それはもう一つの未来



Another future〜前編〜






バーンパレスが落ちた。
ヒムの懇親のグランドクロスによって、無事脱出を果たしたポップ達は
ただその崩れ落ちる城と、そして空を見続けていた。
あの空の果てでダイはまだ戦っているのだから。


「・・・・・ダイは無事よね・・・・?
帰ってくるわよね?」


マァムの、まるで自分に言い聞かせる様な独り言に誰しも頷き。
口々に当たり前だと応じる中。
ただポップだけが、小さく、誰にも知られずに息を詰めた。


-----あれは何だ?------


空を見上げダイの帰還を待ちわびる仲間達から、ほんの少し外れた処で、
その仲間達を見守る様に眺める淡い人の形を発光体。
ソレはポップを見ると少しだけ止まり、
そうして仲間から離れた場所を指差した。


-----あそこに行けって事か?------


不思議と恐怖は感じなかった。
もしかしたら大魔王と対峙した直後で恐怖感が麻痺しているだけかもしれないが。
アレが何なのだかわからない。
けれど殺気も感じない以上、何かしらの意味を伝えようとしているのだと。
そう理解したポップはそっと仲間達から離れ、
その発光体の指差す場所へと歩き出した。






「・・・・・・・・で、お前は何なんだ。」


指定された場所に赴き、ソレが目の前に現れた瞬間。
ポップは腰に手を当てそう言葉を紡ぐ。
今はまだダイが戦っている。
そんな中で長話をするつもりはないのだ。
用件があるなら早くしろ、そう言わんばかりのポップの姿に
淡い発光体は少し苦笑してその姿を表す。
ゆるゆると人の形をしたソレが姿を現し、その姿がはっきりした時。
今度こそポップは言葉を失った。


その姿は、
間違いなく己だったのだから。


いや、今の自分ではないのかもしれない。
目の前の「ポップ」は今の自分よりも少しだが背が高い。
髪も今より長いし、その身に纏う服も知らないものだ。
けれど、その「ポップ」は間違いなく自分だとポップは確信した。

そう、アレは未来の自分。



『よう、過去の俺。』

「・・・・・・・・・・・・・すげぇ信じたくねぇんだけどさ。
やっぱしアンタは未来の俺なワケ?」

想像と言うか確信はしてたけど。とそう笑うポップに
「ポップ」は少しだけ苦笑して、そうして静かに口を開いた。


『・・・・・・・ごめんな?』


何が?と問うより早く「ポップ」はポップに手を伸ばす。
そうしてその頬に触れ、もう一度ゴメンと呟いた。


『俺が此処に来るのはすげぇ反則なんだ。禁呪なんて可愛いもんじゃねぇ。
過去の自分に未来を伝えるんだから。
でも、それでも俺はどうしても伝えたかったんだ。』

「・・・お前一体何を言いたいんだよ?未来って何の話だよ?」

『この戦いの結末を変える為の話だ。』


何故なら・・・・・この戦いでダイは死ぬから。


歪められた表情でソレを搾り出せば、
ポップは何度目かわからない眩暈を感じ膝を折った。


「嘘だろ・・・・・?」

『本当の事だ。』

「何でだよ!!!バーンとの戦いに敗れるってのかよ!?
ダイがっ!ダイが負けるのかよっ?!」

『違う。バーンには負けない。ダイは勝つ。
でもダイは・・・・・。』


嘘だと何度も繰り返すポップから「ポップ」は視線を外し、
空を見上げる。
まだバーンとの戦いに決着はついていない。
でも、もう直ぐ決着がつく。
それまでに。
話をしなければ。


『時間がないんだ。ダイを生かす為に話を聞いてくれるか?
多分、お前には酷でキツイ決断をさせる話だけど。』


ゆるゆると面を上げ、それでも何か手があるならと、
そう縋る様な眼で己を見るポップに「ポップ」はソレを語り始めた。
僅かな罪悪感を胸に残しながら。


「キルバーンの野郎がな、生きてるんだ。
そして黒の結晶を爆発させようとした。それを止める為に俺とダイは空に上がり・・・・・
そんであの大馬鹿野郎は・・・俺だけを蹴り落としやがったっ!』


あの時ほど、絶望を感じた事などない。
それでも、後にロン・ベルクからダイの剣の話を聞き。
生きてるのだと、場所は違えど生きて。
そしていつか戻ってくるのだと。
そう信じた時もあった。

けれど。
ダイの剣の輝きは消えた。
たった一年で。


ダイの剣にダイの力が残っていたから、ただソレが光っていただけなのかも。
それとも。何処か別の場所で一年生きていたのかも。
何一つ定かではないのだけれど。
それでも、
その光が消えた事は明白で。
そうして一つの事を指していたのだ。

ダイの死を。

あの時の魂が壊れる様な痛みは、もう感じたくない。
誰よりも平和を享受するべきアイツが死ぬのは許さない。
それだけの思いで、
願いで。
「ポップ」はこの術を完成させたのだ。
過去へと精神を戻らせる、時空回帰の術を。




「ポップ」の口から語られる未来に、ポップが膝を突いたまま嗚咽を漏らした時。
もう一度「ポップ」はゴメンなと謝罪の言葉を紡ぐ。

知らなければ。
たとえ一年という時間だけでも希望を持てた。
未来を信じれたのに。

けれど
話はコレだけではない。
ただでさえ、今の話でショックを受けている過去の自分に、
それでももう一つの事実を伝える事に。
少しだけ罪悪感を感じながら。

「ポップ」はそれを紡いだ。


『俺は過去を変えたかった。その為には何だってしたし、
その為の手段をずっと探し続けた。
本当はさ、お前にも逢わないでキルバーンを始末出来たらそれでいいって思ったんだ。
多分ソレが一番最良の結果だから。
でも駄目なんだ。キルバーンを見つける事は出来ない。
多分あいつはどっかの空間に今は紛れてて見つけられない。
それに俺には肉体がないから。
・・・・・・・・お前に手伝って貰うしかない。』

「何を・・・・・すればいい?
俺は何をすればいいっ?!ダイを死なせない為に俺は何が出来る?!
俺はダイを死なせない為ならなんでもする!!」

『自分が死ぬ事になってもか?』

「っ?!」

『・・・・・隠さなくていいよ。お前今も胸とか痛いだろ?
体中が悲鳴あげてるだろ?自分の過去だからな。俺もよく知ってる。
ずっと戦ってきたからさ、俺たちの身体はもう限界なんだよな。』

「・・・・・・・・さすが未来の俺。わかってて当たり前か。」

『それでな、多分キルバーンを止める為に今力を使えば・・・・』


わかるだろう?と眉を下げ自分を見る「ポップ」に
ポップは一つ頷いた。

決戦の前から身体中は鈍い痛みを訴えていた。
恐らく大魔法を駆使してきた反動なのだろうと、
そしてこのまま使い続ければ遠からず訪れるだろう未来も、
理解はしていた。

けれどこの戦いが終われば、
もう戦いはないからと。
未来を楽観視していたのもまた事実だったのだけれど。


そうして改めて、ポップは目の前に立つ未来の自分を眺めた。


「アンタは今いくつ?」

『18歳だったよ。』


その問いに過去形で答えたのは、
きっともう「ポップ」がこの世の者ではないからなのだろう。
このまま戦いが終わっても、自分は18で死ぬのだ。








「ま、仕方ねぇか。」


ほんの僅かの沈黙の後、ポップは立ち上がり小さく溜息を零す。
これからの3年に少しだけ興味はあるけれど。
ダイがいないのなら別に見なくても良い。
きっと色褪せた空虚な3年なのだから。


『3年、お前から奪う事になるな。』

「いいさ、別に。
で、俺は何をすればいい?」

『その時が来たら俺が手伝うからキルバーンを倒す。それだけさ。」


単純ねと揶揄する様に笑うポップに「ポップ」は苦笑して。
そうして再び空を見上げた。

空が光る。

あの閃光はダイがバーンを倒したものだ。
もう直ぐ、ダイが戻ってくる。
そして・・・・・・・・


「・・・・・いこう。」


静かに呟いたポップに「ポップ」もまた頷いた。


最後の戦いが始まる。





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