などきっと歩まないだろうから。
「でもあくまで私のお願いを聞いてくれるならの話しよ?
貴方が戻りたい過去に戻る時、私は何かを貴方に付け加える。」
「何が付くかはその時まで秘密だが、それ以上の干渉はしない。
アンタは見るだけ。
そうだったな?」
何度目かの確認を紡ぐ少女をしつこいと言わんばかりに睨み付け、
それでも頷いて見せれば。
少女は指先に光を灯しながら仕方ないでしょうと笑った。
「だって、私が手を加えた所為で失敗したと後で苦情を言われるのはイヤだもの。」
まぁ貴方なら大丈夫そうだけれど。
そう笑って少女はその光を相手に向かって放つ。
そうしてゆらゆらとしたその光が彼を包むのを見ながら、
子供らしい仕草で手を振って見せた。
「いってらっしゃい。
私を楽しませてね?」
外で囀る小鳥の声に彼はゆっくりと目を開ける。
そうして窓から差し込む光に、眩しそうに目を細めつつも過去に戻った事を知った。
少女に会う前までの自分の住処に窓などない。
窓があり、鳥の囀りが聞こえる様な場所に住んでいたのは、
後のも先にもあの時だけ。
懐かしい。
そんな一言で感傷をあっさりと片付ければ、
彼は首を鳴らしながら身を起こし立ち上がる。
懐かしむ為にきた訳ではない。
やるべき事をやる。
その為に戻ったのだから。
まずは現状の確認と把握が必要と思いつつ、
身支度を整える為にと彼が扉を開ければ。
今まさに扉を叩こうとしていた青年と目が合い、
彼は内心苦笑する。
今日があの日であったのかと。
そう今日は長年の友人と初めて会った日。
けれど、そんな事を知る筈もない未来の友人は自分を見た瞬間、
酷く意外そうな顔を浮べ失礼ですが、と言葉を紡ぐ。
「此方に・・・・稀代の魔法使いが住んでると聞いて伺いましたが・・・・・
貴方はお弟子さんですか?」
「・・・・・此処には俺一人だぜ?」
思った以上に若い己のその声に、彼自身内心で驚いていれば
青年はそれ以上の驚きを受けたのか困惑した表情を浮べる。
そうして、その青年の目に映る自分の姿に、彼はあぁと小さく溜息を吐いた。
声が思った以上に若いのではない。
己の姿が若いのだ。
それが少女の言っていた『何か』でる事は明確で、
なるほどと一人納得した彼は笑みを浮べる。
自分の願いの為には、知識を深める為の長い時間が必要だった。
そして知識を仕入れる為には、
ある程度名前が売れていた方が入手は楽になる。
そういった打算でこの時代に戻る事を願ったのだが、
これは嬉しい誤算だった。
後で確認しないとわからないが、今の自分は20代くらいだろうか?
一瞬だけ見た己の姿に好都合だと小さく呟いて、
彼は未だ立ち尽くす青年に声を掛ける。
「で、俺に何の用事だ?」
「・・・・・・・・まさか・・・・貴方がマトリフですか?」
噂では老齢だと言われていたはずにも拘らず、若い魔法使いの姿に
青年が信じられないと呟けば。
マトリフはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべ言い放つ。
「俺が大魔道士マトリフだ。
ちなみにこれでもお前よりも大分年上の人生の先輩だ。
年寄りは敬えよ?若造。」
to be continued
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