「容赦しない・・・・・?
小僧めが笑わせてくれるわっ!!!」


挑発的なマトリフの言葉にザボエラの眦が吊りあがる。
本来なら勇者一向を自分の手だけで葬りたかったものを、
みすみす炎魔塔に向わせたばかりか、行く手を邪魔されたのだ。
このままでは、ダイを葬ったという功績を逃すことになってしまう。

ミストバーンがいれば、炎魔塔が破壊される事はないだろう。
だが、それでは自分の手柄が少なくなる。
そう考えたザボエラは手に炎を集め、
マトリフを睨みつける。


「お前如きに拘ってる時間はないんじゃ!
一斉攻撃で塵と消えるが良いわっ!」


バチリとザボエラが指を鳴らせば、
ダイを追おうとしていた魔道士達が一斉に呪文を唱え始める。
口々に唱えられる火炎呪文がマトリフへと集中し。
もはや生きてるはずもないと勝利を確信したザボエラが炎の渦から
すぐさまダイへの攻略へと関心を切り替えた時、
クツクツと小さな笑いが聞こえる。


「・・・・なんじゃとっ?!」


聞こえる笑いは炎の渦から。
人間が耐えられるはずもないと思ったその熱量の中から聞こえる笑い声に、
慌てたままザボエラが振り返れば、
魔法の壁に囲まれ悠然としたマトリフの姿。
驚きを隠さないザボエラに、マトリフは益々笑みを深める。


「相手の実力も知らねぇくせにでかい口叩くんじゃねぇよ、三流が。」


マホカンタによって弾かれた炎は魔道士たちを一瞬にして弾き返し、
それに怯む間も与えず、マトリフは杖を翳す。


「ひっ退けっ・・・・・!」


唱える呪文は全く覚えなのないもの。
けれど、その威力を肌で感じ撤退を命じるザボエラの声に、
生き残った魔道士が撤退を始めるよりも早く。
その呪文は大地を駆け抜けた。


「ベタン!!!!!」







Even if it exceeds a time7






「・・・・・あっちは始まったみたいね。」


自身達の目指す氷魔塔とは正反対の位置から微かに聞こえた衝撃音に、
レオナは足を止めそちらへと視線を向けた。
夕闇の中直光る未だ健在の塔の、
その周囲から時折見える光は戦闘の苛烈さを物語っていて、
レオナは表情を引き締める。
そうして、ね?と隣に立つマァムの同意を求めれば、
マァムはレオナの言葉に初めて気付いたのか、
はっとした様に視線を合わせた。


「もしかして、聞いてなかった?」


そう問えば、すいませんと小さく詫びるマァムの。
何処か不自然な様子に首を横に振りつつ、
レオナはマァムを見詰める。

戦いを前に緊張している。
そう言う訳ではないだろう。
ダイの仲間として戦ってきた彼女が、
戦う事に対して明らかにわかるくらい緊張する事などまずありえない。
ならばどうしたのだろうか?

不思議そうに見詰める、そのレオナの目線に気付いたのか。
マァムは小さく苦笑して。
もう一度すいませんと呟いた。


「謝って欲しい訳じゃないのよ。
それに、その口調やめない?」

「・・・・でも、一国の姫君に対して無礼な言葉は・・・・」

「姫でもなんでも、今は一緒に戦う仲間でしょ?
なら私も貴方の事マァム様って呼ぶわよ?」


それでもいいの?と半分本気で告げるレオナの様子に、
マァムは思わず苦笑を深める。
そうして、じゃあ努力します、と告げた言葉に満足げにレオナが頷けば、
彼女は改めてマァムを見詰める。


「それで・・・・どうしたの?」


本当に短い付き合いだけれど、
此処に来る前と来た後ではあまりに様子が違うから。
そう呟くレオナの言葉に、マァムは小さく溜息を零す。
何処か躊躇いがちなその様子に、レオナが先を促せば、
マァムは漸く口を開いた。


「マトリフおじさんが前と全然違うから、少し戸惑っちゃって。」


まだ平和な時。
時折に村に訪れる彼は、
決してあんな突き放す言い方をする人ではなかった。

ぶっきらぼうだけれど、優しくて。
言葉は悪いけど、冗談を言って。
皮肉げに、時々穏やかに笑う人だったから。


「さっきの遣り取りも、マトリフおじさんの言ってる事は
正しいってわかってるんだけど。
でも、前ならもう少し優しい言い方をしたのにって思ったり、
なんでって思ったり。
戦いの前だし、今は昔とは違うんだってわかってても、
それが少し寂しいとか思って・・・・」

「マァム・・・・」

「甘い事を言ってる場合じゃないのは充分わかってるつもりなんだけど、
それでも戦いが人を変えるって本当にあるんだなぁって。
仕方ないってわかってても、
優しかったおじさんまであぁ変わると戦いって本当に嫌な事なのねって悲しくなって。
誰が悪いわけでもないのに、混乱してきちゃって。」


心配かけてごめんなさい。
そう眉を下げて呟くマァムの言葉に、
レオナはレオナは小さく息を吐く。
そうして、マァムの手を掴めば、レオナは笑みを浮べてみせる。


「マァム。それは変わったんじゃないわ。
マトリフさんは今必死なだけよ。
ううん、マトリフさんだけじゃない。
皆必死だから、そう見えるだけよ。
ダイくんが言ってたの。
洞窟で自分を怒った時、マトリフさんの手が少し震えてたって。
きっとマトリフさんもポップくんの事が心配なんだって。
だから、戦いが終わればきっと昔の様に戻るわよ。」


そう力強く告げるレオナの言葉に、マァムは僅かに押し黙り。
顔をあげればそうねと頷いてみせる。


「私もポップが逃げろって言った時、ダイの事殴っちゃったものね。」

「逃げないと全滅しちゃうって必死だったからでしょ?」


悪戯交じりにレオナがウインクして見せれば、
クスクスと笑ってマァムも頷く。
そうして、眼下に視線を向け表情を引き締める。


「本当言うと、戦いは嫌いなの。
でも、皆と一緒に生きたいから私も必死になるわ。」

「私もよ。
私も皆を守りたいから必死だわ。
闘いが終わるまでずっと。」


行きましょう。
どちらともなく呟いて。
そうして二人は再び駆け出した。






















同じ頃。
行く手を遮る幾許かの彷徨う鎧と魔道士を薙ぎ払いダイは真直ぐに炎魔塔を目指す。
背後に聞こえる攻撃の音は、僅かに気にかかるものの、
それ以上に、ダイはマトリフを信頼するにたる人物だと確信していた。
彼は強い。
そして何よりも彼はポップの身を案じていた。
ましてや、自分の指示したアバンのかつての仲間であり、
先の魔王ハドラーとも戦った彼がこんな所で負ける筈がないのだと。


ならば自分のするべき事は唯一つ。
一刻も早く塔を壊し結界を破壊する事。
そう考えダイは炎魔塔を目指し、包囲網を突破する。


「大地斬!!!!」


飛び掛るフレイムを切り裂き、ダイを漸く目前となった塔を目の前に動きを止める。
塔を周囲を守る無数の魔物。
どうする?
小さく歯噛みしダイはその魔物の群れを睨み付ける。
塔を破壊する為にもこの魔物の群れを何とかしなくてはならない。
けれど、これだけの数を殲滅するには時間が掛かるのは明白。
だが、殲滅する前に塔を破壊しようとすれば、
逆に返り討ちにあう可能性のほうが高い。


「それに塔を破壊するだけじゃないんだもんな・・・・・」


そう呟いてダイは剣を握り直す。
塔を破壊するだけではない。
それは前座でしかないのだ。
本来の目的は、塔を破壊し結界陣を壊し、
ポップを助け出す事。
それを成す前に倒れては元も子もないのだから。

例え時間が掛かろうともやるしかない。
そう呟いて前を見据えたダイがその魔物の群れに飛び込んだ瞬間。
激しい轟音と共に、砂埃が舞い散る。
咄嗟に目を庇い薄目でその轟音の元へと目を走らせれば、
見えるのは砂埃の中にそびえる影。 その影の主の姿を見ればダイは破顔し駆け寄った。


「クロコダインっ!!!」


生きてたんだね!
そう笑い抱き付くダイを受け止め、
クロコダインもまた再会を喜ぶように頷き笑って見せる。
大丈夫だと笑うその姿に安堵するも、僅かな魔物の生き残りを確認すれば、
ダイは表情を引き締めクロコダインを見る。


「知ってるかも知れないけど、ポップが捕まってるんだ。
早く助けに行かなきゃいけない。」

「知ってるさ。
悪魔の目玉が大声で喚いていたからなぁ。」


それを聞いたからこそ、この場に間に合ったのだ。
そう言葉を続けるクロコダインにそっかと相槌を返せば、
クロコダインはそうだと頷き、肩に抱きついたままのダイを降ろす。
そうして強い意志を秘めた目でダイを見据える。


「さぁダイ。
炎魔塔は俺が砕く!
お前は先に中央塔へ急ぐんだ!!」

「うん!!!」

「フレイザードをぶちのめしてやれ!!!」


to be continued


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