失敗した。
そうマトリフは小さく呟いた。
その顔は、昔馴染みが見たら酷く驚くであろう位、
若い今の見た目に相応な。
言い換えれば、普段ならば決して見せる事のない後悔の浮かんだ顔だった。
もう少し自分は大人だったはずだと。
持て余し気味の感情を押させる事ぐらいは出来たはずなのにと。
ただそれだけが頭の中を支配する。
ポップに好きな人は居ないのかと聞かれたあの時。
何故自分はそれを伝えたのか。
ただ、咄嗟に。
もしかしたらそれが一番適した言葉なのかもしれない。
たとえ冗談を交えていても。
本当なら伝えるつもりなどなのにそれは言葉になってしまったのだから。
その言葉を伝えてからも。
見た目には大きな変化はなかった。
そう。大きな変化は。
けれど、確実に違う何かもあるのだ。
それは些細といえばあまりに些細な事かもしれない。
だがその些細な距離が、二人の間に出来た溝だと言う事を
マトリフは理解していた。
理解していたからこそ、苛立ち、後悔する。
「くそっ!!」
その憤りと隠さないまま、拳を強く机に叩き付ければ。
静寂な部屋にその音だけが響き渡り、益々苛立ちを覚えさせた。
「いやぁ、中々青春してますねぇ。」
「・・・アバンか。」
「勝手にお邪魔してますよ。」
「迷惑だ。帰れ。」
「相変わらず人嫌いなんですねぇ。」
一見人好きのする笑顔を浮かべ、当然の様に現れたアバンに、
マトリフは直ぐに思考を引き戻し、勤めて冷静を装って見せた。
長い付き合いである程度の理解はあるが、どうしてこの男はこうも神出鬼没なのか。
今や数少ない友人となったこの旧知の仲は、人の窮地には良い悪いに関わらず現れる。
今更怒鳴るほどの事ではない。
が、かと言ってこのまま何事も無かったかの様に答えるのも随分と癪なものもある。
そう思って冷たくあしらっても、まったく効果の無い友人にマトリフは眉間に皺を寄せ問いかけた。
「一体何しに来た?」
勝手知ったる何とやら。
当然の様にお茶の支度を始めるアバンに、マトリフは米神が引き攣るのが自分でも良く分かった。
一体何をしに来たと聞けば確固たる返事も無く、
都合などお構いなしにお茶の支度を始めるのだからそれは当然の事で。
いっそこのまま外に蹴り出しても何の問題も無い。
むしろ許されるだろうなと、そんな事すら考えながらマトリフは溜息を尽いた。
「・・・で。何しに来たんだ、お前は。」
暖かな湯気を伴ってアバンが座るのを確認すると、
いい加減待ち草臥れた様子でマトリフは同じ質問を繰り返した。
だが当のアバンは、用事が無いなら帰れと言わんばかりの
素気ない態度を別段気にした風も無く、キョロキョロと部屋を見回している。
「いやぁ、久しぶりに来ましたが随分綺麗になってますねぇ。
前に来た時は生活するのに必要最低限なものしかなかったのに。」
「大きなお世話だ。」
「あぁ、でも本は増えましたね。」
あの子は意外と綺麗好きですからねと笑うアバンに、
ピクリと眉が攣り上がる。
益々酷くなったマトリフの不機嫌さにやれやれと苦笑し口を開いた。
「実はですね。私もダイ君の捜索に出ようと思ってるんですよ。」
「・・・ほぅ。」
「前から考えてたんです。
もう少しパプニカが落ち着いたらそうしようと。」
先程とは違った真剣な眼差しでそう決意を伝えるアバンに、
マトリフも真剣に応じる。
「で、俺の所に来たってのは何か問題でも?」
「えぇ。大事な話が。」
遺跡関係ならお前の方が詳しいはずだと言えば。
アバンはゆっくりと首を横に振り、そうしてマトリフを見据えそれを伝えた。
「ポップを連れて行きたいんです。」
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お・・・思った以上に長いんで2話に分けます(汗)
つーかアバン先生火種投下!?
師匠も驚きです。
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