さわりと風が頬を撫でて、
誰かが呼んだ気がした。
酷く懐かしい声で。
Another future〜後編〜
懐かしい、けれど見慣れないその風景に。
ポップはゆっくりと眼を開け身体を起こした。
「・・・・・・・・・ここは・・・・・・?」
己の手を、そして身体を少し捻って姿を確認して、
ポップは酷く不思議そうに眉を潜める。
時空の狭間へと道を開き、全ての黒の結晶を確認した後。
人形の爆発が起きた。
爆発に巻き込まれ、最後まで爆発を確認は出来なかったけれど、
その大爆発は黒の結晶全てを有爆させた筈だ。
ならば自分が生きてる筈はないのに。
以前通った死者への道とは違う風景に、
ポップはただ只管に訝しむ。
空も風も海もあるこの場所が天国と言うヤツなのだろうか・・・・?
「いや、その前に俺が天国なんか行けるのか?」
自然の摂理を壊し。時空まで歪めた自分が。
果たして天の門を潜り天国などにいけると言うのか。
暫し沈黙し、やはりどう考えても無理だろとポップは一人呟き。
そうして立ち上がった。
まぁ別に何処でも良い。
ダイを救えた結果には満足しているのだから。
ダイが死んだと知った時の、
あの絶望を味あわずにすんだのだから。
そう考えて、ポップは再び動きを止める。
「俺は・・・・・・どっちの俺だ?」
未来から来た自分を知っている。
けれど、
もう一つの未来も自分は知ってる。
過去に戻る為に、その方法を探した事も
何をしたのかも。
「上手く融合したのかねぇ・・・・・」
まぁ元が自分なのだし。
失敗も何もないのだけれど。
まぁいいかと呟いて、今度こそポップは何の憂いもなく欠伸をする。
此処がどんな場所でも。
自分が何者でも。
全てもう終わった事だ。
唯一つの結果に満足してるのだからそれでいい。
時折吹く風に目を細め、そう笑った時。
声が聞こえた。
『ポップ。』
突然背後から掛けられた声に、別段驚くでもなく振り返れば。
見覚えのない少年に少しばかり首を捻る。
全く見覚えのない、けれど何処か懐かしい眼をした少年。
過去にあった憶えもない。
けれど知ってる。
「・・・・・・・誰?」
まったく動じる事無く誰?と問う姿に、少し苦笑した少年は、
口元に人差し指を当てさぁ?と小さく笑った。
『内緒だよ。僕の話をしに来たんじゃないしね。』
「お前が俺を知ってるのに俺は知らないってのはムカつくけどな。
ま、いいや。聞きたい事は他にもあるし。」
『・・・・・聞きたい事?』
「まぁ沢山あるんだけどな。とりあえずまずはコレだけ。
ダイは・・・皆はどうなった?」
あれからどれ位の時間が経過してるのかもわからないけれど。
果てしなく長い時間かもしれないし、
一日とも過ぎてないのかもしれない。
それでも、泣いてないだろうか?
平和を、未来を。
感じる事は出来たのだろうか?
ただそれだけが気がかりだった。
どうか仲間が幸せであります様にと、祈る様に紡がれた言葉に、
目の前の少年は暫し瞬いて。
そうして困った様に苦く笑う。
『世界は平和だよ、でも君の仲間は・・・・・・』
泣いてるんだ・・・・・・
どうして君だけが犠牲にって。
もう一つの。
ダイが犠牲になった時の未来みたいに
君が生きてる希望はないから。
皆泣いてる。
漸く紡がれたその事実に、ポップもまた少しだけ沈黙して。
そうして涙を堪える様に表情を歪めて笑う。
自分の死を嘆いてくれる事が、
悲しくて。
少しだけ、嬉しい。
「・・・・・・・そっか。」
『うん。』
「でも時間が過ぎれば、いつか笑って過ごすだろ。」
全てとは言わなくても時間が悲しみを癒してくれるから。
仲間達は何時までも悲しみに浸るほど弱くはないから。
そう信じているからと笑うポップに、少年は溜息を零しそして再び苦笑した。
その苦笑の中に懐かしい眼差しを感じてポップは眉を潜める。
まだ聞きたい事はある、此処は何処だとか、自分はどうなるのかとか。
苦く笑う少年を前にそろそろ次の質問を投げようとした時、
少年はそれを片手で制す。
待って、と言葉を紡ぐ少年に訝しげな表情を隠さないままポップが見詰めれば。
少年は今度こそ優しく笑った。
『奇跡が起きたんだよ、ポップ。』
「は?」
『10年、君が黒の結晶と共に消えてから10年の時間が過ぎた。
それでも君の仲間は誰一人、君が生きてるかも知れない可能性を捨てなかった。
そして、神々も。君を見捨てようとはしなかった。』
「・・・・・・・あの馬鹿共。10年経っても・・・・・ってはい?
神々まで?」
そいつは流石に予想外だと心底驚いた様な表情を浮べるポップに
少年は肩を竦める。
「俺、すげー犯罪を起こしたんだぞ?未来を変えちまったんだし。
許されるもんじゃないだろ?」
『でもそれは世界を救う為だろう?
時間を戻るなんて反則だけど、最悪の結末を迎えた未来を君は変えた。
それは神様も感謝してるんだ。』
だって竜の騎士はこの世でダイただ一人。
竜の騎士はそれぞれの神が協力して生まれた生命だから、
今天にいる神だけで彼を復活させる事は出来ないから。
神様も感謝してるんだよ。とそう笑う少年に、ポップは漸く納得いった様に嘆息した。
『それで神様は考えた。自分達が力が弱まっている所為で動けずにいた間、
地上を、結果的には天を救った勇者とその仲間達に何かお礼は出来ないかって。』
ヴェルザーを封印したままで力も弱まってるから、
ばらばらに砕けた魂と肉体を再生するのに
10年も掛かっちゃったけどと少年は笑う。
「・・・・・・・俺は生き返ったのか・・・・・・・?」
信じられないと掠れた声で呟くポップに少年は一つ頷いて、
でもと言葉を続ける。
『でもね、肉体を再生するのに時間が掛かっちゃって。君だけあの当時のままなんだ。
10年経って皆はそれぞれ成長してるけど君だけがあの時のまま。
本当は成長させてあげたかったんだけど、それをするともっと時間が掛かっちゃうし。』
ゴメンねと呟く少年に盛大に肩を竦めて、一つ溜息を零してからポップは笑って見せる。
あのまま砕けて消滅すると思っていたのだ。
生き返るどころか魂が残っていただけでも奇跡だと言うのに。
何も謝る必要などないと言うのに。
そんな思いを込めて笑うポップに、少年は少し嬉しそうに頷いて。
そうして遠く切り立った岩山の方向を指差した。
つられる様にポップがその指の指す方向へ視線を向ければ、
幾つかの米粒の様な大きさの人影。
真直ぐに此方を目指すその人影を確認して、
弾かれた様に少年を振り返れば、少年は小さく微笑んだ。
『神様が自分の願いの為に僕を無理矢理再生させるなんて、過去にも例がない奇跡。
本当は僕はまだ眠りについてたんだから。』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前・・・・・もしかして・・・・・・」
あぁ。と漸くわかったとポップは少年に手を伸ばす。
どこかで見た様な、懐かしい気がしたのだ。
その眼が。笑い方が。
知っている気がして。
けれど伸ばされた手は少年に触れる事無く、少年はふわりと宙に浮かぶ。
『だから、奇跡が起きたって言ったでしょ?ポップ。』
「・・・・・・・・お前に助けて貰うのは二度目だな・・・・・」
『あの時の約束憶えてる?』
「俺は死んでもダイを見捨てない。だろ?」
『約束、果たしてね?』
あぁと一つ頷けば少年は満足そうに笑う。
霧の様にさらさらと緩やかに空に消えていく少年に、
ポップはジンと込み上げる雫を噛締め、笑って見守った。
またなと言葉を続けて。
今度は俺が探すから。
10年でも20年でも、ダイと一緒にお前を探すから。
また逢おうと。
そう言葉を向けて。
そうして。
風に乗って聞こえる自分を呼ぶ声に。
彼は微笑んで。
仲間の元へ駆け出した。
END
皆様、拍手ありがとうございます。
この長さはすでにSSじゃねぇなとか思っている姫宮です。
まずは此処まで読んで頂きほんとうにありがとうございますv
もし最終回のあの場面でダイが死んでたら、どうなったんだろうなぁとか考えて
つい妄想が膨らみまくったのが今回の話なのですが・・・・・
ぶっちゃけ捏造しまくりです(笑/今に始まった事じゃない)
本当はポップ君が死んで終わりにしようと思っていたのですが、
死んだままに出来ませんでした;
だって愛してるんだもん!!!!
幸せになって欲しいじゃないですかっ!!!(煩い)
しかも、一応ダイポプのつもりで書いてたのに
ラストなんか、え?ゴメポプ??とか自分で思っちゃったし;
ダイより年下になるし;
予定以上に長くなるし;
もう一本書く予定だった話も書く時間なかったし;
ラストがグダグダな気がするし(それはいつもです)
うっかり気を抜くとキルバーンが良い人になりそうだったし(汗)
それは駄目だろと必死に修正しましたが;
とにもかくにも
いつも以上にダメダメなSSをここまで読んで下さった皆様の忍耐力に本当に感謝でございます。
まだまだ妄想は止まりませんがこれからもどうぞ宜しくお願い致します。
拍手ありがとうございました(礼)
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