「少々お待ちを、女王様。
ボクにも一声、祝福の言葉を言わせて下さいよ・・・・」

呟かれたその言葉に誰しもが驚きと驚愕の表情を隠さない中。
二人は、
静かにその時を覚悟した。



Another future〜中編〜




『魔力は心配すんな、俺のを分ける。』

「指示は任せた。」

了解と小さく笑う「ポップ」の声を聞きながら、
ポップは静かに息を整える。



人形の仮面が外され黒の結晶が露わになり、誰もが息を呑む中。
ソレはピロロの、否、キルバーンの前に現われた。


「皆どけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」

「ポップ?!!」

「なにいっ?!!」


一瞬の出来事に咄嗟にキルバーンが身を捩る。
誰しもが己の突然の出現に驚く中、一体誰が何をしたと言うのか。
人形から身体を離し、地面に着地すれば。
キルバーンはその出来事に息を呑む。
己の居た場所には、巨大な氷の塊が存在していたのだから。


「なんだとっ!?魔界のマグマが氷系呪文で止まるもんかっ!!!」


魔界のマグマをエネルギー源にしているその人形を
たかだか人間の放つ氷系呪文で止められるわけもない。
一体何をしたと弾かれた様にポップに視線向け、そこでキルバーンは驚愕する。
ポップの放った術は未だ発動状態を保ち、
その背後に現われていたからだ。


「こ・・・・氷の女王っ?!何故!!」


それは古代の精霊召還呪文。
魔族や神ならばいざ知らず、人間如きが知っている筈もなければ、
それを制御し扱う事など出来るものではない。
出来る筈なのないのだ。
それだと言うのに、何故目の前でそれが扱われているのか。


「流石に・・・・っ!精霊呪文だったら魔界のマグマくらい止められんだな・・・・」


まぁソレも時間の問題だけど。と短く呟けばポップはそのまま次の呪文を唱え始める。
事実、キルバーンと呼ばれた人形を覆う氷は、
ゆるゆると雫を滴らせ地面に水溜りを作り始めてる。

そして、身体中を巡る痛みも。


『長くは俺も制御出来ないっ・・・・・!』

「わかった。」


背後から聞こえる声に一つ頷けばポップは次の行動を移す為、
その呪文を唱えた。


「ベホマズンっ!!!」

「何?!」


再び驚愕の声を上げるのは何もキルバーンだけではない。
仲間達からもその他の追従を許さない絶大な魔力に言葉を失う。


「な、なんでポップくんがこの呪文をっ?!」

「回復系最大広範囲呪文・・・・・・この呪文を使える者がいるなんて・・・・・」


あれは繊細な制御力と大きな魔力を必要とする為、
使える者はなく既に伝説となったはずの呪文のはず。

賢者の卵であるレオナと、
破邪の洞窟を所持する国の統治者であるフローラが口を揃え、有得ないと声を盛らす。


「キ、キミは一体何者なんだっ?!・・・・・出来る筈がない!
人間がこんな呪文を扱えるはずがないっ!!!」

拳を握りわなわなと怒りに身を震わせキルバーンは叫ぶ。
黒の結晶を作動させ、さっさと魔界へと戻るはずだったのに。
何故こんな有得ない事が起きるのか。
苛立たしげにポップを睨み付け、そこで初めてキルバーンは気付く。
その気配が一つではない事に。


「・・・・・・・は・・・・ハハハハハハハハっ!!!
そうか!そう言う事か!!キミはキミ一人じゃないのか!!!」


漸く合点が言ったとキルバーンはその口角を持ち上げニヤリ笑う。


「可笑しいと思ったんだ!
それだけ大魔法を使えるなら何でバーンと戦う時使わなかったのか。
キミの背後にいるのはダレだい?!
その魔力を与えてるのは!!」

「・・・・・・俺だよ。」


未来のだけどと内心で言葉を続ければ、ポップは再び呪文を唱え始める。
身体中が痛い。
魔力を込めれば込めるほど、その痛みは内側からじわりじわりと広がり始める。
精霊召還魔法も、
広範囲回復魔法も。
大魔法を使い続けた自分には限りない負担が掛かる。
そして、それを制御する「ポップ」にも。

もう時間がない。

込み上げる嘔吐感に唇を噛締め、
ポップは懇親の力でそれを叫んだ。


「ダイっ!!!!キルバーンの始末は任せたっ!!!!」


瞬間、弾かれた様にダイが駆け出した。
そして仲間達も。


ハッとした様に空間に逃げようとするキルバーンの頬にマァムの一撃が決まる。
バランスを崩しよろめくキルバーンにダイの距離が追い付き、
そして。


「ダイ!!この剣をっ!!」


アバンの投げた剣を一瞥してその剣を受け取れば。
ダイの一閃が炸裂する。


「アバンストラッシュ!!!!!!!!」


閃光と爆発。
衝撃の煙に眼を凝らせば。
そこには崩れる様に倒れこむキルバーンと剣を携えるダイの姿。


「・・・・・・・・くそっ・・・・・・・人間なんかに・・・・・してやられるなんて・・・・・・」


血飛沫と吐血と共にキルバーンは忌々しげにダイとポップ睨み付ける。
そうして、口の端を吊り上げ嘲笑した。


「それでも・・・・・・それでも世界は終わる事に変わりないっ!
ボクが滅びてもソコの人形は無くならないからね!!!
魔界のマグマはいずれその氷を溶かす。永遠にその呪文を発動出来る訳じゃないんだから!!
愉しみだよ!キミ達がソレをどうするかが!!」


ボロボロと崩れいく身体を支え、そうして更にキルバーンはポップ一人に視線を移し。
嘲る様に笑みを深める。


「知っていたのかい?
それだけの大魔法がキミの身体にどれだけの影響を与えるか。
ボクは知ってるよ!キミがもう殆ど寿命がない事を!!
背後の何者かの魔力だけじゃ足りない分をキミは生命力で補ってたんだ!
元々残り少ない生命力をね!!!!」

「なっ?!!!」

「嘘だっ!!」

「・・・・・残念だよ・・・・・キミの死ぬ姿を見れないのが。
一番残念だ・・・・・・」


口々に驚愕の言葉を漏らす仲間を他所に、キルバーンはただ一人を見詰め。
そうして、今度こそ崩れ落ち絶命した。


「・・・・・・・・・お前にだけは見せねぇよ・・・・・・」


さらさらと砂の様に風に消えるその姿にポツリと言葉を残して。
そうして、ポップはゆっくりと精霊召還を解いた。
もう、精霊を使い人形を凍らせ続ける必要はない。
氷が解け切る前に、唱え終えた術を発動すれば良いのだから。


『・・・・・お疲れ。』

「あんたもな・・・・・」


先程よりもずっと薄くなった「ポップ」にポップは小さく苦笑して。
そうして、ゆっくりと振り返る。
キルバーンの残した言葉に、言葉を失う仲間の方へと。








「・・・・・・・・嘘だろ?・・・・・ポップ・・・・・・・・」


ポツンとダイが言葉を紡げば。
ポップは笑って首を横に振る。

そうして、左胸に手を乗せて。
静かに笑った。


「ここがな、もう駄目なんだよ。元々が貧弱なガキだったからさ。
大魔法に耐えれなかったんだ。」


寿命って奴だ。
そう小さく呟いて、ポップは泣き崩れるダイに近寄りその肩を叩く。


初めてデルムリン島で逢った時、お前がこんなに大切になるなんて思わなかった。
勇者に憧れるただの子供だと思ってた。
それが、こんなに大切で。
一生隣にいたいと願う相棒になるなんて。


「泣くな。」
『泣かないでくれ・・・・・・』


情けないぞ?
そう笑ってダイの頬に触れる。


「俺は満足してんだ。」
『今度こそお前を救えたから。』


そうして零れるままの涙を拭ってやれば、
ダイは堪らずポップに縋り付いた。


「イヤだ!!!イヤだよっ!!!
何でお別れみたいな事言うんだよ!
まだポップは生きてるじゃないかっ!!
世界は平和になったんだ!
このまま何もしないでゆっくりしてれば、まだ生きてられる筈だろ?!」

「じゃあ、あの人形はどうする?
わかってるだろ?あのままじゃいずれ氷は解けて、
黒の結晶は爆発する。
そしたら、世界は終わりだ。」


誰かが、やらなきゃいけない事なんだ。
そしてそれを出来るのは俺だけだから。

静かにそれを紡げば、ポップはそっと呪文を唱えた。


「アストロン。」

「っ!!ヤだ!!!嫌だよ、ポップ!!!!!」


徐々に硬化していく身体に悲鳴じみた唸りを上げるダイにポップは小さく微笑む。


「・・・・・いつかの・・・・私みたいな事をするんですね、貴方は。」


涙を堪える様な僅かに震えた声に、そうですねと笑みを浮べたままポップは振り返る。
そこには、今まで言葉を紡ぐ事のなかった仲間達の姿。
驚きだけではなく、ダイと話し終えるのをきっとこの仲間達は待っていてくれた。
そうわかるから、ポップは益々その笑みを深めた。


「先生の弟子ですから。」

「えぇ・・・・・・・本当に自慢で、大切な弟子です・・・・・」


なのにとアバンが言葉途切れ俯く。
止める事は出来ないとわかっているのだ。
その愛弟子の決意を込めた眼を見た時から。


「お前は・・・・・っ。どうなるかわかっていて戦っていたと言うのかっ?!」

「お前だって。きっとそうしただろ?」


いつだって無茶をするのはアンタの専売特許なんだから。
そう苦笑を零せばヒュンケルもまた言葉途切れる。
掛ける言葉が見付からないのだ。


『・・・・・そろそろ時間切れだ・・・・・・・・・・・』


突然宙から聞こえるその声に、誰もがその姿を探す。
そしてよく目を凝らした先には、
宙に浮く、もう一人の「ポップ」の姿。


「あれは・・・・・・・ポップ?!」


そう呟いたのは誰だったか。
今目の前にいるポップではない「ポップ」の姿に誰もが眼を奪われれば。
「ポップ」もまた苦笑を零した。


『久しぶり・・・・になるのかな?
意識残してるのもそろそろ限界だから、質問はなしにしてくれよ?』


彼らしい物言いにやはり誰もが彼もまた「ポップ」なのだと確信するけれど。
それでも疑問は尽きない。
今とは違う少しだけ大人びた姿に。
そして今にも消えそうな姿に。
それを感じた「ポップ」はクスリと笑みを浮べた。


『質問も苦情も、あの世で受け付けるからさ。
そろそろ離れてくれるかい?』


未来を歪めた自分が、あの世にいるかはわからないけど。
そう内心で揶揄して「ポップ」はポップを見詰める。


『もう、時間だ。』

「わかってる。」


もう人形を閉じ込めた氷は解ける。
そして自分の意識もそろそろ限界だから。
「ポップ」はもう一度だけダイを見詰め。
ポップの中に消える。
最後までポップにごめんと呟いて。





「さぁ・・・・・・もう離れてくれ。」


そこだと巻き込むかもしれないから。
静かに呟いて。
ポップは仲間を見渡した。
お別れの挨拶ってのはするもんじゃないなと、
仲間の顔に罪悪感を覚えながら。


もう「ポップ」の意識はないけれど。
やるべき事はわかってる。
その為の呪文も詠唱は終わり、後は発動するだけ。


己と共に。
黒の結晶全てを時空の狭間に連れて行くだけ。

世界中に散らばった黒の結晶も、
この呪文を発動すれば時空の狭間に消える様に設定したと「ポップ」は言っていた。
全く抜かりがない奴。とポップは小さく嘆息する。
自分も後3年生きていたら、そうなっていたのだろうかと思いながら。

ごめんな?
そう最後まで言っていた未来の自分を思い出してポップは薄く笑った。


未練はある。
それでも。
精一杯生きて力を尽くした結果なのだから。



後悔なんて、ない。





仲間と、

そして。

たった一人の親友を見て。



満足そうに、そして柔らかく微笑んで。
ポップは唱え終えた術を発動した。


「ポップ---------------------------------っっ!!!!!!!!!!!!」







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