怒られる覚悟を決めて、
長椅子に腰掛けて本を読む彼の前に不安交じりに姿を現せば、
面倒臭そうに振り向いた彼の動きが止まる。
長い沈黙に覚悟を決めて、
ぎゅっと目を閉じその時を待つ。
だが、何時まで経っても怒声が聞える事はなく。
そろそろと目を開ければ、見えるのは肩を震わす師の姿。
「・・・・・師匠?」
笑っているのだと分かるその様子に、
少しの安堵を覚えながらおずおずとポップが声を掛ければ、
未だ肩を揺らしたまま
マトリフは苦笑と共に言葉を紡いだ。
「・・・・・・・・くくっ・・・・・馬鹿な奴。」
「大きなお世話だよ・・・・・・」
あまりと言えばあまりに簡潔なその言葉に、馬鹿はヒドイだろうと呟くその声は
少し低めだが確かに女の声で。
改めて自分の身に起こった事実にポップは盛大に溜息を尽いた。
そう、自分の体は今女なのだ。
失敗した魔法で何らかの影響が現れるのは覚悟していたものの、
まさか性別が変わるとは思いもよらなかった。
細胞を活性化させる筈だった呪文で
どうやったら性別が変化すると言うのか。
未だ笑い続けるマトリフにそこまで笑うなと思いつつ、
鏡に映った自分を見てポップはがくりと肩を落とす。
女になっても然程変わらない顔なのがまた悲しい。
元々母親似だとは自分でも思っていたけれど、
これほど違和感がないとは思わなかった。
けれど、一回り小さくなった背丈や、
丸みを帯びた体。
簡易な部屋着を着ていても分かる胸の膨らみは正しく女性のもので。
笑われるのはイヤだが笑いたい気持ちも分かると、
そんな風に呟きながら、ポップはマトリフの隣に腰掛けた。
「・・・・師匠笑いすぎ・・・・・」
怒られなかっただけマシだけどさ。
マトリフに寄り掛かり小さくそう言えば。
やっと笑いを収めたマトリフは持っていた本を閉じ、
それで軽くポップの頭を小突く。
その仕草にうっと抗議の言葉を喉に詰まらせ、ポップは視線を逸らす。
「何だよ?」
「・・・・何でもない。」
変な奴だなと苦笑を洩らすマトリフの姿は何時もと全然変わらなくて。
それが安心したなんて言わない。
怒られる事より、
呆れられる事より、
女の姿の方が良いと。
そう言われる事が何よりも不安だったなんて。
だから何時もと変わらない態度に安心したなんて。
絶対に言いたくない。
我ながら女々しいなと彼から視線を逸らしたまま苦く笑えば、
マトリフは訝しげな視線を向ける。
それがまた普段と変わらないものだから、
込み上げてくる感情を抑えられない。
未だ訝しげな視線を送るマトリフの肩に頭を預けて、
ポップはポツリと言葉を紡ぐ。
「もし元に戻らなかったら、
師匠はどうする?」
元に戻る方法がなくて。
このまま女の姿のままだったら。
俺達の関係は変わりますか?
今は師弟で恋人だけれど、
それは終りになりますか?
彼の返答が自分の望むものだと確信しているけれど、
それでも言葉で聞きたいから。
普段なら矜持が邪魔をして絶対に聞けない事。
それが聞けるのは今の自分が女だからだろうか。
ただ静かに彼の返答を待てばやがて小さな溜息が聞え、
呆れたかとちらりと視線を合わせれば、
マトリフは苦く笑うのが見えた。
「・・・ったく、我侭な奴だな。」
分かりきっている答えを聞いてどうする。
揶揄する様にそう言いながらも抱き締めてくれる腕は優しい。
そうして次に耳に届く言葉に、
ポップはただ笑った。
「男でも女でもちゃんと責任取ってやるさ。」
少しだけ照れ臭そうな姿に笑みを堪えながら。
こんな事が聞けるなら、
たまには女の体も悪くない。
そんな風に思いポップは目を閉じた。
END
・・・・た・・・・・・・大変遅くなりました・・・・・・(滝汗)
お礼ssマトポプ編漸くUPでございます。
甘いをコンセプトに頑張って書いたのですが、
どうでしょう・・・・・?
甘いですかね?(おどおど)
本当、お礼なのに趣味に突っ走りまくって、
尚且つ乙女ポップで申し訳ないです〜〜〜〜::
元々一度は書きたかったネタなので私だけが大満足!
なんてアポなものですいません;;
こんなアホで良ければどうぞこれからも見てやってください!!
10000Hit感謝です!!!
ありがとうございました!!!!(礼)
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