「ヒャドっ!!!!!」


その瞬間、レオナの掌に集められた魔力は開放され、
氷魔塔を守る様に囲むレッサーデーモンの一体に炸裂する。
悲鳴の様な咆哮を上げ、数歩後ろへと下がるレッサーデーモンに
続いてマァムの魔弾銃から放つギラが追い討ちをかける。


「まず一体。」


そうしてピクピクと動かなくなったレッサーデーモンを尻目に
二人はそう呟けば頷き合い。
そうして群れの中に駆け出す。

一体くらいで喜んでる暇は無いのだ。





Even if it exceeds a time8




「っとに!!!
数だけは多くて嫌になっちゃうっ!!!!」


額に汗を浮べながら、それでも嫌味は忘れないのかレオナが皮肉にそう叫べば。
レッサーデーモンの振り下ろす腕を避け、胴に一撃を叩き込んだマァムが小さく、苦く笑う。


「レオナ、その口調はお姫様らしくないわよ?」


尤も貴方らしいけど。
そう答えるマァムもまた肩で荒く呼吸を繰り返し、
動かなくなったレッサーデーモンを乗り越え、次へと駆け出す。

一体一体は二人で戦えば倒せない強さではない。
けれど数が多ければ、必然的に持久戦に持ち込まれる。
それは体力的に人間には圧倒的に不利な事。

ましてや此方は賢者と僧侶だ。
マァムは僧侶としての資質以外にも戦士としての資質がある分、
体力もそこそこあるかもしれないが、レオナにはそれがない。
すなわち魔力が切れれば、戦う術が無いのだ。
そしてマァムには決定打となる技が無い。
魔弾銃を駆使出来るうちは良い。
だがストックがなくなれば、残るのは打撃のみになる。
その打撃だけで敵を全滅させるには、数が多すぎる。

体力も魔力も尽きる前に、敵を大幅に減らさねば共倒れになってしまう。
そんな事はゴメンだわと内心舌打ち、レオナはマァムを呼ぶ。


「マァム、一度合流よ!!!!」

「わかったっ!!」


レオナの声にマァムは振り返らずそう答え、
対峙するレッサーデーモンの腕を蹴り、その反動で後方へと跳躍する。
そしてピタリとお互いの背を合わせれば荒い呼吸を落ち着かせる様に深く息を吸い込む。


「で、どうするの?」

「・・・・・・爆弾を使わない?」


悪戯めいた笑みを浮かべそう告げるレオナの言葉に、
驚いたマァムは一瞬だけ視線を其方へ向ける。
此処で爆弾を使えば、氷魔塔を破壊する為の手段が無くなってしまうという事だ。
幸いにして爆弾は2つあるものの、彼女の表情を見る限り使うのは1つではない。
本気で言っているの?そう問いたいマァムの気持ちがわかったのだろうか。
マァムが口を開くよりも早くレオナは肩を竦める。


「私達は、ポップくんを助ける為に此処に居るの。
助ける為には塔を倒さなければいけないけれど、
それでも、塔を倒す事に必死になって私達まで倒れたんじゃ、
ポップくんも助けられない。」


まず何よりも生き残る事。
敵を倒し生き残る事。
それこそが大前提だと、そう力強く言い切るレオナに、
マァムは一拍だけ間を置いて、そうして頷いて見せた。


「そう、ね。その通りだわ。
まず此処の敵を全滅させない事には塔も崩せないものね。
なら、まず敵を倒してそれから塔の事を考えましょう。」


どちらにしても手間取ってる時間もないのだし。
話し合いをする時間があるならば一匹でも、多くの敵を倒すのが得策というもの。
背中合わせのままに告げられたレオナの作戦にマァムが頷けば、
二人は同時に正反対の方向へと駆け出した。
二人を囲む様に円を足掻いていた敵の群れはその二人が駆け出す事により幾重にも別れ。
そうして、彼女たちが外側になる事で自然と中へと、
即ち一点に集まっていく。
その瞬間。
より動体視力の優れたマァムの声とともに二人は爆弾を投げ、
魔弾銃を、手を翳した。


「レオナっ、今よっ!!!」

「ギラッ!!!!」












「・・・・や〜な感じがしやがるな。」


中央塔の最上階。
己が作った正反対に位置する二つの塔の方向から聞こえる微かな戦闘音に、
フレイザードは小さく呟いて肩を竦める。


「炎魔塔はあっさり壊れるわ、ミストバーンの野郎はさっさと消えるわ。
なぁにやってやがるんだって感じだな、まったくよぉ。」


そう呆れた様に呟くものの、その言葉とは裏腹に、
何処か愉快そうにフレイザードはニタリと歯を剥いて笑った。
元々、自分一人で勇者一行を倒すつもりで居たものを、
手柄を独り占めされたくないハドラー達が「手助け」と言う名目で現われたのだ。
一人で勇者一行を始末する己としては、それは邪魔でしかないと。
そう内心臍を噛んでいたのだが。
どうやら天は自分の味方をしたらしい。
そう考えればフレイザードは益々愉快そうに笑みを深める。

炎魔塔は崩れ去り。
遠く聞こえる音を聞く限りでは氷魔塔もそう長くは持たないだろう。
塔が二つとも崩れれば、当然結界も消えるのだが、
正直な所消えるだろう事は、勇者一行が逃げ延びた時点で想定していた。
寧ろ、結界を解きに向う事で体力を削られ戦闘力が削がれる分だけ闘い易くなると言うもの。

相手の戦闘力を削ぐと言う意味では、他の連中に感謝して良いかもしれない。
ザボエラにおいては置き土産まで用意したのだから。

そんな風に考えて、フレイザードは己の足元に転がるザボエラの置き土産を眺め。
そしてゆっくりとソレに視線を合わせるようにしゃがみ込むと、
口角を持ち上げ嘲笑を浮かべる。


「キタねぇと言われ様が、卑怯と言われ様が。
世の中生き残ったモンの勝ちってもんだ。
甘ぇ事ばっか言う様な勇者サマに何ぞ俺様が負けるもんか。」


そう思うだろう?
小さく呟いてフレイザードはクツクツと喉を鳴らす。
そうして、立ち上がれば眼下の森を眺め、思い出した様に表情を歪めた。


「絆だとか想いなんぞ何になる。
俺は俺のやり方で俺が生きた歴史を作るだけだ。」


そんなもの、これから先も必要ない。
必要性すら感じない。
だが。

―――― 生まれたてのお前に俺らの絆はわかんねぇよ、クソガキ ――――


身を挺してまで仲間を守り、森へと消えた魔法使いの。
その言葉だけが、妙に耳に残った。














爆発により巻き上がる砂埃に眉を顰めながら、
ゆっくりとレオナは上体を起こす。
作戦自体は上手くいったものの、
その爆風は思った以上の威力で己達にも牙を剥いた様だ。

もっともそれ位の威力がなければ、
巨大な塔を破壊する事など出来はしないのだし、当たり前の事なのかもしれないが。


「それにしても威力がありすぎるわよ…」


ホント、加減を知らないわよね。
そんな風に此処には居ない爆弾の作成者に小さく愚痴を零して、
レオナは手を胸に当て回復魔法を紡ぐ。

まだ結界が機能している今、魔法は制御されているものの。
それでも完全に効かないわけではない。
柔らかな光がゆっくりではあるが体の痛みを消していく。
そうして、軽く腕を回し痛みが和らいだと判断すれば、
レオナは今度こそ立ち上がって砂埃の晴れ始めた周囲を見渡す。


そうして、塔の近くにやはり同じ様に座り、
回復魔法を己に掛けているマァムを見付ければ、
レオナは小さく笑みを浮かべ手を振りながら近付こうとした。
その、瞬間だった。


「レオナっ!!!!」


後ろッ!!
そう叫ぶマァムの声が、酷くゆっくりと聞こえた気がした。
それだけではない。
振り返る自分も。
その自分の背後に立つ生き残ったレッサーデーモンも。
レッサーデーモンが今まさに振り下ろそうとしている腕も。
それに咄嗟に反応した己の足が後ろへと動こうとするのも。

全てが、酷く緩やかに見えた。


「レオナァァァァァァッッ!!!」

「くっ!!!」


死を覚悟するのは、こんな時なのかもしれない。
それとも無自覚にも死を覚悟したからこそ、これほどに緩やかに見えるというのか。
何処か他人事の様な冷静な思考を頭の隅に持ちながら。
避けきれないと判断したレオナは頭を庇う様に両腕をクロスさせ、
迫りくる筈の衝撃に目を瞑る。
そうして暗い闇に鈍い肉を裂く音が響き渡った。

だが。

肉を裂かれた音は聞こえてもその後に続く筈の痛みは訪れず。
変わりに聞こえたのは低い唸り声と何か大きなモノの倒れる音。
一体何が起こったと言うのか。
そう訝しんで、レオナがそろりと目を開ければ。
自分の代わりに倒れたレッサーデーモンと。
その先に剣を握り佇む一人の人間の姿があった。


「貴方は・・・」


銀髪の精悍な顔立ちの青年に、一体誰なのだろうか?
少なくとも、パプニカの兵士に目の前の彼の様な、
ただ立って居るだけに見えて、
それでいて隙のない熟練さすら醸し出す戦士はいない。
正確には、かつては居たのだけれど。
自国の屈強と呼ばれた戦士達は、
誰よりも勇敢に、そして誰よりも速く。 国を民を守る為命を散らしたのだから。


「怪我はないか?」


短く簡潔に問う男の言葉に、
レオナは一つ頷き、そうして「ありがとう」と紡げば。
彼はまたもや短く「いや」と返し首を横に振る。
そんな様子に、どうにも目の前の男は寡黙なようだと。
そう内心で思っていれば、漸く此方に追い付いたマァムの声が聞こえ、
レオナは其方へと視線を向ける。


「レオナ!ヒュンケルッ!!」


無事で良かった。
荒い呼吸を落ち着かせる様に、胸に手を当てた何度か深呼吸を繰り返すマァムの。
その言葉にレオナが大丈夫だと小さな笑みを浮べれば、彼女もまた安心した様に笑み。
そして、視線をレオナの前に立つ男、ヒュンケルへと向けた。


「無事、だったのね。」


何処か泣き出しそうな、それでいて微笑むマァムの姿に。
レオナはニヤリと笑みを深める。
尤も、その笑みは全く可愛らしいものではなかったのだけれど。


「あの時、死ぬ寸前だった俺はクロコダインに助けられた。
そして諭されたよ。
生き恥を晒しても、万人にさげずまれ様とも、
己の信じる道を生きれるならそれで良いじゃないか、とな。」

「ヒュンケル・・・・・っ!
本当に無事で良かった・・・・・!」


感極まったように涙を零しマァムがヒュンケルに抱き付けば、
ヒュンケルもまた優しくその手で背中をあやす様に撫でる。
そんな感動の再会の様子にレオナはコソリと嘆息する。

彼が誰なのかはわからない。
けれど、マァムの様子から見れば敵ではなく。
仲間だと言う事なのだろう。
ならば警戒する必要はない。
疑う必要もない。

彼の持つ剣を。
戦場、で見た気がしても。


気のせいね。
内心でそう呟いてレオナは咳払いを一つしてみせる。
再会を邪魔する気はないのだけれど、
今は時間が限られているのだから。


「そろそろ、良いかしら?」


少しだけ悪戯にそう笑いながら問い掛ければ。
ヒュンケルから離れたマァムはレオナに向き直る。
そうしてヒュンケルを紹介しようとした所で、それはヒュンケル自身によって留められた。


「今は、のんびりと自己紹介をしている場合ではない。
そうだろう?」


名乗るならば後で、とそう告げるヒュンケルは、
同意する二人に背を向け未だ健在の塔へと視線を向ける。


「この塔は俺が壊そう。
残党も引き受ける。
マァム達は先に行くといい。
ダイも直ぐに追い付くはずだ。」


悪魔の目玉を介してフレイザードが告げた事が真実であるのならば。
ポップの怪我は相当酷いものになるはず。
その時必要なのは回復魔法の使い手なのだから。
そうして、既にクロコダインがダイの元へと向ってる以上、
ダイの到着もそう遅くはない筈。

そう告げるヒュンケルにレオナとマァムは表情を引き締め再度頷いてみせる。
そうして。
俺も直ぐに追い付くと、そう告げるヒュンケルから踵を返し二人は走り出す。

目指す、中央塔へと。

to be continued


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