「おそらく明日も雨だろうな。」
ポップの呟きに、ヒュンケルはソファーに腰掛けたまま答える。
窓越しに見えるのは相変わらず本を読んだまま、自分を見ようともしない姿で。
「…あっそ。」
二人同時に体が空く事など本当に稀だと言うのに。
いつもと全然変わらぬ態度に、浮かれていた自分が馬鹿みたいに見えて。
不機嫌な表情をそのままに、ポップは言葉を吐き捨てた。


別にどうしても外に行きたい訳ではない。
部屋の中でもいいのだ。
滅多にない二人だけの時間を過ごす事が出来るなら。
決して有名ではない小さな村にわざわざ来たのは、
ここならば誰も訪ねて来ないだろうと思ったから。
来客が嫌な訳ではないけれど、
珍しく重なった休みを二人だけで過したかったから。


それだと言うのに。
この鈍感な恋人は宿に着いた早々から黙々と本を読み耽っているのだ。
最初の一日は、色々忙しかったのだし偶には読書も良いだろうと思ったけれど。
流石に連日読書に勤しまれては、いい加減腹も立つ。
これでは喜んでいた自分が馬鹿みたいではないか。



こんな事なら、我が家に居た方が数百倍マシだったと
この数日ですっかりお馴染みになった溜息を落とす。
「来るんじゃなかった。」
家でのんびり本でも読んで。
レオナやダイの所に顔を出して。
そうやって何時もの様に過していれば、少なくともこんなに寂しい気持ちにはならなかったのに。
「ヒュンケルのばーか。」
どうせ本に夢中で聞こえてないんだろうけど。



「ポップ。馬鹿はないだろう。」
「…聞こえてたんだ。」
聞こえてた所で謝る気は更々ないからと、視線すら合わせず。
ポップは言葉を紡いだ。
「鈍感。」
「ポップ?」
「人の気持ちもわかんねぇで本ばっか読んでやがって。」
「…俺はお前の機嫌を損ねる様な事をしたか?」
「うん。物凄くな。」



溜息と本を閉じる音が背後で聞こえる。
もしかして怒って部屋を出て行くのかもしれないと思ったが、
自分が悪いとは思えないから振り向く事もしたくないと。
半ば意地の様に雨を見続けた。
気まずい沈黙はどうしてこんなに時間が流れるのが遅く感じるのだろう。
そんな事を考えながら、だたひたすらヒュンケルが出て行くのを待っていた。
だが、予想に反して彼が出て行く事はなく。
代わりに少し躊躇いがちに言葉が紡がれた。
「…お前がここに来た時に、言った言葉を覚えてるか?」



滅多にない休みなんだ。
ここなら誰にも邪魔されないでゆっくり出来るだろ。
のんびり体を休めようぜ。


確かその様な事を言ったはずだと言うヒュンケルに、何を言い出すのかと憮然としながら頷く。
「…俺は時間の許す限りお前と話したいし、触れたいと思っている。
だが、お前がゆっくりしたいと言うなら邪魔をするのもどうかと思ってたんだが…」
「ちょっと待て。」
「なるべく邪魔をしない様にと思ってたんだが。
何か不快にさせたみたいだな。すまなかった。」
「だから待て。」



すると何か?
自分がのんびりしたいと言ったからこの鈍感な恋人は
自分が邪魔をしないようにと本を読んでいたと。
そう言っているのか?
あまりと言えばあまりに鈍感すぎる。




「…本当に…鈍感だよなぁ。あんたって。」
呆れた様に苦笑を漏らし、ポップはヒュンケルの上に座る。
「あのさ。俺は二人でのんびりしたかったんだけど?」
両手を首に回し悪戯に顔を覗き込めば、戸惑いがちに抱きしめられた。
「一人でのんびりしたかったら、一人で出掛けてるぜ?
俺は、あんたとゆっくりしたかったんだ。」
こういう事も含めてなと、唇にそっと触れれば。
やっと得心が言ったとヒュンケルも柔らかく笑う。
「それはすまなかった。」
「本当にな。」



くすくすと笑うポップを今度は戸惑う事無く抱締め直し、
ヒュンケルはポップの頬に口付ける。
「鈍感。」
「すまない。」
「埋め合わせは?」


未だ笑ったままの恋人に甘い口付けを落としながら、
ヒュンケルはそっと囁いた。


「これからたっぷりと。」



END



ヒュンケル兄さん、鈍い!鈍すぎるよ!!
そして乙女だよポップ…Orz
ヒュンポプは好きだけど中々上手くお話がまとまりません(駄目な私;)
と、言いますか…
死ネタとか悲恋とか切ないのばっか浮かびやがる(泣)
(駄目な女だなオイ)
何とか甘くなりましたでしょうか?


少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
読んで頂きありがとうございました。
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